転載:flat様から Adagio ♩=50 バスクラリネットなどの木管低音による空虚五度、そのなかへしっとりと流れ込むクラリネットの穏やかな歌い出しによって、曲は幕を開ける。 トライアングルの一打を経て、旋律はフルートやオーボエをはじめとする高音楽器を加えてより厚みを増していき、バリトンサックスらのオブリガードとともに海への賛歌を歌い上げる。 やがて、リタルダンドの緩まりを挟んだ曲はテンポをほんの少しだけ巻き上げ(♩=60)、トランペットをはじめとする高音域の金管楽器やサックス、ホルンらの中音域のフレーズが、これから始まるであろう航海に向けて大きな期待を寄せていく。 第2主題 Piu mosso ♩.=112 8分の6拍子 北大西洋を渡り、ニューヨークを目指して航海を続けるタイタニック号の船上での出来事を、一枚一枚の「手紙」のように綴(つづ)っていく。 タンバリンによって提示されるリズムとともに曲調はがらりと変化し、装飾音符を効かせた木管楽器とボーラン(アイルランドの打楽器)によって、軽快な北欧系の民族舞踊風のメロディが奏でられていく。ホルンらによる力強いオブリガードも流れ込んでさらなる盛り上がりを見せると、ピッコロなどの木管楽器が橋渡しを行いながら次第に静かな雰囲気へと切り替わっていく。 ♩=72の穏やかなテンポの上で、ファゴットとバスクラリネットのユニゾン、オーボエやクラリネットをはじめとする木管楽器群がワルツ調のフレーズを歌い継ぎ、豪華客船の優雅な航海の様子を描きながら緩やかに終息を見せていく。 Adagio ♩=60 静まった雰囲気のなか、ホルンとアルトサックスのフレーズが柔らかく響き渡り、その余韻をたどるようにクラリネットが暖かみのある中音域で旋律を紡いでいく。 やがて旋律はピアノの伴奏を伴ったフルートのソロに移り、家族への気遣いや航海の安全を祈るマードックの優しさが垣間見えるような美しい調べを響かせていく。 シップスベルが打ち鳴らされ、航海が順調に進んでいくように思われていたその矢先、不穏と危難の兆候が終息の和音のなかから顔を覗かせる。 第3主題 Allegro ♩=144 4分の4拍子 金管楽器の不協和音とトランペットの激しいメロディにより、突然のアクシデントの発生と混迷する船内の様子を描く。 静寂を打ち破ったパニックは瞬く間に曲全体を支配し、タムのリズムとシンバルの強打に乗ってアップテンポのメロディが大混乱の様相を呈しながら襲いかかっていく。 やがて、体制を整えたマードックをはじめとする乗組員は乗客たちの避難誘導を開始し、刻々と迫る沈没へのタイムリミットに駆られる様子を確固としたスネアドラムのリズムとクラリネットの正確無比なフレーズの掛け合い(Poco Meno Mosso ♩=136)によって表していく。 その流れがタムによる激しいリズムの提示を残していったん途切れると、スネアドラムを引き連れたホルンの力強いフレーズが代わって現れ、徐々に船尾を持ち上げながら沈み始めるタイタニック号の姿を示す。アッチェレランドの指示による目まぐるしい展開で緊張感はピークに達し、最後に残された低音楽器とフルートがタイタニック号の沈没によるすべての終焉(しゅうえん)を暗示する。 第4主題 ♩=60 4分の4拍子 ピアノのソロによる海の泡の描写、深く暗く沈み込んだムードのなかから、フルート、クラリネット、ホルンらによる静かなフレーズが現れ、タイタニック号の悲劇に立ち会った人々の万感の想いを優しくかつ力強く込めて歌いだす。その時々にオーボエやトランペット、アルトサックスなどのさまざまな楽器のソロを織り交ぜながら歌われるメロディは、去りし人々に対する哀悼(あいとう)、そしてそれを受け入れて前を向こうとする各々の想いの強さを秘めながら盛り上がっていく。 やがてクレッシェンドとともに冒頭の主題が再現され、高らかに響き渡るファンファーレ、大らかに力強く奏でられるメロディがマードックたちの”最後のメッセージ”を綴っていき、満ちあふれる想いを輝かしく放ちながらエンディングへと突き進んでいく。
就航直前の4月8日、マードックは妹のペグに宛てて手紙を出しています。 「・・・私は出港日までは航海士長だが、そのあと一等航海士に戻る。これがあんまり長くなければ良いんだが。事務局長がリバプールからやってきて、(異動の説明をして)、ワイルドが(オリンピックに)戻った後再び私が航海士長になると約束をしてくれた。・・」 そして火夫達がストライキをおこして石炭の積み込み等の乗船準備が大変だった事、ペグの旅行(この時期はイースター:復活祭の休暇中)の事、ちょうどその日妻のエイダが船内見学にやってきた事、そして最後は両親(特に病気療養中の母親に)や兄弟に対する暖かい気遣いで締めくくられています。 乗船準備が完了し、タイタニックは4月10日いよいよサウサンプトンを出港し、フランスのシェルブーンに寄港します。 4月11日、クイーンズタウンに寄港する直前、マードックは今度は両親に宛てて手紙を書いています。サウサンプトンでタイタニックが、米国定期船ニューヨーク及び自社のオーシャニックと危うく接触しかかった出来事、エイダとの別れ、ストライキの影響、そして両親の健康に対する丁重な心遣いで締めくくられています。仕事に関する気遣いから身の回りの出来事まで、さまざまな話題に触れた彼の手紙からは、彼が非常に有能な航海士であったこと、同時に彼がとても愛情深い家族想いの人物で、筆まめであったことがうかがえます。