“ グランドキャニオンから回収された文書 ” ―――――――――――――――――――――――― 一日目 ふと書き残さなければならないと思った。この現状をただ何もせずに眺めるよりかは、せめて人類に役立つかもしれない情報を後世に残すべきだろうと考えたからだ。しかし、だからといって何から書き始めたら良いのかが分からない。全世界に「SCP財団」とやらが宣戦布告したときからかなのか、その布告が事実なのか分かったときなのか、もしくはその実態を目の当たりにしたときからだろうか。それどころか自分は今どうすれば良いのかもわからない。もしかしたらこうして文書を書いているのもこの惨状から目を背けるためなのかもしれない。 ともかく、私はこれから起こる事柄を記録する必要がある。全てが終わった後に人々が今日の出来事を永久に忘れないために。世界を無駄死にさせないために。我々を、忘れさせないために。 (Remember us.) ―――――――――――――――――――――――― 二日目 数え切れないほど眠れない夜を過ごしてきた。目を瞑ると幾千の死んでいった人々が見えるから。 目の前で死んでいった人たち。酷く痩せ細った青白い人や肉塊へと変貌した人によって喰い殺されていった人々が。 もはやここも荒原とかしてしまった。道の脇には数え切れない程の死体の山が作られ、今にも崩れ落ちそうなほど鉄骨が剥き出しのビル群に、防波堤が決壊しコロラド川から、水や別の地域から流入してきたゴミや死体が街中に広がった。 すべての始まりはネットでの記事だった。 1月の2日?だった気がする。一斉に、しかも同じ人物が各国の首脳を暗殺したというネット記事が拡散された。勿論ガセだと思ったが、ニュースを見る限りでは残念ながら本当なんだそうだ。 しかしニュースはそんな事気にしていなかった。とある一つの団体が今回の出来事を予見していたからだ。事件が起こる前に政府や報道機関にとあるメッセージを送付していた。もちろん悪戯だと思っていたらしいが、送られてきた直後に事件が起こったものだから関連性が皆無ではないはずと考えたらしい。 その団体の名前は覚えている限りでは「SCP財団」だった気がする。ネットもダウンしているから確信はないが、恐らくそうだったはず。保証はしない。 話を戻すと、送付された文章を政府は公開しなかったが報道機関が公開した。政府は対応に間に合わず最終的に文章の存在を認めこの文章が今回の事件の犯人だと明かした。 世界中にその(SCP財団)名前が入った装備を身に着けた機動隊がおり、人を見つけては無差別に殺人を繰り返しているらしい。それも大量に。 私はニュースを通じてその機動隊の様子と送付された文章を見た。機動隊には近づかずにと言っていた。文章に関しては根絶だとかなんとかと、あまり良い内容ではなかった。 その後にすぐテレビもネットもダウンした。俺だけじゃなくて近所の人たちもそうだったからきっと世界中でもダウンしているんだろう。そう勝手に思ってる。 これらの濃密な出来事がほぼ1日で起こったことが信じられない。3ヶ月という長い期間 情報を整理し、やっとの思いでこの文章を書いている。 頭がクラクラする。 少し休む。 ―――――――――――――――――――――――― 三日目 よく眠れた。嘘だ。変な夢を見た。悪夢ではないが明らかに変ではあった。夢の中で男にあった。 あまりにも変だったものだったし、重要な気がするから見たこと聞いたことをそのままここに書き綴っておこうと思う。 まず、ふとしたらビジネススーツを着た男が椅子に座っているのを目にした。その男は荒廃した世界を眺めており、なぜだか分からないが私はその光景を見ても何も思わず夢であることを直感した。私は彼に名前を尋ねた。すると、彼はトニーと名乗った後に気が変わったといい、リチャードと言った。 彼の頬には汗が滲んでおり、それについて訊くと彼は焦った様子で「まずいことになった」と言い、現状を説明してきた。 だが、彼の言ったことは実に奇妙だった。今回のSCP財団による事件によって戦術核ミサイルが使われ人類の98%が死滅すると。そしてこれは既に始まっていると。 SCP-169に核が落とされ沿岸地域は全滅。 SCP-1678で核が爆破され避難民は全滅。 SCP-3199を破壊するべく核を政府が投下、効果なし。 私はそれらが何なのか知らないし、事実なのかも分からないがこの現状だったらあり得ると思った。 その旨を伝えたら彼は笑い、「紛れもない事実だ。」と言った。 私は次にSCP財団とは何なのかと訊いた。すると彼は静かに、しかし不服そうに「蜥蜴如きに屈した奴らさ。」と答え、彼は「そろそろいいだろう」と言った。 彼が立ち上がり、しかしずっと景色を眺めながら此方に向かって話した。