日本のどこかにある、とある地域。 そこはマフィアや麻薬カルテルが跋扈するような劣悪な環境の街だった。 蔓延るストリートチルドレン、殺人、窃盗、麻薬……。 そんな環境で育って、将来に絶望していた。 けど、あの人が助けてくれた。 あの時あの人が自分を助けてくれたように、誰かを救えるような存在になりたい。 こうしてとある少女は、警察官となった……。 しかし、現実は厳しかった。 警察は裏社会に飼い殺され、傀儡と化していた。 買収が横行し、弱者を挫き強者を助ける。 もはや警察としての体制は崩壊していた。 一度はそれに絶望しても、彼女は諦めなかった。 組織がだめでも、自分が動けばいい。 こうして彼女……みるあは自主的なパトロールを始めた。 いつか、自分を助けてくれたあの人みたいになるために! 「ふわぁ〜、おはよーございまーす」 みるあは、菓子類の支配する繁華街の近くの警察署に勤務している。 「……」 ほかの警察官たちはあいさつを無視し、無口にたばこを蒸している。 みるあは今年から警察官となり、働いているピチピチの新人である。 理想と現実の差に愕然としながらも頑張って適応しようと、明るく挨拶をしているが……いつも無視されるばかりだ。 しかし彼女は諦めない。理想の人になる為に! そんな訳で今日は繁華街にあるとある場所に潜入する予定だ。勿論無断で。 「それじゃあ行ってきますね〜」 ほかの警察官達はその一言も知らぬふりだ。 それを良いことにみるあは街へ飛び出していった。 まずは制服から黒いジャケットに着替えて……そして念の為サングラスをする。 「よし、これで大丈夫…なはず」 そしてありったけ集めたお金を厳重にバッグに詰め、懐に隠す。 あとは拳銃を腰に忍ばせれば準備完了だ。 繁華街の表通りは菓子類の支配でかなり治安は良くなったが、一歩裏路地に入れば拳銃は必須となる。 「まあ警察官だし合法、合法!」 そんな事を呟きながら裏路地を通り抜ける。 ……と、 「あ、みるあさん!久しぶり!」 誰かに声をかけられた。 一瞬硬直するが、すぐに声の主を悟り振り返る。 「硫黄さん!?どうしてここに」 「あ〜、え〜っと、さっきなんか見覚えがある人がいるなって追いかけて来ちゃった」 硫黄とみるあは、ストリートチルドレン時代の仲間して友人関係なのである。 二人とも就職やらなんやらでご無沙汰だったので、久しぶりの対面である。 「こんなところに居て、危ないよ?そりゃこの街には慣れてると思うけど……」 「あ、あはは、それもそうか…」 みるあは硫黄があの同好会に入ったことを知らない。 硫黄はみるあが警察官になろうとしている事を知っていたので、うまく誤魔化しているのだ。 「それで、みるあさんはどうしてここに?」 「んー、潜入調査かな。詳しくは秘密ね」 「そ、そっか。気をつけてね」 「うん。じゃ、行くね!」 「あ、ばいば〜い」 裏路地を駆け抜けるみるあを見て、硫黄はため息を吐く。 「大丈夫かなぁ。変なこと無いといいけど…」 その声音は、純粋に友達を心配している気持ちが表れていた。 その時、ポケットのスマホが振動し始めた。 「はい、こちら硫黄。……了解です!向かいますね!」 短い会話を終えると、硫黄は同好会の一員としての顔に戻り、裏路地を抜けていった。 「えーっと、ここだよね」 みるあが見つめているのは、いかにも場末の建物、といった風亭の雀荘。 しかし、その雀荘の前に立つ黒服の男は、虚空を見つめつつも只者ならぬ雰囲気を醸し出している。 「……よし、行こう」 勇気を振り絞って、みるあはその雀荘へと足を進めた。 「あの〜、すみません」 みるあはできるだけ堂々として、黒服の男に話しかける。 「なんでしょうか」 その声には、多大なる威圧感が含まれている。 「自分、ここの〝カジノ〟に来たんですけど」 そう、場末の雀荘は仮の姿。 この建物の奥には、同好会が所有する巨大な闇カジノが広がっているのだ。 「……一見さん、ですよね?」 「は、はい」 「それなら初回料として小指を」 「へぁ!?」 「……冗談ですよ、一万円」 いやそれでも高いな、ぼったくりだろと思いつつみるあは諭吉を渡す。 「それでは、どうぞ」 男がそう言ってドアを開けると、そこにあったのは……。 「うわぁ、すごい」 豪華絢爛に彩られた宮殿のような空間だった。 談笑する人、絶望したように床に這いつくばる人、余裕気なディーラー……。 