アメリカ合衆国コロラド州 PMC『THERD』の基地 「…………」 薄暗い部屋の中で、俺は横たわっていた。 「入るぜ、アレクセイ」 ドアを開けて、ヴィクターが入ってきた。 「調子はどうだ?」 「…全身が死ぬほど痛い」 「狼共からリンチされたらしいな。心中お察しするぜ」 「当然の報いだ…」 あそこで殺されていてもおかしくなかった。今生きているのは奇跡だ。 「俺の事はいい…ルーカスはどうなった」 「あぁ、あのスペイン人か。アイツなら何とかなった。もう意識も戻ってる」 助かったのか…。裏切ったフリをした甲斐があった。 「…感謝する」 「礼ならウチの医療スタッフ達に言ってくれ。俺は何もしてない。にしてもすごいな、ものの1時間で顔面の形が元に戻ってるとは」 「骨もほとんど繋がったし、破裂した内臓も再形成されてる……デイライトの技術の賜物だ」 その時、開いたドアから人が大勢入ってきた。……マイク達か。 「…もう口はきけるか」 「あぁ…お前達が止めてくれたおかげで半殺しで済んだからな」 「…ならいい」 マイクがB.R.E.A.K.E.R.を取り出し、俺に突きつけた。 「話してくれ。お前が知っている、全てを」 「言われなくても、元から話す気でいたよ。そいつをしまってくれ。……どこから話せばいい?」 「…どこからってなに」 シェリーが俺を睨んで言う。 「言葉の通りだ……キャサリン、お前ならわかるだろ」 「…まぁね」 「俺は“全て”話してくれ、と言った」 「なら前提から話す。腰を抜かすなよ…」 痛む身体に鞭を打ち、椅子に座り直す。 「この世界は、繰り返しているんだ」 「…アレン、俺達は冗談を聞きにきたわけじゃない」 「本当だよ」 キャサリンが言った。 「なに?」 「アレンが言ってる事は間違ってない。この世界は、確かに繰り返してる」 「…どう言う事だ」 「もう少し噛み砕いて言うよ。お前ら、デイライトの目的はわかってるか?」 「…陽の光(デイライト)となり、世界を正しい方向に導く」 「正解だ。まぁ、本当は自分達の思い通りにしたいだけだがな。とにかく、デイライトはその為なら手段を選ばない。世界を滅ぼす事さえもな」 この話をしていると、昔の事を思い出してくる。思えば、あの時の選択が、この世界を狂わせたのかもしれない。 「何千年も前の話だ……ロシアは侵略行為をしていた」 「Отступайте, отступайте! Мы отступаем!〔後退だ、後退しろ!撤退だ!〕」 ロシアは「特殊軍事作戦」を謳い、ウクライナに侵攻していた。当時の大統領の私兵とも呼ばれたPMC『ワグネル・グループ』に所属していた俺も、ウクライナに駆り出されていた。 「Блядь... блядь, блядь!〔クソッ…クソクソクソ!〕」 当初2週間で終わると言われていた“作戦”は、ウクライナの抵抗によって長期化。終わりの見えない紛争と化していた。 (Россия... За что я сражаюсь...?〔ロシアは…俺はなんの為に戦っているんだ…?〕) 無差別攻撃によって増える市民の犠牲、繰り返される戦争犯罪……これを特殊軍事作戦と呼ぶのは、あまりにも無理があった。 (Так вот каким должен быть мир на самом деле ......?〔世界は…本当にこうであるべきなのか……?〕) 「Граната!〔グレネード!〕」 「……!」 『Следующие новости. Российские власти заявили, что военная операция в Украине проходит успешно. Президент Владимир Путин ...〔次のニュースです。ロシア当局は、ウクライナでの軍事作戦は順調に進んでいると発表しました。プーチン大統領は…〕』 「...ты лжец.〔…嘘つきめ〕」 手榴弾で足をオシャカにされた俺は、負傷兵としてロシア本国への帰還を許された。やはりと言うか、予想通りだった事は、ロシア国内では真実は報道されていなかった。無謀な突撃作戦で無駄に兵士が死んでいる事は隠され、全てがうまくいっていると伝えられていた。 「...