照準を合わせる。見つめる先は、早朝から人々が忙しそうに行き来する大通り。 私が狙う対象には、老若男女、身分や財力……そんなもの、必要ない。ただ、ルディ王国の国民であれば、それでいい。 ああ、勘違いしないでほしい。私は、ダリア帝国の兵士でもなければ、テロリストでもない。私は、ルディ王国唯一の新聞社「Lights」で記者をしている、ジャーナリストだ。専門は特になく、政治・経済から人々の暮らしまで幅広く取材し、記事を作っているが、最近はもっぱらルディ王国-ダリア帝国戦争とFIBC大会について、つまり軍に関連した記事に取り組んでいる。こういった類のニュースは早さが命なので、取材後はすぐに記事を書き、各種の施設や街に伝達している。そして、これはいつでも人気だが、有名人についてのニュースも欠かせない。 現在は大会の前半記録を書き終え、しばらくの暇を満喫しているところだ。しかし、プロのジャーナリストにとって、休暇=仕事なのである。ワーク・ライフ・バランスなど存在しない。そこで、今日も私はペンとメモ帳を携えて、街へ向かうのだ。まぁ、朝から酒を飲むのも悪くないだろうが……。 ……む? 通りの反対側にある、あのバーに入っていくのは、確か……光の属性剣士、エアラ・セイントさんだな。こんな朝から飲むのか? 詮索はよくないと分かってはいながらも、どうしても興味が出てしまい、私はそっとバーの中に入っていった。 大通りにあるこの店は、豊富な品揃えと品質の割に手頃な値段から、さまざまな身分・職業の人に愛されている。カウンターやテーブルもあるが、基本的には立ち飲みしてすぐに帰ってしまう人が多い。広い敷地を利用したゆとりのある店内だからこそだ。クリスマスの時期は特に人気である。要予約。(念のため言っておくと、この店は祝賀会の行われた『ティラミス』とは別の店です) おっといけない、店の説明に夢中になってしまった。 まだ人が少ないので、彼はすぐに見つかった。 「朝から飲み過ぎですよ」 「だぁ〜いじょうぶ、まだ〜、一杯しかー呑んでないからなぁーーハハ」 すでにかなり出来上がっている。 「一杯でそうはならないでしょ」 「こう見えてー俺はーー、、酒には強いんだよぉー!」 「やれやれ」 マスターは呆れている。私もまったく呆れているが。そんなことより、(無名のジャーナリストならまだしも)有名な属性剣士がこんな人通りの多いところで、朝から酔っ払っていていいのだろうか? もし先方が良ければインタビューでもさせてもらおうと思っていたが、これは諦めた方が良さそうだ。それよりも、この酔っぱらいを観察するほうがいいかもしれない。喧嘩にせよ、迎えにせよ、ネタになりそうな情報を得られるだろうから。 こうして私の休日は、一人の男の密着取材に費やされることになった。 8:17 セイント氏、三杯目のウイスキー。酒に強いというのは満更嘘でもないようだ。 8:40 今度はカクテル。苺のシロップが入っていて甘そうだ。連続で三杯呑んだら味を変えるという自分ルールがあるらしい。ピーナッツを食べながらひたすら呑む。 9:03 これまた同じように朝から酔っ払っていた大工が絡んでくる。成敗するかと思いきや、肩を組んで歌い出した。大工のほうはフォークギターを弾いて二人で盛り上がっている。(馬鹿馬鹿しいような気がしてきて私は一度帰りかけたが、どうせ暇なのでもう少し我慢することにした) 11:55 まだ呑んでいる。高級品から安物まで片っ端から手を出しているが、呑むスピードは意外にゆっくりだ。もはや何を喋っているのかも分からないほど酔い、呂律が回っていない。 12:28 立ち上がった。そろそろ帰るのか? 私は彼の一挙一動を見つめる。彼は__。 「お前ーー、なぁーに見てんだ?」と言った。 誰に向かって話しかけているんだろうと思ったら、その目は私を捉えていた。もっとも、実際には舌が回っていないので、もっと聞き取りづらい。 見てなんかいませんよ……と軽くシラを切ろうとして、私は絶句した。 その目。 一才の酔いを感じさせない真っ暗な二つの瞳孔が影縫いのように私を射止めているのに気づき、汗が噴き出てきた。この酔っ払い……違う、この剣士は明らかに私を敵とみなしているのだ。 「さては敵の諜報だな? ダリア帝国軍か? BDか? ロベリアか?」 