わたしたちには分からない"終焉"のおはなしたち。 --- 『糸』 死後の死についての話。あるいは、希望という妄言(いと)を断ち切る話 --- 『虚空通信記録』 とある世界の終焉を記した、ちっぽけな黙示録(削除済)の話 --- 『残響』 終焉・死という概念について、つまらない独自解釈を垂れ流す箱の話 --- ・この作品は @karumeria_22 様主催【残灯聲】空識継構参加作品です。短編集形式です。 ・文字数の都合上、使い方とメモクレ欄に分割されてしまい、枠が小さく読みにくいので一応中にも全文入れておきました。 ・中に『残響』以外のタイトルに使用しようと思っていた素材とか、そういうのが色々入ってます ・誤字脱字や形式等、何かしら問題あれば教えてください。 ◇◇◇ 『糸』 私は今、地獄にいた。 比喩表現ではなく、いわゆる罪を犯したものが落とされるという、その地獄である。 この地では至る所で叫声が聞こえ、ある者は咽び泣き、ある者は既に冷え切っていた。しかしその鼓動が止むことは無く、苦しみを味わっている。 私達はほとんど永遠ともいえる苦しみを味わったのちに上に昇っていく、筈だった。あるとき、淀んだ赤色の、気が狂いそうなほど一色で染まりきっている空に亀裂が入り、強い光とともに一本の糸が降りてきた。 この場所に落とされたときから先輩方より話だけは聞いていた、救いの手。 天上より垂らされた、一本の糸。 この場所は広大で、この光を目視したとしても消えてしまう前にたどり着くのはとても難しいだろう。 実際、私も一度逃したことがあるのだ。 そんな糸が、いま私の前に垂れてきたのは幸運というほかない。 既に数人が私の先に登っているようだったので、あとに続くようにして私も糸を掴んだ。 その瞬間、糸がゆっくりと引き上げられていった。 本当にギリギリ間に合ったようで、遅刻寸前で待ち合わせ場所、職場、学校。そのような場所に着いたときのような、それを何倍にも増幅させたような。ここに来てからはしばらく体感したことのなかった、言われようのない高揚感におそわれた。 すこしずつ、上へ上へと昇っていくと、突然周囲の景色が変わった。そこは住宅街であった。 自分がいた頃の現世とあまり変わっていないように見えるが、色彩が薄すぎる。 周りを見回すと、肌の白い、地面から浮いている女が恨めしそうな視線をどこかの親子に送っていたり、謎の光球が視界の端にちらちらと映る。 ああ、これは幽霊の視界なんだろうな、と思った。 幽霊の視界なんて考えたこともなければ、今まで見たこともなかったのに、なぜか。 心霊スポットや曰く付きの場所でしか目撃されないような幽霊がそこらにいるのを見ると、なんとなく嫌な気分になってしまう。 まあ、私自身も地面、もしくは世界の境界のようなものをすり抜け上へ昇っているので傍から見たら同じか。 そこで漸く気づいたのだが、この糸、かなり粘着力が強い。手を離してもくっついているし、多少揺らすだけで千切れるような強度ではないことが分かる。 現世の名著では、この糸によって醜い争いがおこり、最終的に千切れて全員が落ちてしまう、なんてことが書かれていたような気がするが__ 少なくとも、その心配はなさそうだ。 そんな事を考えているうちに、周りの色彩が鮮やかになっていた。おそらく、人間のいる世界まで昇って来たのだろう。 まあ、周りの人間たちはこちらを認識できないようだが。先程の視界に映った幽霊を思い返すと、この普通に見える町並みにも寒気がする気がした。 地獄で罰を受けてから、そのような感覚は久しく無かったのでそれが本当に恐怖かはどうか分からなかったが。 しかし、この世界を見ていると自分の生前を思い出す。名も知らぬ一般人、友人、果には家族からも蔑まれ、いくら地獄に落ちようとこれ以上の辛い思いは無いだろう、という浅はかな考えのもと自死を行った私は、その考えが間違っていたことをすぐに理解したのだが。 地獄に落とされてすぐ、その空間自体から痛みを感じることに気づき、その空間の中でで針山、溶岩、人同士での醜い___いや、やめておこう。これから救いが待っているというのに、こんなことを思い出すのは精神衛生上よろしくない。 そんなことを考えているうちに、周りの景色は雲の上のようになっていた。いわゆる極楽浄土、天国であろうか。 そこに着いたとき、違和感を感じた。数人のきらびやかな布のようなものを身につけた、見目麗しいおんな__天女がこちらを見ていた。 しかしそれは、同情、哀れみのような視線だった。 そもそも私達は地獄からやってきた不法入国者のようなものだ。蔑まれるような視線で見られるのは納得できる。 しかし、なぜ同情や哀れみと言った感情を向けられないといけないのか、分からなかった。 あれ、そういえば。 私達は、ここが目的地ではなかっただろうか。 糸はまだ遥か上に伸びていて、私達はまだ上に昇っていっている。 私の上の何人かもそれに気づいたようで、体を揺らしたりして無理矢理にでも降りようとする。 しかしこの糸からは離れられない。 