〈インタビュー開始〉 どうもこんにちは。宮里祐榎と申します。本日はよろしくお願いいたします。今回のインタビューは《削除済み》の件ですよね?大丈夫ですよ、あいつのことはちゃんと覚えていますから。 〈筆跡が少し乱れる〉 《削除済み》は、とにかく明るい奴でした。人の懐に入るのが上手いんですかね、初対面の企業に手ぶらで入っていって、情報とか盗ってくるタイプの人間でした。容姿も幼いと言いますか、男なのに愛嬌がある、という感じで。こんなこと言うと叱られるんですけど。腰とか女みたいに細いし、声も耳に馴染むし、花で例えると鼓草みたいな奴でしたね。過去に色々あったらしくて働ける場所がここしかなかったみたいですけど、本来ならこんな入社したら最後の地獄みたいな職場にいるような奴じゃないんです。 〈ぐちゃぐちゃと何かを消した痕〉 初めて会話したときの印象は最悪でした。折り鶴を折ってる最中に話しかけてきたので。そのうえスーツもぐちゃぐちゃで、学がないんだなって内心見下してました。その後もしつこく絡んできて、こいつも始末しようかって本気で考えたこともありましたね。でもいつの間にか、こんな私と会話をしてくれるという所に絆されていたのかもしれません。気付けば職場にいるほぼすべての時間を共有することになりました。同期もあいつだけになりましたから、任務も殆ど一緒に行動して。まぁ情報収集は後処理は《削除済み》に任せて、私は標的の殲滅をすることが多かったですけど。あいつ、細かいミスは多いけど人脈が広いんですよ。甘え上手なんですよね。見た目とは違って、と言ったら悪いですけど、ちゃんと引き際も弁えてます。先輩にも敬意を払って行動してるし。第一印象より、ずっと真摯な男なんです。 〈文字が大きく歪み、滲んでいる〉 今だから伝えられることですが、私は《削除済み》が好きでした。多分あいつも、私のこと好きだったんです。でも、私達はそれを確かめなかった。怯えてたんです、嘲笑を、あいつからの拒絶を、恐れた。だから聞こうとしなかった。本当に愚かですよね、私もあいつも。当時はそれでいいと、お互いに思っていたはずです。でもそれは間違いでした。私は自分の弱さのせいで、あいつの愛を信じてやれなかった。だから罰が当たったんです。今回筆談でお願いしたのは、私の声が出ないからなんですよ。声帯が全部無くて、唸り声一つすらあげられない。もう私は、一生あいつに伝えられないんです。愛の囁きも、謝罪も。制止のための言葉すら、あいつには届かない。私があいつに何か伝えてやるには、あいつの近くにいてやるしかないんですよ。あ、それでも、声を無くしたことは全てが悪い方向に行ったわけじゃないんです。私の声はあいつを縛り付けた。だから《削除済み》は、もう何処にも行けません。あいつは良い子ですから、首輪を外すことなんてできないんです。 〈筆跡が崩れ、文字の大きさが不規則になり始める〉 もう嫌なんです、あいつが虚空に向かって私の名前を呼んでいるのを見るのは。一人きりの部屋で、誰かと会話しているのを聞くのは。《削除済み》が《削除済み》でなくなっていく様が私は耐えられなかった。だから私は、あいつの側から離れないと決めたんです。勿論あいつのことを見捨てて何処かに行くことも、私にはできるはずです。でも、その結果、あいつが壊れてしまったら。私は正気ではいられないでしょう。ただの醜い独占欲です、嘲ってもらって構いません。私はあいつの弱みにつけ込んでいるだけの、救えない塵なんですから。 〈紙に皺が寄っている〉 だから私は、あいつに「優しい」と思われていなきゃだめなんです。態々あいつの側に寄り添ってやれる、慈愛の心を持った人間でいないと。貴方は知りすぎました。何故《削除済み》のことを私に直接聞こうなんて考えたんですか?大丈夫ですよ、もうわかってます。あいつの眼は私が奪いました。貴方の推測通り、全部私のせいなんです。 〈細かな血飛沫が付着している〉 貴方が今日ここに来たのは予想外でした。私と《削除済み》の過去を聞かなければ、貴方は真相にたどり着くことが出来なかったでしょう。そして、今ここで死ぬこともなかったというのに。貴方は踏み込みすぎてしまったんです。ただそれだけの、単純なことですよ。真実を知ってくれて、本当にありがとうございました。 〈判読不能の文字列、殆どが血で滲んでいる〉 私はこれまでの文章を一体何のために書いていたんでしょうね。貴方のためか、それとも私自身のためなのか。まぁ、もうどうでも良いことです。少なくとも、貴方はここから先を読むことはできないでしょうから。ありがとう、《削除済み》、こんな事になるなんて、本当に感謝しています、ごめんなさい、ずっと好きだった。 〈インタビュー終了〉
この文章は《削除済み》に行われた宮里 祐榎さんのインタビューの際、使用したメモに書かれていた文章です。 なお、取材を担当した《削除済み》記者は、この紙を持ったまま遺体となって発見されました。 宮里 祐榎さんの行方は未だに判っていません。