「全てのものを失った後に何でもできる自由が手に入る。君の最後の日々を楽しみたまえ。」と。私が君はどんな事をして最後の日々を過ごすか訊いたら彼は哀しそうにただただ「愛されていたい」とだけ呟いた。それは私に向けてではなく、遠くにいるものに向けて言ったかのように聞こえた。 最後に「鳥の鳴き声だね」と彼は言い、直後に私は飛び起きた。 鉄筋むき出しの天井とコンクリート。 大量のガラスと錆びたパイプが転がっている。 壁には大きな罅が入っており、窓は割られ陽射しが窓の形にそって縦長に伸ばされていた。 少し、楽観的に生きていこうと思った。 外では、鳥が息絶えていた。 ―――――――――――――――――――――――― 四日目 昨日、夢の話をしたせいで忘れていたが壊れた神の教会とやらが一部の地域でインターネットを普及したらしい。お陰で様々な情報を手に入れた。 まず、イエローストーン国立公園が噴火したらしい。変な星型のマークの団体がこれで騒いでいたがなぜかは分からなかった。 難民キャンプも崩壊してテディベアが街を破壊しているような嘘みたいな映像も見た。変だと思ったら2つは3ヶ月くらい前の映像だった、つまりとっくにもうその街は存在していないということだ。 あと、カルフォルニア州の生存者の社会性を崩したとかなんとか。もうそれに関しては心配無用らしい。 そして最も驚いたのは、夢に出てきた男の話が本当だったことだ。実際にそのような事実はあったし、それにより大量の死者が出ていた。 もっとも、聞いた話より現実は悲惨だったが。 しかし、そこまで情報を見たとこで一旦見るのをやめてしまった。来客が来たためだ。名をブライトというらしい。首飾りを付けており、生存者を見かけて寄ってきたと。 彼女に一緒してもいいかな?と言われたので、大量の割れたガラスを指さした。彼女は笑ってそのジョークを気に入ってくれたが、残念なことに自分ですら今のはつまらないと感じた。 彼女は椅子を持ってくると座り、此方を見つめてきた。 私は彼女にネットで見た情報をそのまま伝えた。すると、彼女はSCP財団についてなにか知っているか?と訪ねてきたが私はもちろん首を横に振った。なぜそんな事を訊くのかと言おうとすると、「私は知っている」と言った。私は動揺し、同時に彼女に何者なのかを訊いた。 どうやら彼女は首飾りのせいで財団から逃れられたらしい。私はその首飾りが何なのか訊いたが、彼女は答えなかった。別に盗む意図なんかないのに。 そこから暫く無言が続いたが、突然彼女は「ガンジルが陥落したのは知ってるか?」と訊いてきた。私はノーと答えたが、彼女は良かったとばかりにニヤけた。その理由を訊くと「あんな事知るべきではない」と。 彼女は次にテレビは見たか?と。もちろん私の今いる場所は化け物から逃げる末にたどり着いた宝石店なわけだからテレビなどあるわけなく、再び首を横に振った。 彼女曰く、ロボットが世界征服を語っており、面白かったらしい。彼女はその様子を真似したが、私はそれより彼女がSCP財団に関与している事に引っ張られ、口角は一ミリも上がらなかった。 今思えば確かにその姿は滑稽で可笑しかったが、彼女はそんな事知る由もなく、ただ「あぁ、君はびくとも笑わないな」と言われた。 私が「すまない」と言うと、「気持ちは分かる。まぁ気にしないでくれ。」と言われた。寧ろ苦しかった。 君は行く宛があるのかと訊かれた。死ぬまでここに立ち往生しようと思っている事を言おうとしたがやめた。昨日のことを思い出した。もっと楽観的に最後の瞬間を過ごしたいと思った。 冒険したい。ここに留まり、世の中の現状を何も知らずに空を見上げるのと冒険をし、色んなところに行って空を見上げたほうがきっと美しい景色を見られる。化け物に喰われるとしても、あの世に逝くならその美しい景色を見ながら逝きたい。 その事を彼女に伝えると、「それは良いプランだ。応援してるよ」と言われた。 彼女はこの宝石店に残るらしい。薪はあるかと訊いてきたから。どうやらキャンプをするらしい。火をつけることができてもすぐ消えると伝えると彼女はお酒を見せつけてきた。少し笑えた。 その後、ネットを確認したらまたもやダウンしていた。しかたなく、今日もこの文書を書いた。ただそれだけ。人に会えたのは嬉しかった。 終わり。 もう日も暮れそうだし、この一文を書き終わったらもう出ようと思う、グッバイ ―――――――――――――――――――――――― メモとクレジットへ