そうこうしている間に、天国の更に上、謎の白い空間に周りが変わっていた。先程までいた場所は雲の上、青空が天に広がっているような状況であったがここは違う。 まるで光の中にいるように、一面が真っ白であった。 不思議とこの空間は暖かく、いつか私達がいたであろう胎内のような__実際、そのころの記憶はまったくもって残っていないのだが__そんな安心感を感じる場所だった。 その暖かさで安心したのか、先程まで焦っていた数名も脱出を試みるのを辞めていた。 ふと上を見やると、糸に掴まった人が光のなかに、沈むように消えていくのが見えた。もう終点のようだ。 一人、また一人と消えていき、とうとう自分の番になった。 空いている手を伸ばし、少し光の中に入れてみる。 その中はここよりも暖かく、暑いくらいで、少し湿ったような空気を感じた。 まだ見ぬ救いの空間に期待を寄せながら、段々と頭の天辺からその世界に入り込んでいく。 天国の更に上へと向かい出したときは内心少し焦ったが、あったじゃないか。新たな__というより、自分の知らないだけだった__救いの空間が。 漸く頭が全て入ったあたりで周りを見渡す。 そこは薄暗く、湿っている生臭い空気が充満した、 口? ぐぢゃり。 ----- 『虚空通信記録』、『残響』はメモクレで。
使い方欄の続きです ◇◇◇ 『虚空通信記録』 30120422.log 開始 - 安定化 - 生命 - 交信 - 祈り - 異界 - 可能性 - 信じる 30120423.log 開始 - 安定化 - 交信 -可能 - 受信 - 不可 - 希望 - 記録 - 依頼 30120427.log 開始 - 安定化 - 交信 - 民衆 - 恐怖 - 傷害 - 不明 - 原因 - 対策 - 無し - 現時点 30120501.log 開始 - 安定化 - 原因 - 霊的存在 - 関与 - 対策 - 完了 30120507.log 開始 - 安定化 - 再発 - 何故? 30120519.log 開始 - 安定化 - 原因 - 不明 - 災害 - 多発 - 神的存在? - 不明 - 調査 - 継続 30120601.log 開始 - 安定化 - 不明 - 外部 - 通信 - 途絶 - 終焉 - 辿る 30120607.log 開始 - 安定化 - 不安 - 疑心暗鬼 - 凶行 30120609.log 開始 - 安定化 - 疲弊 - 死人 - 多数 - 怪異? - 殺人鬼? - 神罰? - 不明 30120611.log 開始 - 安定化 - 生存者 - 不明 - 希望 - 喪失 - 望み - 伝達 - 痕跡 - 生の印 30120612.log 開始 - 安定化 - 燭台 - 血飛沫 - 錯乱 - 安易な霊障 - 強大 - 祓除 - 不可 null.log 助けて 301n061aa5.log 開始 - 何故? 3./akkk88.log 開始 - 無意味 30120701.log 開始 - 安定化 - 最終通信 - 依頼 - 保存 - 単語の羅列 - 意味不明 - 結構 - 我々 - 依頼 - 記録 - 保存 - 痕跡 - 残穢 - 生 3kajjj_/.log 開始 - 痛い - 蜉ゥ縺代※- 痛い - 熱い - 苦しい - 髴企囿 - 死 - 豁サ縺ォ縺溘¥縺ェ縺 - 死 - ----- ※破損が確認されたデータです。削除しますか?(y/n) /y !アーカイブ上からも完全に消去されます。それでもよろしいですか?(y/n)! /y approval. Deleting...Deleting...Deleting...Deleting...Deleting... Deleting...Deleting...Deleting...Deleting...Deleting... 削除が完了しました。 ◇◇◇ 『残響』 「それは、ある日のことでした。 人々が皆一様に同じ真っ黒い服を身につけ、その当時は退屈だと思っていた、人々のエゴによって燃やされる死体にかなしみを捧ぐ儀式が終わったあと、私はたったひとり欠けただけなのに、何故かとても広くなったように感じる、祖母の家に泊まっていました。 そこは田舎で、なおかつ子供が興味をしめすような玩具などなく、唯一の楽しみともいえるテレビは、21時には父のスポーツ観戦で占領されていました。同時に親に寝るよう促された私は、おとなしく寝室として使っていた仏間に向かいました。 当時の私はまだ小学生でしたが、祖母が存命だったころの帰省で、広い家に興奮した私は自分の憧れであった自室のかわりに、この仏間で寝ると宣言しました。 今までは何とも思わなかった部屋ですが、いざ葬式の後にここに来るとなると恐怖や怯えが出てきました。 その時点で親にその事を話し、一緒に寝ることを選べばよかったものの、子供ながらの見栄でそれを口に出すことはせず、恐怖の中敷かれた布団に寝転がりました。 しかし無理やり寝ようとしても、恐怖、それに今までよりも早い睡眠時間のせいで眠ることができませんでした。 