①での応募です。長いのか? ============================================= 来て欲しい時は一向に来なくて、来たと思ったらやりすぎて逆に困る。 来ない時は本当に来ないのに、来たと思ったら、あたりを滅茶苦茶にして、何事もなかったかのように去っていく。 そんな困った奴だけど、必要不可欠な存在だから、来てくださいと何もかもかなぐり捨てて祈るしかない–—–。 そんな、傍若無人でマイペースな奴がいる。 古今東西我々は、奴に悩まされ、喜ばされ、生かされ、殺され続けてきた。 それが、誰かといえば。 雨、である––––。 「大体雨乞いなんてインチキなんだよ全部!」 樽ジョッキを机に叩きつける。中の麦酒を全て腹の中に流し込んだため、空っぽになったそれは微妙に軽快な音を立てたが、私の怒声にかき消された。 「それを言っちゃあおしまいだよ、巫女様」 「あたし巫女じゃないし! それも勝手にてめえらが祭り上げてるだけだし! 崇め奉れなんて誰も言ってないんだよ!」 「藪から棒に、だなあ……」 向かい側に座る、酒場の店主に悪態をつく。もういっぱいよこせ、と店主にジョッキを向けたが、太鼓腹の彼は苦笑するように首を振った。 「残念ながら巫女様。麦酒ももうほぼないんだよ。巫女様が飲みたいって言うから特別に提供してるだけで、こっちもギリギリなんだ。そもそも一杯の約束だろう?」 「うぐっ……」 大体、巫女は飲酒を禁止されている身なのだ。そこで無理を言って飲ませてもらっているのだから、文句は言えない。まあ、数ヶ月ぶりに酒を味わえたから十分なんだと頑張って納得する。 普段は栄えているはずの村の酒場に人はまばらだった。わずかにいる人々も、私を見て揃って苦笑いだ。少し冷静になってきた頭が、流石に騒ぎすぎたかと焦りだす。 泳ぎ始めた視線は窓の外へとたどり着いた。 「どれもこれも、お天道様が無駄に元気すぎるせいなんだ!」 空には、見飽きたほどの快晴が広がっている。快晴どころか、そのまま地上を焼き尽くしてしまいそうだ。 あまりに無邪気すぎるそれは、すでに私たちの生きる源を潰えさせ、母なる大地を荒らし、世の中の水分という水分を蒸発させようと躍起になっていた。 それもそのはず、この場所では雨が一ヶ月ほど前から姿を消している。 人口数百人規模のこの村は、いわゆる田舎の農村だ。活気のある森林に囲まれ、国のお偉いさんからの重税や病魔などに怯えながらも、なんやかんや畑を耕し、ひっそりと生き長らえてきた。 災害に見舞われたり、国からの徴兵令で若い男がごっそりと死んだり、生きているのだから色々と困難はあったけれども、その度に何があろうと必死でもがいてきた。 しかし、今回の干ばつは尋常でもないほど深刻だった。 雨が降らないというのは、農耕民族である我々を殺す方法の中で最も残虐で残忍な方法だ。戦争で虐殺されるよりも、飢饉で死ぬ方がよっぽど辛いに決まっている。 「……どっちにしろ犠牲は避けられないわけだし……次は……」 どうやら天の神々は現在よほど幸せ真っ盛りらしい。地上の我々は今や笑顔を失い、日々を生きる糧を失い、大切な物を切り捨てる判断を迫られている。 前述の通り、私はこの村の巫女である。聖なる祝日に生まれた娘というだけで、この村の祭事を任されている身だ。好きでやってるわけではないが、私なりに責任を感じている。 巫女という役割は、確かにインチキだけれど、村の人々の命を背負う大切な役割だ。神はいるわけないし、呪術なんてあるはずがないが。 「……ソフィア様も、そんなに無理するんじゃないぞ? 何せ、ソフィア様は聖なるお方なんだから。村の危機をどうにかしようとしてるのはわかるけれど……」 店主は落ち着いた声で労いの言葉をかけてきたが、無理しないなんてできるはずがない。大体この危機を潜り抜けなければ、我々に未来はないのだから。 雨が降らなくなってから、雨乞いの儀式は何度も試した。明らかに似合わぬ天女のような衣装を纏い、快晴の下、あるいは満点の星空の下、倒れるまで踊り続けた。世間で言われている呪術の類は試しきったし、一週間森にこもり、祈りを捧げたこともあった。 神はいないと私は知っている。だけど、そうすることで何かが変わるというのならば、実行する以外に何か選択肢があるものか。