とある街の、とある繁華街。 その繁華街では数年前まで中くらいの暴力団、ヤクザ、マフィアなどの小競り合いが絶えない危険な地域だった。 しかし……そんな繁華街は変わった。 とあるマフィアとヤクザがこの街に来てからはすっかりそんな輩も消え、仮初めの平穏を保っている。 これはそんな街でのお話……。 繁華街の中ほどの場所にある大きめの飯処、「定食・菓子類」。 うまい料理と手厚い接客で今人気の飯屋である。 「ごやちゃ〜ん、これお願い!」 「は〜い」 店内では忙しく赤髪に緑のメッシュの少女…いちごやが料理を運んでいる。 「ふぅ〜、やっぱり昼は忙しいなぁ」 ごやが小さくそう呟いた時、店のドアがぎぃと開いた。 「いらっしゃいませ……ってぼ、店長!」 「久しぶり〜!元気にしてた?」 店長、とよ呼ばれたのは小柄な体をジャケットに包んだ水色髪の少女。 「店長こそ……」 彼女こそ、この店の店長……菓子である。 とは言っても放浪癖で、店を出ている時間のほうが多く彼女がこの店に来るのはレアだ。 「ごめんごめん。ごやちゃんさ、ちょっとここまで挽き肉餃子四つ出前してくれない?チキンラーメンはもう届いてるはずなんだ〜」 そう菓子が紙を見せた時、ほわほわとしていたごやの目が肉食獣のように光った。 「急にごめんね〜」 「いやいや…大丈夫、行ってきます!」 そう言ってごやはバックヤードに戻ると、すぐ鞄を持って出てきた。 「それじゃあ店は頼んますよ店長!」 「了解!」 そんなやり取りを交わしてごやは繁華街へと飛び出した。 ごやは繁華街を抜け、紙に書かれた住所を目指す。 やがてたどり着いたのは繁華街からすこし離れた場所にある、崩れかけの建築物が雑然と並ぶ地域。 どう見ても少女が朗らかに走り抜けるのには不釣り合いな場所だが、ごやは慣れたように奥へ奥へ進む。 やがて到着したのは、落書きだらけの錆びれた違法建築アパート。 「えーっと、麺さんたちはもう居るんだよね…」 そう呟いた時、アパートから低くドスの効いた怒号が響き渡った。 「あ、あそこか〜。この感じもうやるのは確定かなぁ〜」 そう言ってごやは鞄から物を取り出す。 そこにあったのはスタンガン付き中華包丁にアイスピック、釘抜きなど……。 おおよそ物騒なそれらを慣れた手つきで抱えると、怒号の鳴る一室へと向かう。 「それで、返せるか返せないか……どちらなんですか?内臓でも売らないんですか?ああ?」 そこに居たのは水色の髪を肩下まで伸ばした少女と、赤い髪にサングラスを掛けた高身長の男、黒いキャップに白髪の青年。 そして彼らが取り囲むのは黒髪の薄汚れた三十代ぐらいの男。恐らく債務者だろう。 「麺さ〜ん」 「あ、ごやさん。来てくれましたか」 「うんうん、どんな状況?」 麺と呼ばれた高身長の男は、大きな十徳ナイフ片手に振り返る。 「簡単な話、100万の借金して返せないって感じや」 関西弁で水色髪の少女…ろみーが答える。 「本当に、遺憾ですよ……借金はちゃんと返さないと」 白髪の青年…ちょぱすもそれに同調する。 「ひっ、どうか、命だけは……」 「あ?命より金のほうが大事に決まってんだろ」 がっ、と麺は債務者の腹を蹴る。 「もうええ、麺ニキごやさん頼みましたわ」 「そうですね…」 「ひ、ひっ」 債務者は、これから何が起きるか予感した。 「おっけー、麺さんがんばろー」 「そうですね、まずはどこからやりますか?内臓は売り飛ばすから傷つけないようにしないといけませんから厄介ですね」 そう、菓子類はただの飯屋ではない。 この繁華街一帯を支配するマフィア……「菓子類」なのである。 「んじゃーどうしよっかな〜…取り敢えず爪でも剥がそっか〜」 「いいですね、じゃあ私は左手を」 「おっけー」 菓子類は暴力を中心に様々な技術を持った精鋭部隊が多数あり、それが最大の特色だ。 そしてごやと麺は菓子類最大の戦力・拷問部隊に所属している。 圧倒的暴力による制圧で菓子類はたちまち繁華街の長となった。 まさかそんな菓子類のボスが小柄な少女だとは、街の人間は思ってもみないだろう。 「ありゃーこれもう死んじゃったかー」 「そうですね……しかし少し派手にやりすぎましたかね」 「あ、終わったん?」 「ええ」 「……なんか麺ニキが敬語なの違和感があるな」 「……あーー、お前らに高圧的にしても意味ねえな」 「うーん、確かにこれを放置はちょっとまずいかも…」 ちょぱすは債務者だったものを見て呟く。 「それならうちがあそこに掃除頼むわ。目玉は綺麗そうだしな」 「あーそうだね。