эта страна ошибается.〔…この国は間違ってる〕」 国を変えたいと、何度も思った。だが、反戦活動を行えば、当局から弾圧される始末だ。考えるだけで、何も行動する事ができない。無力感に苛まれていた、その時だった。俺の部屋の呼び鈴が鳴った。 「……」 杖をついて玄関へ向かい、ドアを開けた。そこにいたのは、俺よりも頭二つ分ほど小さい、アジア人風の少女だった。 「...кто вы?(…誰だ、あんた)」 「Я предполагаю, что вы - господин Алексей Райков... Вы уверены?〔アレクセイ・ライコフ氏とお見受けするが、間違いないか?〕」 突然、流暢なロシア語で話しかけてきた。 「Да, но... что вам от меня нужно?〔そうだが…俺に何の用だ?〕」 「Мне нужно с вами кое о чем поговорить. Впусти меня в дом.〔君と話したいことがあるんだ。家にあげてくれ〕」 何かの勧誘か?そう思って面倒になった俺は、ドアを閉めようとした。 「Иди домой. Я не в настроении разговаривать с людьми.〔帰ってくれ。人と話す気分じゃない〕」 「Вы хотите изменить мир, не так ли?〔世界を変えたいんだろ?〕」 異様なまでに輝いた目で、少女は言った。 「...что?(…え?)」 「Не только в России. По всему миру то тут, то там ведутся бессмысленные войны. Разве не такой мир вы хотите изменить?〔ロシアだけじゃない。この世界中のそこらかしこで、意味のない戦争が繰り広げられている。そんな世界を、変えたいんじゃないのか?〕」 普通なら相手にしないだろう。だが、俺は彼女の言うことに興味を持ってしまった。 「...я задам вам несколько вопросов.〔…色々と聞かせてもらう〕」 俺がそう言うと、少女は不敵な笑みを浮かべた。 「Юм. Приятно познакомиться.〔遊夢だ。よろしく頼むよ〕」
↓使い方の欄を読み終わってからお読みください それからはお前らの想像する通りだ。その時、遊夢は既にデイライトの基礎を作り上げていた。卓越した科学力に、大国にも負けない軍事力。彼女の目的はただ一つ「世界を根本から作り変えること」だった。彼女は俺にこう語った。 「Этот мир - искаженная головоломка. Кусочки действуют эгоистично, протискиваясь на место других кусочков и ведя себя так, словно это место принадлежит им. Такой головоломки быть не может. Мы должны собрать его своими руками, мы должны исправить его своими руками. Мы - дневной свет, который направляет их.〔この世界は、歪んだパズルだ。ピース達は身勝手に行動し、他のピースの場所に強引に入り込み、我が物顔で振る舞う。そんなパズルがあっていいはずがない。私達の手でリセットし、私達の手で正しい姿に組み直すんだ。…私達が彼らを導く“陽の光”となってな〕」 「Дневной свет ...〔陽の、光……〕」 「Пойдем со мной, Алексей. Ты ведь хочешь изменить мир, не так ли? Ты не из тех, кто сидит и смотрит, засунув пальцы в рот. Пойдем со мной и поведем мир за собой. ...... Я могу починить и твою ногу.〔私と来てくれ、アレクセイ。