だから死に物狂いで私はやり尽くした。 それでも空は未だパーリーピーポー、一向に涙を流しそうにない。 むしろ、涙を流したいのは村人の方だ。酒癖は悪いし、巫女の決まりはよく破るし、何よりサボりがちだし、どう考えても落ちこぼれ破戒僧な私を、暖かく受け入れてくれている彼らを泣かせ、失意のまま死ぬところなんて見たくない。酒場に集まっている彼らは、何も食べず、皆苦しげな表情を浮かべていた。 そうだ、なりふり構ってなんかいられない。 「このまま雨が降らなければ村の人々はみんな命を落とすことになるの。あなただって例外じゃないわ。だからあたしがなんとしても雨を降らせてみせる! おじさん、麦酒ありがとねっ!」 勢いよく立ち上がると、周囲を明るく奮い立たせるように、笑顔を振り撒きながら酒場から乾いた世界へ踏み出す。 あまりにも太陽は眩しく、燦々と輝いている。それこそ人を狂わせてもおかしくない。 だから、この手が返り血に染まっても、太陽のせいにすることができるはずだ。 何度か神秘と呼ばれるものに接触した経験がある。私の雨乞いは、先代巫女の見様見真似で習得した付け焼き刃の舞でしかない。だから成功したことはあっても、それは偶然だ。神はいないし、奇跡は起きない。 だけど、舞っているうちに、魂が別のどこかへ接続するような感覚がごく稀にある。体は舞を踊り続けているが、魂だけは、真っ暗な世界で、ただひたすらに音に耳を傾けている。そう、それは、笛のように澄んだ––––。 村の近くの草原はすでに少し干上がり始めている。茶色くなったその景色を見ていると、前は胸が苦しくなったものだが、今では心も乾燥し出したのかそう思えなくなってきた。 だから、身寄りのない放浪者がいないか探し回っていても、罪悪感は感じられない。 見つけたらまず失神させよう。そして、祭壇の前で殺そう。 正式な手順ではないから、呪われたりするかもしれないが、その時は私が全部引き受ける。それが巫女の定めだ。とはいえ今の私は、巫女とは程遠い格好にある。狩人のような動きやすい服装だ。 すると、なんとも都合の良いことに、人間らしき物体が遠くに転がっているのが見えた。旅の者だろうか、見慣れない格好をしている。私はすぐに駆け出し、意識があるかどうか確認しようとした。 だが、思わず足を止める。その、漂ってきた鼻につく匂いに。それに、なんだかハエにたかられていないか、あれ––––。 動揺しつつも、それににじりよる。うつ伏せに転がるそれは、女の子のようで、どこかの民族衣装のようなものを身につけていた。着物、というのだったか。東国の。 そっとその体に触れ、仰向けにさせる。 腹に、大きな風穴が空いていた。 体は、冷たかった。 やっぱり、その異国の少女は、死んでいた。 私は声も出せずに愕然とする。こんな村の近くで事切れてしまうだなんて、それに死体は人柱として捧げられない。 そして、気づく。 血がまだ真っ赤だ。ということは、少し前まで生きていたのではないか。間違いなく死因はこの腹に空いた風穴だろう。であれば、風穴を開けたやつが、まだ近くに––––。 いた。 飢えた猛獣が、幼き日、母親にこいつを見つけたらすぐさま逃げるんだよ、血を流してはいけないんだよ、と散々聞かされた件の狼のような毛むくじゃらの巨体が、私の背後に構えていらっしゃった。唸り声をあげ、ご乱心でこちらを睨んでいた。 ああ、死んだ。 最後に飲んだ麦酒は、キレながらだったのは痛手だったなあ。せめて酒は楽しく飲みたいのに。 だから神はいないのだ。 ––––いや、まだどうにかなる! 私はポケットから小瓶を取り出した。中に入っているのは、母とかつて共に悪どい笑みを浮かべながら調合した、秘伝の毒薬だ。これで私は浮浪者を亡き者にしようとしていたのだが、仕方がない。乾いた心は恐怖心さえもどうにかしてくれたようだ。短剣も持っているけれど、こっちの方がまだマシ。 猛獣に効くかどうかは不明だが、私はその小瓶の蓋を開けると襲いかかってくる狼の大きな口にそれを注いだ。的は大きい、案ずるな。 さほど効き目はないかと思われたが、唐突に口に液体を流し込んできた人間を見て、怖気付いたのだかなんだかわからないが、猛獣は尋常でもなく顔を顰め、後退りして逃げていった。