ろみーさんお願いします」 「おっけー」 ろみーはそう言ってスマホを操作する。 菓子類の掌握する街から少し離れた、裏路地。 その中ほどにある2階建ての建物に、その組織は居を構えている。 「あなご〜電話鳴ってるぞ」 「あっ、はーい!」 その組織の新人の茶髪の少女……あなごは素早く受話器を取る。 「は〜い、こちら狂鳳組…あ、ろみーさん!お久しぶりです!」 あなごの声は心なしか弾む。 「はい、はい…雑居街で「お掃除」、ですね!了解でーす、1時間以内にはきっかり到着すると思いますよー、人員はこちらで相談します!それでは!」 がちゃり、と受話器を置くやいなやあなごは組員達に呼びかける。 「菓子類のろみーさんからお掃除のご依頼だって!場所は雑居街だからそんなに遠くないねー、誰を送る?」 指定暴力団同好会系のヤクザ、狂鳳組。 同好会は菓子類と同盟を組んでいる豊富な業種を請け負う組織で、狂鳳組はその下部組織だ。 目的は国分寺の埼玉化、町田の神奈川化と頓珍漢だが、菓子類の拠点とほど近い場所に置かれているため、何かと菓子類と懇意である。 「掃除、となると本部から硫黄を呼んだほうが良さそうだな」 組長のクルッポウが言う。 「他にも1人ぐらいここから向かわせたらいいんじゃないかね」 老頭のもヴェが独り言のように呟く。 「ならうちが行くわ、それでええやろ?」 そこで若頭ののこが名乗りを上げた。 「最近暇やしな、うん」 「それでいいのかよ」 雑用係長の木犀がツッコミを入れる。 「あと通草も行って来い」 「またパシリかい」 幹部兼菓子類とのパシリの通草が面倒くさそうにぼやく。 「まーまー、まろに車出させるからよ」 「ええ」 突然指名された幹部・まろが困惑の声音で言う。 「まーいいけども」 「じゃーみんな行ってらっしゃい!硫黄には僕が連絡しとくよ」 「頼んだ」 「うし、行くぞ」 こうして3人は雑居街へと繰り出していった。 「お、きたきた」 「お待たせー、ごめん遅れて」 「構わないよー」 数十分後、硫黄が到着するとごやは暖かく迎え入れる。 「はいこれ、目玉」 「あっごやさん!!ありがとう!!」 「さて、お前ら任せたぞ」 「ああ、任せとき」 「うわー、グロ。というか内臓が無い…」 「こいつは借金してたやっちゃからな、内臓ぐらい売り飛ばされても文句言えんのや」 「ひえー、人身売買でも良いだろうに…」 少し怯えたように硫黄が呟く。 「人身売買なんて非人道的なことはしませんよ!」 ちょぱすが慌ててそう言う。 「内臓ならクリーンな場所にも届けられますからね、その方がいいでしょう」 「あーー、なるほど」 「それより早く掃除するでー」 「はーい」 ビニールに身を包み、袋を掴んでのこは作業を始める。 硫黄は丁寧に肉塊を袋に詰め込み、通草は血のこびりついた壁を雑巾で拭く。 そんな様子をまろは遠目に眺め、袋が積み重なるとそれらを車に放り込む。 流れるような作業は、ものの1時間で完了した。 「うんうん、これなら綺麗だね」 「毎度ありがとうございます」 「まあ、報酬はちゃんと払ってるからこんぐらいはしてもらわないと困るってもんですよ」 「へいへい、麺もたまには同好会に顔出してもろてな」 「まあ、利用できそうな時はたっぷり利用させてもらいますよ」 「ごやさん!目玉はありがとう!」 「ううん、綺麗に取れたからねー、それでさ」 ごやがにっこりと指をたてる。 「このあとみんなでウチで食べていかない?お腹すいたでしょ」 「わ、いいね!」 「うちも賛成〜」 「じゃ、お邪魔させてもらおうかね」 「おー」 反応はおおむね好意的だ。 「じゃ、決まりだね」 「じゃあ、私はこれで」 「麺さんは行かないのか…」 「あいにく用事がありましてね、まあそんな訳で」 麺は裏社会に名だたる組織の殆どに加入している。 そのため、かなり多忙なのだ。 「まぁしょうがない、行こう〜」 ごやの一声で面々は歩き出す。 そして数分後、一行が席に着いたのは菓子類系列のラーメン屋だった。 「うーん、やっぱりここのラーメンは絶品やな」 「でしょでしょー」 「あ、人肉入り以外な」 「しーっ、カタギの人もいるんだから」 「……ええ入ってるの!?」 「あ、硫黄山知らなかったんか」 そんな他愛もない(?)会話をしながら時は過ぎていく。 その顔はどれも楽しげで、仲睦まじい。 ごやはそんな菓子類、同好会が好きなのだ。 「うーんやっぱりこの仕事最高かも!」 ごやはそう呟くと、肉厚チャーシューに齧りついたのだった。
菓子類とのコラボのようなものです 許可とってない人ごめんなさい