恐怖に駆られて私は叫んだ。 「違う! 私はあなたの情報を漏らそうとなんかしていない! た、確かに観察はしていたが……」 「観察だって?」 いつの間にか、彼は剣を抜いていた。その刃は、薄暗い店内では絶対に得ることができないであろう強い光を集めてきていた。 光の属性剣士……。 「見つかるまいと、ずっと隠れてきた。人目を集めやすい属性剣士である俺が……奴らに見つかるまいと……。だが、隠れるだけじゃない、正面から立ち向かう奴もいる。生まれや育ちがどうだろうがな。いや、諜報ならまだマシだ。もしそれが『見物』ならば__」 彼の剣は実際の何十倍にも膨らんで見えた。彼自身もだ。今や彼は、痛いほどに強烈な光を宿していた。まるでこの世の全ての光をここに持ってきたかのように。 「容赦はしない」 私は恐怖した。 そのとき、バーの扉がバンと音を立てて開き、ひどく慌てたような足音が聞こえた。 「王国軍第二部隊です! 大丈夫ですか?」 王国軍第二部隊は、王国の治安維持、つまり警察と同じような役割を担当する、一般人には最も馴染み深い部隊。事故や人々の諍いにも関わる。 「乱闘が起こっていると近隣の住民から通報がありまして、急ぎ来たのですが……えええええ、⁉︎」 隊員たちは、剣を振りかざした光の属性剣士に動揺していた。 「すみません、まがりなりにも軍の剣士が」 私は、隊員に謝罪された。 「い、いえ、いいんです。私が余計なことをしたのが悪いんですから」 「お詫びにもなりませんが、店の修理費は軍が持ちますので……」 「本当にいいんですって! 私は仕事があるので、これで!」 貰ったばかりの給料を全額渡して店を出ると、入り口の扉の脇にもたれかかっていたセイントさんがボソリと言った。 「ジャーナリストだったのか、俺の誤解だったようだ。悪かったな」 謝られる筋合いはない。 「だが、俺たちにも権利というものがある。生まれもった力のせいで、人間らしい、名前のない幸せを奪われてはかなわないからな」 彼が去ったあとも、その言葉は私の中に残り続けた。 照準を合わせる。見つめる先は、早朝から人々が忙しそうに行き来する大通り。 私が狙う対象には、老若男女、身分や財力……そんなもの、必要ない。ただ、ルディ王国の国民であれば、それでいい。 ああ、勘違いしないでほしい。私は、ダリア帝国の兵士でもなければ、テロリストでもない。私は、ルディ王国唯一の新聞社「Lights」で記者をしている、ジャーナリストだ。専門は特になく、政治・経済から人々の暮らしまで幅広く取材し、記事を作っているが、最近はもっぱらルディ王国-ダリア帝国戦争とFIBC大会について、つまり軍に関連した記事に取り組んでいる。こういった類のニュースは早さが命なので、取材後はすぐに記事を書き、各種の施設や街に伝達している。そして、これはいつでも人気だが、有名人についてのニュースも欠かせない。 現在は大会の前半記録を書き終え、しばらくの暇を満喫しているところだ。しかし、プロのジャーナリストにとって、休暇=仕事なのである。ワーク・ライフ・バランスなど存在しない。そこで、今日も私はペンとメモ帳を携えて、街へ向かうのだ。まぁ、朝から酒を飲むのも悪くないだろうが……。 ……む? 通りの反対側にある、あのバーに入っていくのは、確か……光の属性剣士、エアラ・セイントさんだな。こんな朝から飲むのか? 詮索はよくないと分かってはいながらも、どうしても興味が出てしまい、私はそっとバーの中に入っていった。 大通りにあるこの店は、豊富な品揃えと品質の割に手頃な値段から、さまざまな身分・職業の人に愛されている。カウンターやテーブルもあるが、基本的には立ち飲みしてすぐに帰ってしまう人が多い。広い敷地を利用したゆとりのある店内だからこそだ。クリスマスの時期は特に人気である。要予約。(念のため言っておくと、この店は祝賀会の行われた『ティラミス』とは別の店です) おっといけない、店の説明に夢中になってしまった。 まだ人が少ないので、彼はすぐに見つかった。 「朝から飲み過ぎですよ」 「だぁ〜いじょうぶ、まだ〜、一杯しかー呑んでないからなぁーーハハ」 すでにかなり出来上がっている。 「一杯でそうはならないでしょ」 「こう見えてー俺はーー、、酒には強いんだよぉー!」 「やれやれ」 マスターは呆れている。私もまったく呆れているが。そんなことより、(無名のジャーナリストならまだしも)有名な属性剣士がこんな人通りの多いところで、朝から酔っ払っていていいのだろうか? もし先方が良ければインタビューでもさせてもらおうと思っていたが、これは諦めた方が良さそうだ。それよりも、この酔っぱらいを観察するほうがいいかもしれない。喧嘩にせよ、迎えにせよ、ネタになりそうな情報を得られるだろうから。 こうして私の休日は、一人の男の密着取材に費やされることになった。