そんなになるものだろうか? なんだかあっけない。 「あ、これ猛毒じゃない。猛獣避けじゃん……」 ラベルを見て気づく。一応草原に出るにあたって持ってきていたのだ。吸血鬼の口の中にニンニクを詰め込むようなものだ、効果があって当然である。 「ま、ラッキーということで……それよりも!」 問題は死体だ。 これによって人身御供の選択が絶たれたようなものだ。あと一人浮浪者を見つけることは流石に難しいだろう。 異国の風貌のこれをどう処理したものか––––それ以前に、運悪く獣に襲われて命を落としてしまったのだ、ご冥福をお祈りしなければならない。 のだが、なぜか私は彼女のカバンの中を醜くも漁っていた。保存食が残っていないか確認したかったのだ。 「……何これ。笛?」 鞄に入っていたのは驚くべきことに、少しの生活に必要なものと、見慣れない形の笛。これも異国のものだろうか。 なんとなくいたずら心が芽生え、私は笛に口を近づける。ピーヒョロ、と不格好で高い音がした。そりゃ当然だ、こんな形の笛なんて吹いたことがあるわけがない。 思えば楽器を使った雨乞いは何度もしてきたが、この笛でやってみるのはどうだろう。死んだ彼女には悪いけれど。 「今日は暑いですね。おはようございます」 笛を吹いた。 ピーヒョロ、と間抜けな音を出した。 背後から聞こえた、声を無かったことにするために。 「…………」 腹に穴の空いた女の子が、上半身を起こして喋っていた。浅葱色の着物には、赤黒いシミができている。痩せこけた白い頬には土がついていて、髪と瞳は闇の如く黒い。 「……死んでなかったの?」 「ご冗談を。私はすでに死んでいます」 けれども、あなた様が私に動力を与えてくださったのです。感謝しますよ、巫女様。 彼女は微笑んだ。 仕方ないので森に入った。祭壇の近くにある大きな石に腰掛ける。彼女は死体らしからぬにこにことした笑顔を浮かべながら、ぺちゃくちゃと喋り続けた。口数の多いタイプらしく、私が喋ったのは二言三言である。 「いや、助かりましたよ。まさかあんなところで死体を食べようとするようなバカな獣がいるとは思いませんでしたから。にしても困りましたね、穴がなかなか塞がりません。いつもだったらすぐ塞がるのですが」 彼女の名前はハナコと言うらしい。東国では最もポピュラーな名前だそうだ。 数年前に命を落としたが、東国の呪術によってどうにか自我を保って動き、旅を続けているそうだ。いわゆる死霊術、ネクロマンシーの類だろう。 食べ物を所持していなかったのも、食事が必要ないからなのだそうだ。 それでも酒は飲むらしく、ひょっとしたら気が合うのかもしれないが、私は巫女である、外の人に大っぴらに酒を飲むということを言ってはいけない。 「あの笛の音色で私は自分を動かしているんです。だからあなた様が吹いて下さらなければ私はあのまま正真正銘の死体となり土に帰るところだったのです」 その嬉しそうな仕草はどうにも生きているようにしか見えなかったが、致命傷を受けてもピンピンしているのと、漂う死臭が彼女が死んでいるということを示していた。 ============================================= 続きます。
続きです。 ============================================= なんだか気味が悪いが、彼女の人懐こい笑みを見ているとそれさえもどうでも良くなってきた。 「では、救ってくださったお礼に何かしましょうか。芸でも披露しましょう。では、村の方へ連れてっていただけないでしょうか?」 「いや、それは無理」 こんな状態の彼女を村に連れていけばみんなびっくりしてしまう。 「では、ここで巫女様にだけ披露させていただきましょうか。大丈夫です、術に笛は使っていますが、死体以外には無害ですから」 彼女は大岩の上に立つと、すぐに笛を取り出し、有無を言わさずそれに口をつけた。干ばつの話をしようと思ったのに、彼女は人の話を聞かないたちの人間らしい。 しかし、彼女の奏でるその音色を耳にした瞬間、私は気管に異物が混入したような気分になった。 その音色は澄み渡っていた。夏の入道雲のような爽やかさと、焚き火を囲んで行う宴会の賑やかさを併せ持った楽しい曲調だったが、私は別のことを考えざるを得なかった。 