世界を変えたいんだろ?君はこんな所で指を咥えて見てるような奴じゃない。私と一緒に、世界を導こう。……その足だって、治してやれる〕」 今から考えてみれば、馬鹿げた思想だ。“正しい世界”の為に、今の世界を滅ぼす。大義の為に取り返しのつかない犠牲を出すんだ。でも、その時の俺は、その思想が正しいと思った。 俺は遊夢に連れられ、当時は合衆国じゃなかった日本に来た。政府に密入国者として認知されたって聞いた時は肝が冷えたが、大義の為ならどうって事ないと思った。そして……奴はついに行動に出た。 「……バイオハザード、確認」 街中で、叫び声が響いてた。 突如現れた爆撃機の爆撃から身を隠す者。 街中に巻かれたガスにやられて苦しむ者。 そのガスの影響で生ける屍と化した者。 そして、生ける屍から逃げる者。 阿鼻叫喚の地獄絵図とはまさにアレの事だ。デイライトは世界中を爆撃し、ガスを撒いて、世界を壊し始めた。 「…なぁ、遊夢」 現場を確認しに、デイライトの避難所から出ていた俺は、彼女に無線で呼びかけた。 「…俺達の大義は、本当に正しいのか?」 『終わりは始まりだよ、アレン』 無線から、少し嬉しそうな声が聞こえた。 『やっとだ…やっとこのクソみたいな世界が終わる。ここから始まるんだ、私達の計画は。一からピースを組み直し、正しい姿に導く!その為の尊い犠牲だ』 この時点で気づいていたんだ。俺はとんでもない組織に手を貸してしまったと。でも、もうとどまることも、引き返す事もできなかった。 「…あぁ、そうだな。目標の回収に向かう」 『頼んだよ、私達のこれからに関わるんだ』 それからもデイライトは、世界を“正しく”導く為に行動した。目も当てられない人体実験をしたり、人類のクローンを作成して世界に放ち、裏から操作して世界を作り始めた。だが…遊夢や俺にも予想していなかったことが起こった。デイライトの存在は、次第に“新人類”から忘れ去られていったんだ。デイライトの支配から逃れた人類は、自由に行動し始めた。まぁ、前の世界よりは幾分か平和になりはしたが…。遊夢には気に食わなかったんだろう。ある日、俺は遊夢に呼び出された。 「話って何だ、遊夢」 「なぁ、アレン。世界はこれで“正しく”なったと思うか?」 「…どういう事だ」 「人々は私達の存在を忘れ、また身勝手に行動し始めた。このままじゃ、パズルはまた歪み出す。そんな事があっていいと思うか?……“彼ら”にも逃げられた」 口調的にも、かなりイラついていたんだろう。持っていたペンがミシミシと音をあげていた。 「私達の考えは甘かったらしい。あの程度のリセットじゃ、世界は直らない」 直後、遊夢はペンを握りつぶして言った。 「もう一度だ、アレン。もう一度やり直そう」 「…まさか」 「あぁ、そのまさかだ。もう一度世界を滅ぼし、今度こそ、私達が正しい姿に導くんだ。今度は忘れられないようにな」 「っ、だが遊夢…」 「安心しろ、アレン。私達には悠久の時がある。狼達ももう必要ない、この機に殲滅してやろう」 嬉々として語る彼女を見て、俺は感じた。 (…こいつにはもう付き合ってられない) 言い逃れする気はない。俺だって、散々非道な事をやらかしてきた。…“大義”の為、だと思ってな。だが、遊夢が謳う大義は、ただの利己的な欲望だ。彼女の思い通りにならない限り、世界は何度も滅ぼされるだろう。だから俺は決めたんだ。 デイライトを見限って、滅ぼすってな。 「……サラッと話してたけどさ」 シェリーが口を挟んだ。 「前の世界が滅びたのって、何千年も前の話なんでしょ。何でアンタや遊夢は、そんな長い間生きてられたわけ?」 「…それはn」 「俺達を使ったんだ」 ドアの方から声が聞こえた。 「…おい廻嶺、入ってくるなって言ったろ」 マイクが言うのも聞かず、廻嶺はこっちに向かってきた。他の3人もいる。 「…俺達は、お前の偽善の為に生まれてきたわけじゃない!」 そう言って、廻嶺は拳を振りかぶった。 ____________________ 第十二章 https://scratch.mit.edu/projects/1158030085 第十三章後半 https://scratch.mit.edu/projects/1238188117