↓本文↓ 「封緘」 「!」 振り向くともみじさんがブキを構えていた。 俺はそこから放たれたインクショットを飛び下がってかわしたが、スイーパーとスクリューはやられてしまった。 「避けるのだけは上手いみたいだな、クアッド」 ケルビンたちは高台から降りてきている。 前後で挟まれ最悪の状況だ。 「カーボン、エリアを塗っておけ」 「もう……塗ってある」 「お前ら、師匠たちをどうした」 「安心しろ。危害は…………致命傷は避けた。殺す意味もないからな」 「手を……出したのか?」 ケルビンは不敵な笑みを浮かべ言った。 「さあな。それより、なんだあのもみじの下位互換は。本当に双子か?頭も悪ければ動きも鈍い。あれのどこが……」 言い終わらないうちに俺はケルビンの顔面を殴り飛ばしていた。 「ああ、すまない。遺言くらいは最後まで聞いてやるべきだったか」 ケルビンはその場に倒れ気絶している。 「貴様、これが公式試合だということを忘れたか?」 「ああ。公式試合だから一撃で気絶させるだけにしてやるよ」 「抜かせ……もみじ、やれ」 その2分ほど前…… 「クアッドさん、大丈夫ですかね……」 「大丈夫だよ!今の所世界一位のお兄ちゃんに敵う人なんか師匠ともみじちゃんくらいしかいないんだし!」 「……そうですね!」 会話を聞いて師匠を笑顔を浮かべていた。 その時。 「やれやれ、全く厄介なアビリティだ」 「あなたは…!」 振り向こうとした師匠をカーボンがブキで殴り飛ばした。 不意打ちを喰らって師匠は吹き飛ばされた。 「くそ……」 師匠は指を鳴らしアビリティを上書きして発動した。 ……と思われたが。 「どうやら、すでに体力は尽きているようだな」 「お前らなんか体力もブキもアビリティもなしで十分だってんだよ。デュアル、わかば、下がれ」 師匠は3人からデュアルとわかばを守るように立った。 「師匠、私も……」 「安心しろ、お前たちに危害を加えにきたわけではない。目的はもみじの回収。それが済んだ今用はない」 「聖域」 もみじはいつの間にか3人の隣にいる。 「……今もみじは聖域と言ったな。おそらく情報にない二つのうちの一つのアビリティだな?」 「……バトルの邪魔をしに来られては面倒だ。気絶はしてもらう」 「そんな容易にさせてくれそうに見えるか?」 「ヴァリアブル、今のお前は隙だらけだ」 カーボンは瞬間移動して師匠の背後にまわり、思い切りブキを叩きつけた。 「師匠!!」 「カーボン、致命傷は避けたな?」 「当たり前……だ」 そう言いながらカーボンは2人の方へ歩み寄っていく。 「わ、わかばちゃん逃げて…!」 「でも……」 「これでも世界一位の妹だよ?大丈夫、こんな奴らぼこぼこにするから、行って」 わかばさんは背を向けたデュアルを見つめていたが、意を決して外へ飛び出していった。 ラントは苦笑したように言った。 「世界一位の妹、か。ならその世界一位を超えるもみじが相手ならどうかな」 「あー…………えへへ、ちょっときついかな〜?」 ***** 「すまないクアッド!戻った!」 スイーパーとスクリューが前線復帰してきた。 「お前らはあの雑魚共と遊んでやれ。俺はもみじさんを止める」 「了解だ」 「あらら……クアッドだいぶ怒ってるね……口調が…」 もみじさんはブキを捨てナイフを取り出した。 「おいおい試合中だぞ……いや俺も人のこと言えないが」 俺はブキを頭上に思い切り投げた。 と同時にもみじさんは地面を蹴り襲いかかってくる。 俺は横に避けたが壁を蹴って方向を変えてきた。 もみじさんが振るうナイフを見極め後退しながら全てギリギリのところで回避していく。 「天翔、変遷」 もみじさんは宙に立った。 と同時に地面が段々と液体に変化し始めた。 「……完全に液体になったらおしまいだな」 まだなんとか足はつく。 次の一撃で終わらせなければ勝ち目はほとんどなくなるだろう。 「……」 俺は真上を見上げた。 一歩間違えればおそらく死。 これが通用しなかったら次の手は考えていない。 大きく息を吐いて液体化していない壁に足をつけた。 そして全力で蹴りもみじさんへ突撃する。 もみじさんは飛び上がって避けたがそれを待っていた。 