この音に聞き覚えがあった。 この、体と心を強制的に切り離すような、圧倒的なオーラは。心臓だけを鷲掴みにされ、崖から滑り落ちるような独特の感覚。 「ハナコさん」 彼女は演奏を止める。首を傾げる彼女の肩を、私は熱烈に掴んだ。鋭い太陽光は、木漏れ日のを通してでも弱まることを知らない。 「その笛……雨乞い、できる?」 雨乞いの時に聞こえる、あの音とひどく似ている。 「雨乞い?」 私は硬く頷く。 あれは幻聴だと思っていた。それか、耳鳴りを私が勝手に変換しているものだと。だけど、こんな場所で死霊術を使える人が同じ音を出すとなったら、わけが違う。 「ああ、ここら辺最近雨全然降りませんもんね……そっか、巫女様は雨乞いをしなければならないのですね」 「そう。そして、雨乞いの時に今みたいな音色を聴くことがあるの」 彼女は顎に手を当て、考え込むように俯く。 「私の笛は基本的に私の体をいじくるものなので、雨とはさほど関係はないような気がしますが」 「でも––––正直言って、今この村は危機的状況にあるの。農耕民族だから、日照りと干ばつで命が脅かされている」 私はこれまでのこと、今の状況をかいつまんで説明する。 「それはそれは、大変です。おそらく巫女様が聴いたその音色は、神の声でしょう。何度かそういった話を聞いたことがあるのです」 「じゃああなたの笛は神様の声なの?」 「そんなことはありませんけど、呪術的な何かではありますよ。私も死んだ時同じ音色を聴いて、蘇りましたから」 奇跡を起こす音とでも思っておけば良いのです。彼女は続けた。 「しかし、流石の私も雨乞いなどは経験にありませんね。できる確率もかなり低いでしょうし」 「構わないよ。もうなりふり構ってられないの」 彼女は顔を上げる。深淵のような瞳はこちらをじっと見据えていた。 「私も元は人間だったのですが、飢饉で死んだ身でしてね。一時は人が人を食べるという酷い地獄に身を置いたこともありました。巫女様方のその状況は見過ごせるわけがありません」 「じゃあ、やってくれるのね?」 私は手を差し出す。 「もちろん」 ハナコさんが笛を奏で、その音楽の中で私は舞を踊る。村人は呼ばず、あくまでもお忍びで行う。 本来儀式を行うときは川で体を清めるのだが、川なぞもはや枯れ果てかけている。だから布で体をぬぐい、祭壇の倉庫にあらかじめ置いてある衣装に着替え、彼女と共に夜を待った。 夜になると憎らしいほどに星空が綺麗だった。死んでもいいくらいに。誰かを殺しても、いいくらいに。 岩でできた祭壇の周りに松明を立て、体に染みついた手順を行う。頭を下げ、神に捧げる言葉を口にしながら、ハナコさんに合図を送った。 彼女が笛を奏で出すと、私はそれと同時に一心不乱に舞を舞った。どんどん気が遠くなり、世界は色を失い、音を失い、光を失い、触覚を失い、私は空虚に近づく。 心と体に刻み込まれた神への言葉だけが概念として蠢くが、いつかそれも空気に溶け込む。 そんな中、ハナコさんの笛の音色だけが、ただ鮮明に奏でられていた。その伸びやかな粒はいつのまにか、重なるように和音を奏で始める。 繋がった、と思った。 神様の音色と、ハナコさんの音色が今同調したのだ。そんなことを考えながら、私は祈り続けた。 どうか、雨を降らせてください。 私たちに、恵みの雨をもたらしてください。 神の存在は信じない。それでも、私たちを救ってくれるのなら、悪魔にだって魂を売る。 舞い出して、どれほど経っただろう。 松明は消えていた。星の瞬きと星の消滅が同じくらいに感じられた。 私は風に吹かれるように、自然に舞えていた––––はずだった。 突然、その私を流していた風が止まる。 バランスを崩し、転倒したのにすぐには気づけなかった。 体がカラカラの地面に打ち付けられることで、ようやく自分の体の所在が理解できた。私は今、横になっている。 奏でられる音色も止まり、代わりにハナコさんが激しく口を動かした。しかし、何も聞こえなかった。 思えば最後に食べ物を口にしたのはいつだろう。麦酒を飲んだ時に、ついでに何かを食べていれば良かったのかもしれない。だけど、私がわずかな保存食を消費するわけにはいかないから。 空は、やはり雲ひとつない。 