まるで闇カジノの比ではない、豪奢で賑わったその場所に暫し唖然とするものの、すぐ気を取り直す。 取り敢えず、手っ取り早そうな賭けをしよう。 そう思って辺りを見渡すと……。 「そこの人……もしかして初めての人?」 ぽん、と方に手を置かれた。 「わ」 急いで振り返ると、そこにいたのは同じぐらいの年のオレンジ色の髪をひとつ結びにした女性が居た。 「ごめん、驚かせちゃったかな……」 「あ、あのあなたは」 「えーっと……猫、かな。そう呼ばれてるよ」 猫、といった彼女は、このカジノに似合わない優しそうな雰囲気をしている。 「猫さん、どうして私に声を掛けたんですか?」 探り探りみるあが問う。 「んー、緊張してそうだったから…どうしたのかなって」 「そ、そうでしたか」 やばいやばい、落ち着かないと。 何しろこの闇カジノは「命すら賭け金」と呼ばれる超危険なカジノである。警察のデータベースに侵入した時にもいろんな暴力沙汰が書かれていた。 だから緊張気味だったのだが、まさかそんなに気づかれるほどだったとは……。 「まあ、ここは楽しむ場所だから大丈夫!気軽に参加してね!…あそこのルーレットとか初心者にはおすすめ!」 「あ、ありがとうございます!」 「……じゃ、ゆっくり楽しんでください」 そう言って猫はふらり、と人混みに消えていった。 「あの人、なんだったんだろう」 まあいいや。取り敢えずおすすめされた場所に行って様子を見よう。 みるあはそう思い直して駆け出していった。 猫の不穏な気配に気づかずに。 猫はそのまま、スタッフオンリーの扉をくぐり抜けた。 「あ、ねこわかさん!お疲れさま!」 「ありがと!」 猫……いや、ねこわかはほがらかに答えつつバックヤードの椅子に座った。 「それでさ皆、ちょっといいかな?」 そう呼びかける目は、少し暗い。 「なんでしょう」 「ちょっと挙動が変な子がいて、なんか怪しいかな〜って思って」 「と、言うと?」 「ここを探りに来てるみたい。そう決めつけたら良くないけど……」 「まあ、オーナーがそう言うなら警戒しときますね〜!」 「じゃあお願い」 そう、ねこわかはただのカジノ客ではない。 彼女はこの闇カジノのオーナーなのである。 何故そんなオーナーの彼女がカジノをほっつき歩いていたのか? サボって居たわけではない。彼女自身がカジノ内をパトロールしているのである。 今回のみるあもそうだが、敵対組織がこのカジノを崩壊させようとした見に来ることもある。 そこで早めに察知して、先に手を打ちたいという考えだ。 「争いとか自ら好んでやるものじゃないなら……うん」 というのが彼女の考えである。 さて、ルーレットを勧められたみるあは馬鹿正直にそのブースへと足を運んでいた。 「できらぼろ儲けできないかな〜なんて……いやよくないよくない」 みるあは平和ボケしているが、ねこわかが勧めたそこは決して初心者向けではない。 探りを入れに来た怪しい者たち用の、特設ブースなのである。 「初めての人、かな?よろしく〜僕がディーラーね〜」 みるあが席につくと、ディーラーはそんなふうにへらへらと笑った。 「ルール説明いるかな?まあ単純に赤か黒か選んでBET、ってやつ。おっけー?」 フレンドリーな様にみるあは面食らうが、すぐ持ち直しコインを手に取った。 そしてディーラー……すまるとは笑顔のままみるあを観察する。 (うーんあの焦りっぷり、すごいあやしいね) ほぼクロと言って差し支えないだろう。 そう判断してすまるとはこっそりと腰に入れた通信機のボタンを押した。 「……クロみたいっすね」 「だな」 バックヤードで社員のわそわそと紅茶が通信機を見ながら言う。 「あーやっぱりか…」 ねこわかは残念そうにぼやく。 「じゃー麺ごやに連絡しとくよ」 「そこまでしなくてもいいと思うけど…」 「けど同好会は今忙しそうだよ」 「うーん、そっかあ」 じゃあ決まりだね、と同じく社員のささにいは素早くスマホを操作した。 「……お、15分ぐらいで着くらしいよ」 「それなら余裕だね」 そんな会話が繰り広げられていることも、麺ごやこと「拷問ツインズ」がもうすぐやってくることもみるあは知らない。 果たして彼女の運命は如何に…。
雀荘の話です 想定以上に長くなったので続きます、あまりに更新遅れるのもアレなので あとみるあさんすみませんでした