暫しの放心。 (…) (……) (……………) (…おっかしーな~~~~~~~ 私令和の中学二年生だった筈なんだけど… …いつの間に10歳になったばかりのような平安時代風の幼女に?) と、いうよりそもそも…ここは本当に何処なのだろうか? 明らかに紫央奈の予測を超える出来事だ。自演なんて以ての外。 詰まるところ、当然といえば当然だが…これは紫央奈が全く知らないところで他人の手によってつくられた“奇妙なこと”なのである。 誰かの陰謀なのだろうか? 可能性をあげるならいくつかある。 (映画のセッティングとか?) しかし紫央奈はそんな業界とは何の縁もない。 (なら…一般人を対象にしたドッキリ?) よくテレビではやっているが…妹の仕業か?奴がこっそり仕掛けたのか?あの小娘ならやりそうだとは思うが… (見たところ何処にもカメラが仕掛けられていそうな感じはない) なればどうしてここにいるのか。 (……ちぃが私を喜ばせるためにサプライズでそういうセッティングのあるところに寝ている私を業者を使って運んでもらって…) ……非現実が過ぎる。そもそも本来今日は学校がある。 だとすれば? そう、あと一つだけ考えられることはあるのだ。 あるいは… …… (…認めたくはないけど…やはりもうこれしか…) 紫央奈が、今。 本当に平安時代にいるということ。 (いやいやいやいやいやいや) それこそ非現実が過ぎるものだ。馬鹿も休み休み言い賜へレベルだ。そう、有り得ない。有り得ないのだ。 だというのに。 なぜこんなにも現実味を帯びているかといえば、ここの空気感だ。 現代では再現できなさそうな造り達が…そこかしこに。 (あ、絵巻物。) 絵の具の色は本当はこんなだったのか。 って違う違う違う。 遠くから聞こえる牛車の音。 草の香り。 電子という単語の無い時代。 そんな言葉に冗談味を身を帯びさせない、言葉では表現しにくいその時代ごとにある独特の空気。 (……こーれーはー) そう、この感情を一言で表すのならば… いっつ あ ぱらだいす。 (信じ難し!でもこれはきっと紛れもなく平安の世だ!!うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!) 気持ちを表すならルパンダイブだ。 もちろん飛び込む相手は平安時代そのもの。 (どうやって元の世に帰ればいいかわかんないけど!!でも!!どうせなら今のうちに堪能した方がいいはず!!楽しんだもん勝ちだよバーロ!!!!!) 頭のたがが外れる音が聞こえた。 なんだかリアルにルパンダイブしたい気分になってきた。 手のわきわきが止まらない。 手始めにそこの几帳に頬ずりしがてらやるか。 屈伸をしてから、お決まりのポーズをとり、さすがに脱がないけれど、いざゆかん。 (そぉいっ) 跳んだ。 心だけは。 (うぶぁっ!?) 足を地面から離すことすら叶わず、エネルギーを持った全身はそのまま勢いよく前のめりになり、そしてこけた。 畳の方に顔が擦れて当たり、地味に痛い。 …顔をさすり、離した手が視界に入って気づいた。 (……嗚呼) そこにあるのは、小さくてか弱い幼女の手。 跳んだのは小さな子供。 そう、“小さな”… 紫央奈の軀では無いのだから。 大きな問題はここにある。 (私、今“私”じゃ無いんだよ、ね) ここは国風文化の栄える平安の世。 そして彼女は、母を亡くした幼い姫君なのだった。