僕は、一度も割ったことのない、年季の入った、けれどきれいにコーティングされてある、カップを...ティーカップを。 机に、勢いよく落とした。 こんなに動揺したのはいつぶりだろうか。千...いや、億を超えているかもしれない。それは、ただ、何気ない友の集まりでおきた。 友の名は、××と、◆◆。前から仲が良い自慢の友達だ。 ××は、僕に懐いている。僕のことを真似するぐらいに。 (すこし再現度が高すぎて困っているぐらいだが。) ◆◆は、何を考えているのかわからない。だが、唯一僕の"手"を握ってくれた。いえば...恩人だ。そのフードの下には顔があるはずだが、一度も見たことがない。まるで、そこに顔がないのかと思わせるほどに。 ...事が起きたのは、××が席を立って、どこかへ行ってしまったときにおきた。 この世界は、別に広いわけではない。"境界線"の中が他の世界と比べると狭いだけで、特に不便は感じないのだ。境界線から出ると、元いた場所に戻される。だから、××は遠くに行けない。そう判断して、僕は××を追わなかった。 ティーは美味しかった。◆◆が淹れたからもあるが、一番は見た目。空の青色が、ティーにうつる。つやりとして、きれいだった。 ◆◆は、今日だけはごきげんだった。いつもは情緒不安定で、何を言いたいのかわからない。だが、本当に今日は、にやにやと、ずっとシニカルに笑っていた。 ××は帰ってこなかった。◆◆も、「これから面白い"番組"が始まる。」と言い残し、どこかへ行ってしまった。今日は、やたら枯れた植物を見つける日だ。そう考えながら片付けをして、ここを出ようとしたとき、少年が現れた。 背は13歳の、まだ成長期が来ていない姿だった。よれよれになった着物のようなものを着ており、目は髪で見えなかった。 彼は、表情一つ変えずに言った。 「君はここを出たくないの?」 「出ようとしても出られないですからね...」 苦笑した。 だが、そんな言葉を一ミリも気にせずに、彼は...衝撃的なことを言った。 「君は、自分で現実を見ないんだね。ふふ。」 それは。 それは、とても、とてもとてもとても気持ちの悪い目だった。まるで...まるで僕のすべてを知っているかのような、素を見抜いている奴の目だった...口ぶりだった。 久しぶりに、心を乱された気分だ。 「...あなたは何を知っているんです?」 「全部。全部しっているよ。」 ニカッと笑った。不意に吹いた風が、彼の髪をかきあげた。目は、笑っていなかった。純粋ながら、不気味な笑顔だった。 「君は、人が死んでもいいと考えている。自分の一番大切な人でもね。」 僕は、手に力が入らなくなった。そのせいで、ふいていたティーカップを、落とした...机に。 落ちたカップは、粉々に割れた。無惨に。 そんなことを気にせず、彼は喋り続ける。不気味な笑顔で。 「君は...自分がここから出られないと決めつけて、現実から目を逸らしている。」 たらりと、冷や汗が背筋を辿る。 「そして、自分はここが居場所と暗示させて、この世界に2人を閉じ込めている。」 この動揺が、間違っていることではないことを教えていた。 「うんうん、よくあることだよ。僕も実際やっていた。」 なぜそんな笑顔を見せられる。人を、苦しませているのに。 「君は、どうしてそんなに現実を見たくないの?」 理由なんて、ない 「君はどうして、そんなに怯えているの?」 怯えてなんか、いない。 「君は....」 「何から逃げているの?」 その瞬間、僕の意識はどこかへとんだ。ここは...どこだろうな。 不意に、前にあった肉の塊を見る。 ...自分の片手を見る。 「ははっ...!!」 頬に、雫がたれた。 顔を手で覆う。まるで現実から逃げるかのように。 そして、僕はつぶやいた。 「面白い番組...か...」 ◆◆の言っていることがわかった。不意に笑みがこぼれる。足は、あるき方を忘れたかのように、壁にもたれかかった。ずるずると、床に座り込む。あの少年の言っていたことは... また、苦笑いをした。 「...図星...か...」 肉の塊の、まだ乾ききっていない血が、僕の顔をうつし出した。 ---------------------------------END-------------------------------------