〈インタビュー開始〉 えっと、まず自己紹介かな。降園椋寧っていいます。今日はよろしくお願いします。貴方が聞きたいことって、《削除済み》のことですよね?やっぱり。大丈夫です、あいつのことは俺も忘れられませんから。 〈数秒の沈黙〉 ……あいつは所謂エリートってやつでしたよ。子供の頃から色々やってたらしくて、ほんともう万能っていうか、やれって言われたことは平均以上にできてました。あと凄く、なんというか綺麗で。男なんですけど美しい?みたいな。そんな言葉が似合うやつでした。まつ毛とかすげぇ長いし、髪もサラッサラだしなんか良い匂いするし……なんでそんなやつが便利屋の皮被った風俗店で働いてたのかは謎ですけど。まぁ色々事情とかあったんでしょうね、家族と仲良くないって聞いたんで。 〈深呼吸〉 正直な話、《削除済み》と仲良くなったのは下心もあったんです。あいつの実家、すごい大きくて。コネ作れたらいいなー的な。話そうとしたら驚きましたよ、あいつ入社式のパンフレットで折り鶴折ってたんです。しかもすっごい小さいの。新入社員なのにそんなことする?って。それで喋りかけたらめっちゃ睨んでくるんですよ。邪魔すんなって。そういう意味わかんないとこに惹かれたんですかね、最初は話しかけても無視か暴言吐かれるだけだったんですけど、しつこく付きまとってたらいつの間にか一緒に飯とか食うようになってて。あと他の同期が皆いなくなったってのもあって、仕事は大体一緒にやってました。まぁ俺のミスを《削除済み》がカバーするみたいな感じでしたけど。あいつ意外と、って言ったら失礼だけど、面倒見が良いんです。後輩にも、ジュース奢ってたりしてました。誤解されやすいけど、あいつ、本当に優しいんですよ。 〈嗚咽〉 今なら言えますけど、俺ね、《削除済み》のこと好きだったんです。多分、あいつも俺のこと好きだったと思います。二人共口には出さなかった。怖かったんです、拒絶が、周りからの軽蔑が、怖かった。だから言わなかった。本当に馬鹿だったんです、俺もあいつも。あのときはそれで良いって、思い込むようにしていました。後悔してます、俺は自己保身に走って、あいつの本心を見つけてやれなかった。だから報いを受けたんです。俺、目のとこ包帯巻いてるでしょ?これ、眼が無いんです。眼球がまるまる全部。もう俺は、あいつのことが一生わかんないんです。あいつが俺から離れようとしても、俺は追えない。あいつから歩み寄ってくれなきゃ、触れることもできない。あ、でも、眼を失ったのって悪いことばっかりじゃないんですよ。俺の眼は、あいつを呪ってくれた。だからあいつはもう俺から逃げられない。あいつは優しいから、罪の鎖で雁字搦めになってるんです。 〈沈黙、時折荒い呼吸音が聞こえる〉 違う、違うな。申し訳ありません。あいつは逃げられないわけじゃない、逃げないだけなんです。あいつなら罪悪感なんて切り捨てて、俺を置いていく程度簡単にできるのに。あいつはそれをしなかった、いや、今からだってできるはず。あいつなら俺がいなくたって上手くやっていけます。なのに、選ばない。まだあいつは選択していないだけなんです。俺は、あいつが選んだ道を、受け入れなきゃいけない。なのに、あいつの優しさにどこまでも甘えて、どうしようもない屑なんです、俺は。 〈上ずった笑い声〉 だから、俺はね、あいつの選択肢の中にいないと。役に立てる人間じゃなきゃ駄目なんです。貴方は踏み込みすぎた。どうして俺に《削除済み》のこと、聞こうなんて思ったんですか?あ、答えなくていいですよ。知ってたんですよね、俺があいつの声を奪ったこと。そうです、全部俺のせいなんです。 〈破裂音、その後粘着質な水音が響く〉 今日貴方が俺のところに来てくれたのは好都合でした。《削除済み》のこと嗅ぎ回ってるやつがいるって聞いて、後で始末するつもりだったんですけど。まさかネズミの方から、罠にかかってくれるなんて。貴方は知ってしまった。たったそれだけの事。本当に申し訳ありません、ごめんなさい、ごめん…… 〈謝罪と思われる不明瞭な発言が続く〉 俺は誰に謝ってるんだろう?貴方?それとも《削除済み》?わからない。まぁ、いいか。貴方はもう助かりませんから。もう聞こえてすらないだろうし。うん、ごめんな《削除済み》、あんな事しちゃって、本当にごめん、ありがとう、一生愛してる。 〈インタビュー終了〉
この文章は《削除済み》に行われた降園 椋寧さんのインタビュー音声を文字に起こしたものです。 なお、取材を担当した《削除済み》記者は、この直後遺体となって発見されました。 降園 椋寧さんの行方は未だに判っていません。