〈第一話〉 …最近、ずっと走ってばっかりだ。 次々と出てくる自分の吐く息に嫌気がさす。 暑苦しい時期が終わったことは幸いだった。 …あの時期にこの廊下を走るのは最悪な気分になる。 廊下は冷気で冷やす魔術はかかってはいるものの、まだ開発中の魔術だから威力が弱いし、なにせ授業中にはその魔術がついていない。きっと先生達は魔力をずっと使い続けるわけにはいけないからだろう。 ほとんど前を見ずに走ってしまったせいか、不意に何かにぶつかってしまった。 「わぁ!?」 相手は人だったみたいだ。 人にぶつかった。…こんな授業中に。 謝ろうと顔を上げた瞬間、相手は一目散に走って去ってしまった。…多分。風こそは通り過ぎていったが、一瞬たりとも相手の姿は見えなかった。 まぁ、この不思議な世界では起きてもありえないか。そんな適当な理由をつけて特に気にもしなかった。 ようやく立ち上がり、目的地に向かった。 カチャ。 扉を開けた瞬間に新しい本の紙の匂い、古い本の匂いが漂い、優しい光が目に飛び込んできた。こんな素敵な図書室が私は大好きだ。 「こんにちはー」 いつも通りに挨拶をする。 サボり中だか休憩中だか私と同じ立場だかの人達の視線が一斉にこちらにに向く。いつもは気にしないが、今日はそんな視線が気になってしょうがなかった。 視線から逃れるように私はカウンターへそそくさと移動する。 木の机の上に置いてあるベルを強めに押し込む。ここ最近、このベルの調子が悪くなってしまい、軽くのひと押しじゃ呼べないようになってしまった。 ベルを押してから1分くらい経ったが、司書室から先生が出てこない。押し込みが足りなかったのかと思い、もう一度グッと押してみた。 すると今度こそ、扉の音がカチャ…と鳴った…。 が、目の前にある扉は開かなかった。 音が出た正体を振り返ると、友達が入ってくるのが見えた。 「あれ、こともじゃん!どしたのそんなとこに棒立ちになってー」 この人はいつも明るく喋るなと思った。なのになんでこんな状況になっているのだろうか…。そんなことをふと考えついた。 「いやぁ…それが…このベル、不調みたいで先生出てこないの」 「え、そんなの大声で呼べばいいじゃん」 いや、そんな勇気ないし…それに 「ここ図書室だけど?」 そんな言葉は無視して、彼女は大声を張る。 「おーーい!先生ー‼︎こともが用あるって呼んでるー‼︎」 思った以上に大きい声でびっくりし、止めにかかる。 「ちょっと。ルナそんな大声叫んだら他の人に迷惑だって‼︎いいよ先生いなかったらまた今度用事済ますから」 「あ、そなんだ。…まあ…周りの人に迷惑って言ってもサボり組多いからねぇ、この時間帯だと。多少迷惑の方が戻ってくれんじゃない?」 なんてでたらめな発想だ。…少しは賛成するが。 「それはそうと、こともがここ来るの珍しいじゃん。最近来てなかったのに急に今日ここに来て。どうかした?」 「そりゃこちらこそだよ。ルナこそここ最近頑張ってる感じだったじゃん」 するとルナは目を泳がせながら喋り出す。 「う…ん。まあやらかしたというか…?」 いつも過度に根掘り葉掘り聞いてくるルナに皮肉混じりに風の噂を言ったつもりだったが、風が運ぶ噂も時には本当のことを運んでくるらしい。 「え、えっと…立ち話もあれだから2階の席行こうか?」 いつの間にか気まずい雰囲気が流れてたのだろうか、ルナが話を切り替えにきた。 「うん。そうだね。そうしよ」 私とルナは階段に向かうため、体の向きを変えた。その時、一階の全体が目に入る。その瞬間、私は違和感を覚えた。 「あれ…?ここってこんなに人数少なかったっけ?」 と、先に歩き出していたルナがこちらを向き、次にホールを見渡した。 「そうかなー?あんまり人見てなかったら人数の少なさなんて気になんないけど。」 「そう。じゃあ、気のせいの可能性もあるか。」 2階へと続く階段を登りつつ、私達は世間話をし始めた。 「ねぇさー、知ってる?ここの学校スクールカウンセラー来るようになるらしいよ」 「そうなんだ。保健室あるのに作っちゃうんだ…。ここの養護教諭、めっちゃ仕事できるよね」 そう言うとルナは驚いたような顔をする。 「へぇ!保健室は行ったことないから分かんなかった」 そして、こう言葉を繋げる。 「相談受ける系の先生じゃないからスクールカウンセラー必要なのかと思ってた」 確かに。じゃあなんで来るんだろう…。 そういううちに席の前にまで着いていた。 私達が会う時、座る席はいつもここだ。