8:17 セイント氏、三杯目のウイスキー。酒に強いというのは満更嘘でもないようだ。 8:40 今度はカクテル。苺のシロップが入っていて甘そうだ。連続で三杯呑んだら味を変えるという自分ルールがあるらしい。ピーナッツを食べながらひたすら呑む。 9:03 これまた同じように朝から酔っ払っていた大工が絡んでくる。成敗するかと思いきや、肩を組んで歌い出した。大工のほうはフォークギターを弾いて二人で盛り上がっている。(馬鹿馬鹿しいような気がしてきて私は一度帰りかけたが、どうせ暇なのでもう少し我慢することにした) 11:55 まだ呑んでいる。高級品から安物まで片っ端から手を出しているが、呑むスピードは意外にゆっくりだ。もはや何を喋っているのかも分からないほど酔い、呂律が回っていない。 12:28 立ち上がった。そろそろ帰るのか? 私は彼の一挙一動を見つめる。彼は__。 「お前ーー、なぁーに見てんだ?」と言った。 誰に向かって話しかけているんだろうと思ったら、その目は私を捉えていた。もっとも、実際には舌が回っていないので、もっと聞き取りづらい。 見てなんかいませんよ……と軽くシラを切ろうとして、私は絶句した。 その目。 一才の酔いを感じさせない真っ暗な二つの瞳孔が影縫いのように私を射止めているのに気づき、汗が噴き出てきた。この酔っ払い……違う、この剣士は明らかに私を敵とみなしているのだ。 「さては敵の諜報だな? ダリア帝国軍か? BDか? ロベリアか?」 恐怖に駆られて私は叫んだ。 「違う! 私はあなたの情報を漏らそうとなんかしていない! た、確かに観察はしていたが……」 「観察だって?」 いつの間にか、彼は剣を抜いていた。その刃は、薄暗い店内では絶対に得ることができないであろう強い光を集めてきていた。 光の属性剣士……。 「見つかるまいと、ずっと隠れてきた。人目を集めやすい属性剣士である俺が……奴らに見つかるまいと……。だが、隠れるだけじゃない、正面から立ち向かう奴もいる。生まれや育ちがどうだろうがな。いや、諜報ならまだマシだ。もしそれが『見物』ならば__」 彼の剣は実際の何十倍にも膨らんで見えた。彼自身もだ。今や彼は、痛いほどに強烈な光を宿していた。まるでこの世の全ての光をここに持ってきたかのように。 「容赦はしない」 私は恐怖した。 そのとき、バーの扉がバンと音を立てて開き、ひどく慌てたような足音が聞こえた。 「王国軍第二部隊です! 大丈夫ですか?」 王国軍第二部隊は、王国の治安維持、つまり警察と同じような役割を担当する、一般人には最も馴染み深い部隊。事故や人々の諍いにも関わる。 「乱闘が起こっていると近隣の住民から通報がありまして、急ぎ来たのですが……えええええ、⁉︎」 隊員たちは、剣を振りかざした光の属性剣士に動揺していた。 「すみません、まがりなりにも軍の剣士が」 私は、隊員に謝罪された。 「い、いえ、いいんです。私が余計なことをしたのが悪いんですから」 「お詫びにもなりませんが、店の修理費は軍が持ちますので……」 「本当にいいんですって! 私は仕事があるので、これで!」 貰ったばかりの給料を全額渡して店を出ると、入り口の扉の脇にもたれかかっていたセイントさんがボソリと言った。 「ジャーナリストだったのか、俺の誤解だったようだ。悪かったな」 謝られる筋合いはない。 「だが、俺たちにも権利というものがある。生まれもった力のせいで、人間らしい、名前のない幸せを奪われてはかなわないからな」 彼が去ったあとも、その言葉は私の中に残り続けた。 原作 @dragon-k様 〈他の作品が見れるとこ〉 https://scratch.mit.edu/projects/1000414988