私は空に手を伸ばす。 いや、伸ばせていなかった。 でも私は伸ばしたつもりで、神様に届くように、伸ばしたつもりで。 彼女が何か言っている。 私にはわからなかった。 そして、自分が衣に忍ばせた短剣に手を伸ばし、自分の喉を掻き切っているのにも、気づけなかった。 真っ赤な鮮血が私の喉元から流れ、ぼたぼたと嫌な音を立てながら地面に吸われる。ゴボッ、と溺れるように私は血を吐いた。純白の衣装が血に染まった。 ハナコさんが死んでいた時から、覚悟は決まっていた。 私の血は聖なる血だ。私は今まで信じてこなかったけれど、ハナコさんが私を一瞥して巫女だと看破したのもそれなんじゃないかと思う。 だから、もしも神がいるのなら、もしも奇跡がこの世に存在するのなら、祭壇の前で私が血を流せば、多少は効果があるはずだと踏んだ。 あまりにも荒唐無稽な話だけれど。 けど、喉を掻き切るのはやり過ぎだったか。でも、人身御供のために誰かを犠牲にしようとした私には似つかわしい罰だ。 ハナコさんが涙を流している。 私は朦朧とした目でそれを捉えた。彼女は笛に口をつけた。そして、もう聞こえないけれど、美しい音を鳴らした。 彼女の涙で私のほおが濡れる。首元が濡れる。服が濡れる。地面に放り出した、指先が––––濡れる。 彼女は天を見上げていた。 大地が、濡れる。 母なる大地が、微量ながらに水を吸う。 そのしとしとという微かな音は、しばらくぶりに聞いた、自然が奏でる音楽だ。 ああ、もう。 おせえよ、この野郎。 死者が巫女を続けるのはどうなのだろう。 雨は降り、村は救われた。 その小雨は、長いこと続いた。それは今まで苦しんできた民を慰めるような、慈しむような優しい雨だった。 喉に穴が空いた私と腹に穴が空いたハナコさんは、村でめちゃくちゃにされた。ハナコさんは英雄として拝まれ、私は村の人々に泣きつかれた。誰にも伝えずに草原に行ったせいで、行方不明だと思われていたらしい。実際死んでしまったわけなのだが。 だけども、どうなのだろう。死体が麦酒を飲んで、どんちゃん騒ぎに混ざるのはどうなのだろう。 放浪者であるハナコさんは散々歓迎されたのち、翌日に旅立った。ついてこないかと言われたが、断ることにした。 雨乞いはインチキだ。ハナコさんだって、きっと手品か何かなのだろうし、私が今生きているのも、あの音色も、幻覚みたいなものだろう。 村の人たちは私とハナコさんのおかげだというが、奇跡なんてないし、神はいない。 けれども、あった方がやっぱり素敵だ。自然界の偶然で日照りになるよりも、神様が幸せだから日照りになっている方が、まだマシだ。 だから私は、心の奥底でその素敵な考えを持つことにした。 今日も、愛すべき彼らの待つ酒場で、麦酒を飲もう。一杯なんかでやめられるわけがない。 ============================================= お読みいただきありがとうございました。 私が書いたみたいになってますが正式には友達です。アカウント持ってないので代理投稿です。褒めるなら友達を褒めやがれください。 以下、作者のお言葉です。 ============================================= この度三題噺コンテストに参加させていただいた、らいむのお友達です。このようなイベントに参加する機会が今まで少なかったので新鮮な気持ちで制作に取り組ませていただきました。和テイストのお題なのでそのまま和風に行くべきかと悩みましたが、奇をてらってみようとあえて舞台は西洋の農村にしてみました。しかし読み返してみるとあまりヨーロッパ味が出ておらず、ちょっと失敗した感じです。語り部で巫女さんであるソフィア氏は神を信じない麦酒大好き破戒僧で、雨乞いなんてインチキだと喚き散らすようなやつなわけですが、そんな彼女にも今まで育ててくれた村への恩があります。だったら神だろうがなんだろうが関係ない、なんでもいいから雨を降らせてくれ、という有無も言わさぬ生きたいという意思が伝われば嬉しいです。雨がないってのはやっぱしんどいっすよね。かつての日本で起きた飢饉においては食肉も行われていたそうで、私としてはその要素も入れたかったのですが、あいにくと入れる場所がありませんでした。