壁と本棚に囲まれ、壁の一箇所だけ丸い窓がついた、小部屋のような所に丸机と椅子が3つ置かれている。 ここの本棚の中には魔術歴史について書かれた本や、論文がぎっしりと詰まっている。 現代魔術は数十年前に研究が始まっているから、最近の資料しかなく、絵本のように薄っぺらい。だが、現代魔術に対して、古代魔術も存在している。古代魔術は二万年前ほどに1番栄えていたらしい魔術だそうだ。ある日発見された古代人の日記に書いていたらしい。因みに、日記には魔力がこの世に存在する、としか書かれていないらしく古代魔術を知ってる者、使える者はいない。危険な魔術だから廃れていき、いつしか滅びたのだろう。魔術をなくした人類は電気やらAIやらを作っていったのだろう。道のりも長かっただろうに。 …そんな古代人の気持ちになりきり、妄想する、そんなことに浸れるこの席はまるで物語の中へ旅行に行ったような気分になれる。だから私はここが好きだ。 すると、ルナは満遍の笑みを浮かべながらこう言う。 「ここ、なんか神秘的?でいいよねぇ」 彼女は私と違う考えでここが好きなようだ。 一瞬の沈黙の中、ん…?とルナは口走り、窓を見ながら不思議そうな顔をする。 「あの木って、あんな色とか形してたっけ…? あと、この時間、あたしらのクラスってグラウンドで基礎魔術練習なかったっけ?なんか人全然いなくない?」 え…?嫌な予感が頭をよぎる。 「…因みに聞くけど、それ、冗談じゃないよね…?」 「冗談でそんなこと言う人だと思う⁉︎」 「…だよね…。」 ルナは一息つくと、本棚へ歩いていき、くるりと回転しこちらを向く。 「はーい、ここで問題です!」 「えー、今、この状態、どう思いますか?」 と、ルナは質問を投げかけてきた。少し上に目線を泳がせながら私は答える。 「あると思うものは、不法侵入で呪いをかけられているというものか、ただ単にルナや私の勘違い…。あと…50年に一度起こると噂されている“現代魔術神隠し”が私達を除いた学生、先生に起こっている…かな。」 最後のは冗談のつもりだ。この神隠し事件は単なる噂だし、なんならこの学校ができたのは45年前のはずだ。現代魔術だって、始まったのは60年前。一回しか起こってない可能性が高いのと、魔術社会政府…、通称“魔術政府”はこの出来事のことを認めていない…発表していない。だから本当にあったかどうかは分かっていない。 私が答えるとルナは少し微笑みながら体を本棚へ向ける。 「そうだね。でもね…勘違いではないと思うよー。だってあたし、さっきまで教室にいたし、練習があるって言ってたしね」 そう言いながら、ルナは本棚をじっくり見て、何かを探している。そして、口を開いた。 「そして、不法侵入は“ほぼ”できないに等しい!だって結界張ってあるんだよ?あれ、初代校長が作ったやつなんだってー。今のとこ、最強らしい!」 「へぇ…」 なんでそんなに詳しいのだ君は。魔術歴史の教科書にすら載ってないのに。きっとこの本棚のかなりの常連客なんだろう。こういうときのルナの話は信憑性が高い。信じておいた方が得だ。 魔術歴史の教科書に載っていないのは多分、隠しているのだろう。この話を。 魔術歴史は隠蔽されているところが多いと有名だ。規制をつけている主の魔術政府に何の利益があるのか分からないが。 「…で、…たぶ…が…」 あ。話してる途中だった。 「ごめん。聞き忘れたからもう一回言ってくれないかな」 案の定、ルナはムッとした顔だった。 「あのさ…物思いに耽るのは人の自由だとは思うけど、人の話は聞こうよ⁉︎言うの、もっかいだけだからね⁉︎」 「ごめん…ありがとう。」 「えっと…だから、選択肢は一つに絞れたってわけ。 まぁ、1番最悪の道踏んでるけどね…。」 一呼吸おき、私は喋り出す。 「つまり、50年に一度起こると噂されている“現代魔術神隠し”に遭っている可能性が高いということか…でもあれってさ、政府公認じゃないから信憑性低いよ?それに、前回の神隠しの記録によるとこんなに大量の人が居なくなることないと思うけど。」 …“前回の記録”は本物か分からないけどね。 本棚の前に佇んでいたルナはようやくお目当ての本を探し当てたようで、やっと自席に戻ってきた。 「これ、見てみて〜」 横から本を覗く。ルナの頭の影で少し見にくかった。 まず初めにタイトルを見て、 「え…っと、これ、神隠しについての本?」 と、聞く。 「そうそう‼︎…余談なんだけど、この本ね、実は数年前のやつでね…」 と、ルナは小声で話し始める。 