「借りるぞ」 「ちょ、クアッド!?」 スイーパーが投げたクイックボムを片手に持ちまた壁を蹴って空中へ飛ぶ。 近距離まで近づいた俺はクイックボムを投げつけた。 だが空中を歩けるもみじさんは一歩横にずれかわした。 勝ち誇ったような笑みを浮かべナイフを手に突っ込んでくる。 もみじさんのように空中を歩けない俺は身動きが取れない。 本来は。 「たまにはアビリティなしも良いものだな」 俺は事前に投げておいたブキをキャッチしショクワンダーを発動させた。 そして壁をつたりもみじの背後へ。 もみじさんは大ぶりをしてしまったせいで隙が大きい。 俺は反応する暇を与えず地面に蹴飛ばした。 「あ、もみじさんは操られてるんだった……本気で蹴ってしまった……」 もみじさんは地面に叩きつけられ動かない。 地面の液体化はもみじさんが気絶したことによって解けている。 俺はスーパージャンプで元の位置に戻った。 「ノックアウト、試合終了だな」 俺たち3人はちょうど良いタイミングでノックアウトを決め見事勝利を収めた。 だが。 「俺たちが勝ったんだ。わかってるな?」 「ケルビンが勝手に言ったことだ。従う義理はない」 「一時撤退を……する」 やはり素直に従う気はないようだ。 このままではまた同じようなことが起きてしまう。 そう思っていた時。 「クアッドさーん!!」 「この声……わかばさん?」 振り向くとわかばさんが息を切らして走ってきていた。 その後ろには数十名の警官。 「まずい、カーボン、早く撤退を……」 「封緘……っ」 「もみじ貴様…!」 もみじは倒れ込んでいたが意識を取り戻し加勢をしてくれたようだ。 そして警察に向かって言った。 「こ…こいつは瞬間移動のアビリティ……拘束は無意味です。眠らせるなり対策を……」 しかしすぐにまた気を失ってしまった。 やっぱ俺強く蹴りすぎたよね。 「わかばさんが警察を?」 「は、はい。わたしにはこれくらいしか……」 「いや、ありがとう。すごく助かったよ」 「は、はい…!」 わかばさんは嬉しそうに笑みを浮かべている。 頭を撫でてあげると少しだけ顔を赤くした。 数名の警察官が3人を連行していくと、次は俺たちの方へきた。 任意の事情聴取とのことで、俺たちは最後まで協力することとなった。 何はともあれ、これで一件落着。…………とはならないことを、この時の俺は知る由もなかった。 「今日はお疲れ様です、クアッドさん…」 「わかばも、そばにいてやれなくてごめんな」 日は沈みすっかり深夜。俺たちはベッドで横になっている。 「じ、じゃあ、これからはそばにいてほしい…です……」 俺は何も言わず頭を優しく撫でた。 そのうちわかばさんは眠ってしまった。 「……ごめんな」 翌日。 昨夜は疲れていると言うことで全員俺の家に泊め、夜を過ごした。 もみじさんの件に関してはまた改めて、ということらしい。アビリティで洗脳されていたのもあって過失の部分がかなり大きいのと、被害者の俺が許していること、本人の反省もあり、罪としては軽くなるようだ。ひとまず安心だな。 「おはよう、クアッド」 朝5時頃、目が覚めて家の前にいると、家から出てきたスイーパーに声をかけられた。 「おはよう」 「何してるんだ?こんなところで」 「色々考えてたんだよ。昔のこと」 「昔?」 「ケルビンの一件だよ。思い返してみると、どうも不審な点がある。独自に調べてみようと思う」 「……なるほどな。いいのか、別れは」 「悪いと思う。別れから逃げてる。けど、俺は……」 あの子の顔を曇らせるのは怖い。 死ぬよりも、世界が敵に回るよりも。 「なに、長い付き合いだ。簡単に決めたことじゃないことくらいわかってる」 「お前には頭が下がるな…」 「よせ、気持ち悪い」 互いに苦笑した。 「出発はいつだ」 「もう出るよ」 「どうせ、昨日の戦いの少し前から決めていたんだろ」 「お前がスクリューに見えてきたよ」 今度はお互い微笑をこぼす。 俺は扉の前に置いてあった荷物を取った。 「事情は僕から伝えておく」 「ああ。頼んだ」 ここから先は俺たち兄弟間の問題。そしてデュアルにケルビンと関わらせるわけにはいかない。 俺がやるべきことだ。 そう決意し、歩き出した。 