天野、サッサと付き合え。 天野を殺すな。殺したら許さんぞ。
午後8時35分。 決行の時間だ。俺は隣のベッドを2回ほど叩く。すると、天野はさっきまですうすうと寝息を立てていたくせに面白いほど早く起き上がった。 彼女は「睡眠は大事だっての、この馬鹿」と言っていたが、あんな夢を見て潔く寝れるわけがない。というか、最後の一言は余計だ。 できるだけ静かに天野の左足を蹴ると、低いうめき声が聞こえた。してやったりと言う笑みを浮かべたが、電気の消えた部屋の中では効果はあまりなかったようだ。 「行くぞ」 「分かってるよ…こっち」 「な…前見えないからどっちかわかんねえよ」 どこかの方向を指さしているのだろうが、生憎視界が悪くて見えない。しかし困った、このままでは脱獄はおろか部屋から出ることすらできないかもしれない。 …なんて思っていたら、手に小さなぬくもりが宿った。 「ほら、手、繋いであげるから。いくよっ」 「…な…ぅぁ……わ、わかった……」 俺だって腐っても思春期真っ盛りの男だ。急に異性に手をつながれたら…ドキッとするだろう。この気持ちは、そういうのじゃない。そう自分に言い聞かせてドアをくぐる。 「ここを左に曲がって…うわっ、幽霊うじゃうじゃいるじゃん…なんで?」 「うわ、おま、そういうこと言うなよ…」 「ビビってんの?」 「お前こそ声震えてるぞ?」 ウーッと威嚇しあう。ただふるふると震えている天野の手に、さっきの熱がぶり返してきて、「さっさと行こうぜ」と、速足で左に回った。 「―――――ストップ」 急に小さくなった声。顎をしゃくった彼女の目線を見ると、警備員がふたり。ここで騒ぐのは名案じゃない、と俺たちは声を潜めて物陰に隠れた。