“ グランドキャニオンから回収された文書 2 ” ―――――――――――――――――――――――― 五日目 ブライトに別れを告げてから、久しぶりに店を出た。ずっと化け物に怯えてあそこに留まっていたから、外に出たときは気分が良かった。だが、悲しいことに暫く歩いてから事の無謀さに気づいた。化け物はすぐそこにいたし、何より夜じゃなくて朝に出るべきだった。すぐ側にもう化け物がいるんじゃないかと思うと鳥肌が立ってくる。 結局助かったし寝床も見つけた訳だが、その道中にちょっとしたハプニングがあった。SCP財団の兵士を見かけてしまった。どうにかバレずに逃げ切れたが、その途中で転んでしまった。あたり場所が悪く、頭を打ってしまった。といってもおでこだから良かったんだが、やっぱり血が止まらない。 だが、このまま死ぬなら化け物に殺されるよりかはマシかもしれない。 頭を止血して休まなければならない。その後にまた出る。 疲れた。 ―――――――――――――――――――――――― 六日目 文では伝わらないだろうが結構今ムカついている。想定以上に休みすぎた。少し寝るつもりだったんだが、日を越した。寝不足だったかな。あぁ、最悪だ。 私の皮膚を暖かい液体が傳っている感じがする。鉄臭い。まだ止血していないのか? 落ち着こう。キツイ。 反省した。もう絶対危険は冒さない。もう出たくない。 ―――――――――――――――――――――――― 六日目 二回目の六日目だ。ここに来てから(来る前も)ずっと暇で暇でたまらない。唯一このいらない時間を潰すことができるのはこの日記だけだ。 何か適当に書いていこうと思う。ただし化け物に見つからないようにな。 今はスーパーみたいなところに野宿している感じだ。もし化け物に見つかってもまぁ多少は撒くのには適しているだろう。 ただ、ずっとここで生活したくはないな。余った食べ物が腐っていてとても鼻では呼吸できない。食欲も失せる。とっとと家に帰りたい。ただし今の現状では危険すぎるから、いつの日か事件が収束してからだ。家族とハグをして一緒に飯でも食いたい。生きてたらな。 もしかしたらこの夢も儚く散ってしまうのかな。まさかこのオンボロスーパーで飯もマトモにおいていないここでこれから死ぬまで居座り続けるなんて。流石に助けがほしい。 SCP財団と化け物如きに皆の地球は受け渡せない。いくらなんでもあんまりだ。童貞も卒業できなかった。 今すぐSCP財団とやらをけちょんけちょんにしてやりたい。少しま すまない。化け物が入ってきた。災難だ。外に帰っていったが。ブライトは無事なのだろうか。 ―――――――――――――――――――――――― 六日目 おでこを打ってから文章構成能力が終わってる。言葉がなかなか出てこない。 言いたいことを言っている感じ?中学生の作文レベルの文章だ。にしては上手いほうか? ―――――――――――――――――――――――― 六日目 ここに来てから静けさが大きくなってきた気がする。 世界が終わりかけている。 ―――――――――――――――――――――――― 七日目 いい朝だ。あんな化け物がうろちょろしているとは思えない。なにか良いことがありそう。 人に会いたい。ただそれだけ。 文章が少ない、頭がクラクラするね。 ―――――――――――――――――――――――― 七日目 寂しい、ただただ。 休む。 ―――――――――――――――――――――――― 七日目 孤独はいつだって私を追いかけてきた。そして私を見下してきた。 ずっと孤独な生活を送ってきた私にとっては救世主と呼べる「人間」がやってきたのにも関わらず自ら一人になってしまった。孤独な生活は嫌なはずなのに。孤独が私を追いかけてくるような。 しかし、その孤独がまた消えていった。 ある男がやってきたのだ。いや、やってきたというより現れたのほうが正しいのかもしれない。急に何もないところから私の前に姿を表した。彼曰くスーツのお陰だと言った。酷く醜い顔でずっと眠いっていないようだった。大丈夫かと声を掛けたが、彼は「大丈夫」と一言いい、私の横に座った。彼の名前はピエトロというらしい。かのSCP財団から生き残った悲しき残党だそう。こいつは他の奴らとは違い、話の通じるマトモなやつだった。 手に持っていたブリーフケースの中には何が入っているのかを訊くと、ただただ静かに 「分からない。」 とだけ呟いた。自分にはその真意が分からなかった。再び訊いたとしても彼は依然として分からないと言った。今度は何故分からないのかと訪ねた。すると彼は此方を向きながらまるで私が可怪しいかのように鼻で笑い、こう云った。 「すべての事柄に理由があるとするならば、眠ることは生命を維持するためにする。とある少女に会ったときにたとえ眠れないとしても『眠ったほうがいい』と言われた。しかし、私は今も眠っていない。もはやもう私に理由など必要ない。」 この時、こいつの事を私は心から嫌厭した。理由に意味など無いのであれば、私はこれまで何をし、何のためにあのようなことをしたのだろうか。