それからおよそ2時間後。 「はぅ……」 わかばさんは目をこすりながらゆっくり体を起こし、大きく伸びをした。 「クアッドさんはもう起きてるのかな…」 まだ半分寝ぼけながらも一階へ降り、リビングへと向かう。 「そうか、行ったか…」 リビングの方から何やら声がする。 「みんな起きてたんだ…」 扉を開けて中に入った。 「あ、おはよわかばちゃん」 「わかば、これを」 スクリューが差し出したのは俺がわかばさんの椅子に置いておいた手紙。 「手紙…?」 わかばさんは中を開いてその内容を読んだ。 「……そうですか」 「そ、その、何も言わなかったのはきっとお兄ちゃんなりの配慮っていうか……」 「いえ、わかってますから。わたしが頼りないから、言ってくれなかったんだって」 「それは違う」 スイーパーは続けた。 「言わなかったのはあいつの不甲斐ないところもある。わかばさんが気を病む必要はない」 「そう……でしょうか」 「言っとくけど、君ら双子が一番クアッドとの関わり薄いんだからね」 スクリューが言い放った。 「あ、それと、さっきもみじちゃんも家を出て行ったよ」 「はい、もみじはもみじなりにけじめをつけるみたいですね。わたしも……」 「おい、わかば」
6話 https://scratch.mit.edu/projects/1187232784/ 8話 https://scratch.mit.edu/projects/1189495633/ 本文下にあるよ ジャンル 二次創作 ラブコメ ファンタジー(?) よければ感想どうぞ そんなたいそうなこと書いてないけど設定、キャラ詳細、著作権に関してはこちら↓ https://scratch.mit.edu/projects/1186934416/ 考察、裏話はこちら↓ https://scratch.mit.edu/projects/1186934574/ 「おい、わかば」 今まで静観していた師匠が口を挟んだ。 「お前、私の弟子になる気はないか」 「……えっ?」 「どうも私の直感が、お前は磨けば最高の輝きを見せると言ってるんだよ。それに、クアッドが戻ってきた時、あいつをびっくりさせて、ついでに隣に見合う女になってやろうぜ」 師匠は笑って見せた。 「師匠、一体何人弟子作るんですか」 「いいだろ?わかばだって私のこと師匠って呼んでるんだしよ」 「わかりました」 わかばさんは一歩前へ出た。 「師匠さん、弟子にしてほしいです…!」 「おう、望む所だ」 「僕が見た所、もみじさんはアビリティを使いこなせていない。だから勝てる要素はあったのにクアッドに勝てなかった。もし君が使いこなせるようになれば、歴代最強プレイヤーも夢じゃない」 「そういえば、二つ判明してないアビリティがあったよな、それって一体なんだったんだ?一つは聖域って詠唱を聞いたが…」 「あ……そういえば、私の記憶はもみじが消したものでは…というより、元からそんなことはできないみたいです」 「そうなの?じゃあ他の誰かが消し……」 いいかけて全員勘付いたように目を合わせた。 そう。この事件にはまだ黒幕がいる。 一方俺は、拘置所のケルビンと面会をしていた。 「昨日ぶりだな」 「クアッドか……お前と話すことは何もない」 「あるだろ。例えば、14年前のこととかな」 「……」 ケルビンは黙り込んだ。 「お前はなぜ両親を殺害した」 「……俺のアビリティは15年先まで見ることができる。そろそろあれから15年経つんじゃないか?」 「まさかあの時何かを見たのか?」 「それと、俺の見た未来は変えることができる。そして俺とお前の10という歳の差。あとは自分で考えろ」 未来を変える、か。 「俺はこの14年お前を殺すためだけに生きてきた。ヴァリアブルという邪魔が入り、世界一位になったおかげで簡単に手出しもできなくなり、引退後はどこへいるのかもわからず……」 「俺を殺す動機は、恨みか」 「違うな。未来を変えるためだ。おっと、話しすぎたな。時間だ」 ケルビンは席を立った。 「それと、ラントとカーボンに関してだが、あいつらは色々頭をいじられてる」 「頭を?」 「俺はいじられちゃいないが、あいつらは正気じゃねえ。