「…ここ最近、魔術政府が『魔術本伝授禁止法』ての出したじゃん?一部の本が出版・販売停止が適用されるってやつ。この本それに該当する本でねー、本来この図書館のも回収されるはずなんだけど、司書の犀瑞先生が粘って回収喰らわなかったらしいんだよ」 「へぇ…それってつまりさ、裏口…?隠したとか…?」 するとルナはこう答えて、この余談を終了させた。 「そこまでは知らないってー。そしてそろそろ本題戻ろ」一息おき、彼女はぱらぱらとページを捲り、真ん中ほどのところで手を止めた。そして、内容を読み上げ始めた。 「こほん。『“現代魔術神隠し” 現代魔術神隠しとは、神隠しの一種で、50年に一度起こると言われている。第一回目はとある学校で20××年11月20日に起こった。内容は教員、生徒十名ほどがほぼ一斉行方不明になるというとこだ。その後もずっと行方不明のままとなっている。 原因は不詳だが、古代にも魔術的神隠しがあったそうで、その“古代神隠し”が現代神隠しに関係していると推定し、現代神隠しを研究する者は古代神隠しと同時進行して研究している者が多い。 他の情報も欲しいところだが、まだ第一回しか起きていないため、現在情報が少ない。我々が所得済み・発表済み資料については21ページ参照。』」 「…と、まぁ現代神隠しのページはこれしか書いていないねー。ほんっと現代魔術史に関する本薄っぺらい!」 ほんとにその気持ちに同意するよ、と思いながら話の進行をしていく。 「じゃあ、次古代神隠しページ見る?なんか関連性あるそうだし読んだ方がいいんじゃないかな」 「そだねーえっと、じゃあ…11ページっと…」 私はページを探すルナを見守る。 すると、突然横から、あの…と声が聞こえた。 「うわっ!?」 あまりにも突然だったためか、図書室にも関わらず大きな声が出てしまった。 すると声をかけてきた主は 「ご、ごめんなさい!驚かすつもりは…」 と言った。 「大丈夫大丈夫〜!ところでキミ、誰?」 本から顔を上げたルナは持ち前の明るさで話していた。 私も声の主を振り返るように見る。 黄緑色の子だった。制服に付けられたワッペンは見慣れない時計のマークが刻まれており、時クラスなのが一目で分かった。そして私たち高校生のクラスにはいなかった気がするから、多分中学生だろう。 「え…えっと…僕、佐々根ライトと言います…。…中学生です。あ、あの…すみません、あなたたちのことがまだ…分からないので、紹介していただけませんか…?」 話を聞ききると、ルナがふっと笑った気がした。 〈続く〉
〈あとがき〉 今回も読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m こんにちは。こともゆずです。泣きの小説です。アニメ出来なくて本当にすみません。 あと公スタでは言ったんですけど、エンディングの曲を変更します。 今回だいぶ肉付けしました。前回より文量増えてるように見えると思いますが、進むストーリの速度はだいたい同じです。前回の文章をページ数で表してみたんですけど、1、2ページくらいでめちゃカスカスな文章書いてたんだなと実感したので、頑張りました汗 (あと、小説書くのに詰んだな…と感じたので、情報収集のために2ヶ月ぶりくらいに小説読んだんですけど、皆んな結構余談を挟んでるな…と今更気づいて、0話ってストーリーしか書かれていないような面白みがない小説だと気付かされたので余談も結構入れました。 滅茶滅茶文量増えたので一気読みできなかったら何回かに分けて読んでもいいかもです!) …ストーリーがだらだらし始めている…。ちょっとまずい雰囲気し始めているんで急展開ぶっこむ可能性大です。 ご了承を。 アニメ、完成させるので、できたら見てみてください。 ぜひ感想、考察をコメントしてみてください! ♡と☆もよろしくお願いします。 いつもありがとうございます‼︎ これからも応援よろしくお願いします‼︎ 〈クレジット〉 曲(BGM):パレード/ヨルシカ https://www.youtube.com/watch?v=ry3Tupx4BL4 サムネ背景:BOOTH様「幻の図書館」 出演者:ことも ルナ・アリシア 佐々根 ライト ※ここでの出演者とは、“喋った人”のことを言います。 使い方の欄を全部埋まるまで書いちゃって、上限割と低いなと思った() 多分5000文字かな(数字で見れば割と多い)