思わず、彼の喉笛を殴ろうとした。私は我を失っていたことに気付くのが少し遅かった。私は直ぐに謝ったが彼はそんな私を慰めた。糞溜めのようなこの世界に取り残されて、もはや私と彼一人しかもう地球に取り残されていないかもしれない。それにも関わらず、怒りという感情を持てるのは素晴らしい事だと。 彼が「もう、行かなければならない」と言った。彼が立ち上がったときに私は彼に問いかけた。「そんな糞溜めのような世界の、何処に向かっているのか」と。彼は、呆然としながら座っている私を見下ろしながら言った。 「579に向かっている」 彼は一度どこかでそれを言ったかのように、口早にそう言った。 私が579とは何のことかを訊く前に彼はもう既に居なくなっていた。もしかしたら、スーツの影響で実際はすぐ側に居たのかもしれないが、少なくとも、私の脳は彼はもうそこに居ないと判断していた。 私は彼の存在しない残像を見上げていた。 太陽の光が私の眼を焼いた。 ―――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――― あの人達にあってから、孤独感が消えた気がする ―――――――――――――――――――――――― これを読んだ君たちに興味があるかは知らないけれど、 私はこの文書をパイプに詰め、ロウで覆い、川の奥底に投げるつもりだ。 いつの日か、だれかがこれを読んで、考えをまとめるはずだ。 それが許されるのなら。 ―――――――――――――――――――――――― あぁ、今日も空はきれいだ。 ―――――――――――――――――――――――― 〜完〜 ―――――――――――――――――――――――― パスワード:繧医≧縺薙◎譛ェ譚・縺ク 話の舞台(SCP-5000) ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-5000 話の着想(マリアナ海溝から回収された文書) ・http://scp-jp.wikidot.com/document-recovered-from-the-marianas-trench その他話の中で言及されたSCiP達 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-096 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-610 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-662 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-990 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-169 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-1678 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-3199 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-682 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-2000 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-2241 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-1048 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-2466 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-963 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-1370 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-3078 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-055 ・http://scp-jp.wikidot.com/scp-579 ・http://scp-jp.wikidot.com/lily-s-proposal (・http://scp-jp.wikidot.com/scp-8900-ex)