実質操られてたようなもんだ。その反動で今は意識がないらしいがな」 「……まだ裏がいるのか」 「2人、な。せいぜい頑張れ」 ケルビンはそう言って面会室を出て行った。 2人の黒幕と未来の改変……謎ばかりだ。 *** 14年前―― 「ケル兄驚くだろうな…」 俺はケルビンの誕生日、雨の中外へ飛び出しプレゼントを買いに行っていた。 5歳だ。お小遣いなどもらえるはずもなく、家の手伝いをしてほんの少しずつ貯めて買ったプレゼント。中身は小さなケーキだったが、当時の俺には大きな意味があった。 扉を開けて中へ入ると、妙に静かだった。 「おかしいな、デュアルー?」 廊下を抜けてリビングに足を踏み入れると、衝撃的な光景が広がっていた。 「…は……」 「おお、クアッド……戻ったか、すまんが片付けを手伝ってくれ。デュアルが動かなくてな……」 「な、何言って……」 俺が目にしたのは血にまみれた両親とケルビン。 そしてその状況を見て腰が抜けているのか、座り込んで動けずにいるデュアル。 「ど、ドッキリにしてはやりすぎじゃ……?」 「ドッキリ?何を言ってるんだ。そんなことより……」 「な、なんでそんな冷静で…」 「クアッド、これはお前とデュアルのためにやったんだ。お前ならわかるだろ?」 何を言っているのか全く理解できなかった。だけど今思い返せばなんとなく…… おそらくアビリティで何か見てしまったのだろう。 「ぼ、僕にはわかんないよ……」 「……そうか」 ケルビンは落ちていた包丁を拾い上げた。 元はホールケーキを切るために置かれていたものだろう。 「なら俺は何のために自分の両親を殺したんだろうな」 段々とデュアルの方へ歩み寄っていく。 「どうせならお前たちも死んじまえ」 「…!?まっ……」 ケルビンが包丁を振りかぶった瞬間だった。突然何かに殴られたかのように宙に舞ったのだ。 「あいにくだがそれを看過することはできない」 「お前……ヴァリアブルか……」 「だ、誰…?」 俺とデュアルを庇うように立ちはだかってくれたのは、師匠だった。 「お前らの父親の親友だよ。アビリティで呼ばれてきた。遅れてすまんな」 「瞬間移動のアビリティか……厄介な」 「私のアビリティのことか?的外れにも程があるな。そんなもんじゃねえよ」 「何…?」 師匠は指を鳴らしケルビンの目の前へ現れた。 そして頭を蹴り飛ばした。 「くっそ……」 「なあ、お前側にもなにか事情があるんだろ。聞かせてみろよ」 「…黙れ!」 ケルビンは包丁を投げつけた。 師匠は避けようとしたが後ろには俺とデュアルがいる。 舌打ちをして咄嗟に右腕で受け止めた。 腕に刺さった包丁を抜いて警戒をしなおしたがすでにそこにケルビンの姿はなかった。 「野郎……」 「デュアル、大丈夫?」 「お…おに……お、お兄ちゃ……」 追うために指を鳴らそうとしていた師匠は状況を見直し、頭の後ろをかいた。 「あ、あー……急なことですまんが、両親から何かあったら私が引き取れと言われてるんだ。まあ私も引き取るつもりはなかったが……」 「……?」 「私のことを母親と見ろとは言わん。だがお前らは私にとっちゃ親友の子供。大切な存在だ。変なとこに預けられるよか、マシな思いはさせてやれるぜ」 当時の俺は知らないことが多かった。この人がアビリティありなら無敵なことも、俺とデュアルが弟子入りすることも、このとき師匠が大きな傷を抱えていることも。 「僕のことはいいです。デュアルを……」 「私がどっちかしか救わないようなケチくさいやつに見えるか?5歳のくせに生意気なこと言ってんじゃねえよ」 師匠が軽く笑ったその時ちょうど家のインターホンが鳴った。 警察が来てくれたようだ。 その警察に師匠が犯人だと思われ、説明が大変だった、というのは今となっては笑い話である。 *** 「おら!まだ走れ!あと1分だぞ!」 「は、はい……」 わかばさんの弟子入りに伴って、バトルでの実践的なことを全員で協力し教えていた。 師匠は体力、体の動かし方。スイーパーは戦略、判断力、スクリューは人間観察力と弱点をつく力。デュアルは上手い連携の仕方。 それぞれが特に得意な所をわかばさんに伝授する。 