すると突然、なにもないはずの場所から聞き覚えのない、すこし掠れた男性の声がしました。 「寝れないの?すこし、物語でも話してあげようか。」 それは__四角い箱から声が出ているだけだったので、本当に中身があったのかもわかりませんが__その、両手に収まってしまうような小さな箱の中から(もしくは箱自体が)私に話しかけていました。 今思えば、それは棺だとか、そのたぐいの物だったのだろうと思います。 その不可思議な現象に最初は怯えていましたが、そのとき私は入眠に成功し、この環境のせいで嫌な夢をみているのだと、そういうふうに解釈したので、それに返答を返してみました。といっても、軽く頷いただけだったのですが。 「そっか、じゃあとある怖い話をしてあげよう。まあでも大丈夫、すこしきみには難しい話だから、怖さは感じないと思うんだ。」 そう前置きをして、彼は優しい声色で話を始めました。 「昔々、もしくは少し前、今現在、はたまた未来。いつかは分からないけれど、君たちのように、普通に過ごしていた一人の男がいた。その男は、死んだ。幽霊は信じていたが出会うことなく、人間関係に難があったわけでもなく、普通に生きて、普通に死んだ。 ただし彼は仏教徒__ではなかったが、葬式の方法が仏教方式の火葬であったから、まず安易に天国あるいは地獄に行くのではなく、輪廻の中で廻り続けるんだろうな。そう自分でも思っていた。 しかし彼の脳内ではそこで一つの疑問が湧いた。 人間の死、終焉、そう呼ばれるものの定義だ。 心臓が動きを止めたとき?人に忘れられたとき?肉体が完全に消失したとき? 仮に心臓の動きが止まったときを死としたならば、ここに自分がいるのはおかしい。それが死の定義であるならば自分はとっくに記憶が消え、あたらしい生命として、もしくは別の世界で新たな苦しみを受けているはずだ。 では人に忘れ去られたとき?それも違うだろう。 なぜなら、自分は今実体のない状態で現世にとどまり続けていたからだ。 この世界に存在する以上記録は残るし、とどまっているのだから思い出させることだってできるだろう。 ならば肉体が完全に消失したとき。それもあり得ると思ったが、やはり違う。骨になり、土に埋められ、分解されたとしてもその土地にはまだ自分の一部と呼べるものが残っているのだろうし、もし素粒子レベルになり認識できなくなることを"消失"とするならば、こんなにも大勢の生物は、転生できず、生まれもしないだろう。 ___そんなことをずうっと考えていたが、結局は堂々巡りだった。 そのうち、誰にも干渉せず、誰にも干渉されなかった彼は俗世間の束縛、迷い、苦しみから抜け出した。いわゆる"解脱"といわれるものだった。 しかしその後に待っていたのも死や終焉ではなく、単にその世界の外、わだかまりや欲望、苦しみがないだけの退屈な場所でただただ輪廻の中の人々をみていることしかできなかった。他の世界をみても、ただ同じように輪廻が違う魂によって行われているだけだった。 幽霊、怪異、呪い。そのような存在として自分のいた輪廻ではない輪廻であれば姿を現すこともできたが、そんなことをしても答えは得られず、輪廻に戻ることもなく、ただただ長い時間を過ごしていたのだった。」 私は話の内容が完全に理解できないわけではありませんでした。 まあ、本当になんとなくとしか分からなかったのですが。 彼は、仮に終焉を理解したとしてなにがしたいのか、なんてことを薄っすらと考えましたが、答えは出ませんでした。 というより、話の内容よりも自分がこんな話を夢の中とはいえ創造できることに驚いていたような記憶があります。私は本も全くといっていいほど読まず、死や終焉についても、考えないようにしていましたから。 だからこそ、物語を語っているのではないような、不思議な語り方だったのだろうかとも思いましたが。 「それで、君のもとにも来たんだ。幽霊として。」 しかし、その一言で私は、ああ、これは夢じゃなくて本当に来ているんだな、と漸く理解しました。 眼の前にあるそれが本当に非科学的なものだとわかった上でも、何故かもう恐れはありませんでしたが。 何のために、と、そういうことを聞いた気がします。 それ__いや、彼と呼ぶべきでしょうか。 彼は、今までと違う、少し笑いを含んだような声で私に問いました。 「ねえ、君は終焉、いや、終わりの定義って何だと思う?僕は、そんな物があるとは思えないんだけど。」 私は、その質問にすぐ答えることはできませんでした。 でも、一つだけ、言いたいことがありました。 「こう成ってしまった時点で、既に終わっているんじゃないですか?」 「あ」 言うと同時に箱を蹴り飛ばすと、一段と強いノイズ混じりの(ここでそれが棺であり、ラジオでもあったことに気づいた)声がして(掠れた声ではなく、音質が悪いだけだったのか)、意識がはっきりと戻った頃には布団の中で朝を迎えていました。」 という音声が、眼の前のラジオあるいは棺からこびりついた残響のように再生されていた。