わかばさんは本格的にランカーを目指していきたいようで、それに全員応えることにした。 ランカーは個人戦ランキング上位64位以内、つまりバンカラ大会への参加権を持っている選手のこと。 「終了だ。次は……」 「師匠、そんなに焦らない。今日はもう終わりだから」 「お、そうだったか。というかもうこんな時間なんだな」 「初日から飛ばし過ぎじゃない?わかばちゃんが持たないよ?」 「わ、わたしは大丈夫で……ゔ…」 わかばさんは口を押さえてその場に座り込んだ。 「師匠、お兄ちゃんとか私、スクリューさんの時はこんなキツくなかったよね?」 「ちょ、ちょっとやりすぎたな……すまん、久しぶりの弟子で……」 「平気です……むしろもっ…………うぷ…」 「……一旦家入ろうか…」 そんなこんなで俺は情報を集めつつその2人を捜索、わかばさんは師匠たちと稽古をすることになった。 そうして1ヶ月の月日が流れた―― 「メンタルの問題?」 「はい、わたしのアビリティは使えないんじゃなくて使うのをわたしが拒んでいるから……ともみじが」 「なるほど。劣等感からくるイメージの甘さ、か」 「どういうことだ?スイーパー」 スイーパーはメガネをくいっと上げ言った。 「アビリティを使う時誰しも無意識にやっていること、それは使っている自分のイメージです。一般的な人は使うことが当たり前になっているものの、わかばさんのもみじさんに対する異常な劣等感が、そのイメージを妨げているのでしょう」 「つまり……それを乗り越えないとアビリティは使えない、ってこと?」 スイーパーは無言で頷き続けた。 「さらに何者かに記憶を消されていることによりアビリティの概要が掴めず、イメージがしにくくなっているというのもあるかと」 「なるほどね。どうやら前々からわかばの心を読んだ時、奥深くにあった暗闇が、その劣等感みたいだね」 「ある程度の身体能力はついてきたし、そろそろアビリティを使えるようにすることも視野にいれねえとな」 「わたしが……アビリティを…」 わかばさんは自分の手のひらを見つめた。 「焦る必要はないからね、ゆっくりわかばちゃんのペースで!」 「はい…」 「クアッドともみじさんの戦闘を見て、アビリティのイメージを固めてみるのも一つの手だろう。アビリティを三つまでしか同時発動できないとはいえ、普通は一つ。それに一つ一つが強力だ。覚えられれば戦力的にはかなり強くなるし、様々な局面において選択肢が増える」 「ランカーには必要不可欠、か」 「天翔…………天翔っ……!」 その日の夜中、わかばさんは1人でアビリティの詠唱を練習していた。 「空を歩く……空気を蹴って進む……イメージ…」 わかばさんは一歩踏み出したが、どれも地面につくばかり。 「わたしならできる……もみじのお姉ちゃんなら……」 一瞬、わかばさんの足は地面につくのが遅れた。 「集中……天翔…」 ほんの数ミリだが、足が宙に浮く。 「…!やった……」 しかし集中が途切れてしまいすぐに地面に着いてしまった。 「……あ」 わかばさんはがっかりしたようにため息をつき、家へ戻ることにした。 振り返るとスクリューが立っていた。 「こんな時間まで熱心だね。今の、惜しかったんじゃない?」 「スクリューさん……集中途切れちゃいましたけどね……」 「君の成長速度は半端じゃない。だからこそ焦る気持ちもあるだろうけど、明日に備えて早く寝た方がいいよ」 スクリューはそう言って歩き出した。 わかばさんはそのあとを追いかけた。 「あ、それと、僕も明日から家を出るつもり」 「…えっ?」 「4ヶ月後、バンカラ大会があるだろう、それに出ようと思ってね、ランキングを上げておきたいんだ」 スクリューは振り返らず言った。 「正直、君には嫉妬するよ。クアッドのこともだけど、恵まれた環境に……ね」 「本当にそうですね……わたしは運が…」 「おっと、運がいい、悪い、なんて言わないでくれよ。僕はこの運で決まる世界結構好きなんだからさ」 「……そうですね。確かに、わたしも好きかもしれません……いえ、色んな人と出会って、好きになれました」 スクリューは小さく笑った。 そしてそのまま家についてそれぞれ部屋に戻り、その日を終えた。