~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 僕らはちょっと不思議だ。 例えば、なぜ僕ら人間は直立して二足で歩いているのか。 なぜ僕ら人間は喋れて、感じて、行動できるのか。 なぜ僕ら人間は様々なものを作り出して、壊して、新たな文化を、技術を作ろうとするのか。 なぜ僕ら一部の人間は、普通の人なら使えないような特殊能力が使えるのか。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 寒かった。いや暑かった。正確に言えば僕の体は濡れていて、とても寒い。しかし、肌に触れる空気は湿っていて暑い。アスファルトと水が混じったような独特なにおい、頬に伝わる淡いような水滴。雨だ。雨が降っている。そして、肌に感じるぐちゃぐちゃしたクッション…いや、異臭がするクッション。これは何だろうか。 僕は重い瞼を開け、体を起こした。僕が寝ていた場所には、ビニール、ビニール、どこをとってもパンパンになったビニール袋の山だった。そして、この異臭。 ゴミ捨て場だ…この僕という人間はゴミの詰まったビニール袋の上で優雅に寝ていたわけだ。ナチュラルな絶望感を覚えた僕はゴミの上で寝そべるのをやめて、立って周りを見渡す。どうやら路地裏に位置するゴミ捨て場だったみたいだ。そしてこの路地裏は人気(ひとけ)がないのがすぐにわかる。おそらくこのゴミたちも長年放置されているのだろう。一気に寒気を覚えた僕は立ち上がり、濡れて重くなった服に鬱陶しく思いながらも路地裏を出ることにした。 雨はしとしとと降り続けている。少なくともまだ止みそうにない。そういえば、なんで路地裏にいるんだっけ。わざわざ、こんな誰もいないような薄汚い路地裏にいるのだ。なにか理由があるはずだ。僕は思考を巡らせる。しかし、何も見当がつかない。 いや、思い出せないのだ。僕はどこから来たのか、どこへ行こうとしたのか、なぜここに来たのか。 あれ、そもそも。 「僕って誰だっけ…?」 何も思い出せない。自分の名前も、家族も、友達も、趣味も、嫌いなものも、何もかも。全部わからない。なんでだ、なんでなんだ。 『そうだろうな。忘れてしまったのだな。』 頭の中に誰かの声が響く。誰だ、誰だ。一体誰なんだよ…!頭が落書きのようにかき乱されていく。よくわからなくなっていく。早く路地裏から抜け出して、誰か僕のことを知っている人に連絡を。それか、警察に。いや、そもそも僕を知っている人が誰なのか忘れている。警察も僕を保護するだけだ、僕が誰かはわからない。どうしよう、どうしよう、視界が暗くなっていく… 『いずれ分かる。今は休め、逃げろ。あいつらが来ないうちに…』 そうか、休めばいいのだ。僕は路地裏に倒れこんでしまった。 まだ、雨は止まなさそうだ。 「お~い、大丈夫?お~い、起きて~。」 頭の中に響いた声とは違う、優しくて、安心する声が耳に入った。誰なんだろうか。重たい瞼を必死になって開ける。視界が明るくなる。 「あ、起きた。よかった~!」 目の前にいたのは若い、高校生くらいの少年だった。特徴的なくせっ毛、タートルネックのセーターの上にTシャツを着ているナチュラルな服装、僕から見て右目に独特な傷があり、それのせいか左右の目の色が違う。オッドアイとかいうやつだ。左目はオレンジ色で、まるで炎がともっているのではないかと錯覚するくらい明るい。傷のついている右目は黒に近い赤色で、月食の時の赤い月夜を連想させるくらい引き込まれる。体はほっそりとしているが、倒れ込んでいた僕の上半身を起こしてくれて、がっちりと支えている。体も口も動くことがままならないくらい疲れ切っている僕に少年は問いを投げた。 「大丈夫?君、ここで倒れてたんだよ。」 ゴミ捨て場の次は路地裏で倒れていたのか…自分自身のことではあるが人間としてどうかと思う。薄汚い路上で寝るのは身体的にも精神的にも無理があることだと僕は実感した。少年は僕の返答を待っているらしく、心配そうなまなざしを向けてきた。なので僕はあいまいに「大丈夫です」と返しておいた。 にしてもこの少年は一体誰なのだろうか。少なくとも僕は知らない。まあ、忘れているのもあるが。 というか、僕は一体誰なんだろうか。なぜ僕は全部忘れているのだろうか。 そして、倒れる直前の声は誰のものだろうか。「あいつらが来ないうちに」。これが声の最後の言葉だった。あいつらとは誰なんだろうか。あいつらと言っているからには複数人なんだろうな。でも複数人が来るような機会が僕にはあるのか? 僕が思考を巡らせているなか、少年は僕を支えた体制のままで、質問をしてきた。 「君…どうしたの?倒れていたし、体調とか悪いんじゃない?」 そこまで聞いてくるのか、この少年。デリカシーとは、とも内心思いながら僕は答える。 「まあ、はい。雨だから体が冷えてしまったかもしれませんね。」 そっか~、と少年はあいずちをうった。それから少年は少し目を細めたり、首を傾げたり、斜め上を向いたりして、しばらく考えた後、僕の方を真っすぐに向いて、 「体調悪いなら、俺の家、来る?」 と言った。 僕は聞き間違えかと思った。そりゃそうだ、とも思った。それを察したのか少年はもう一度「俺の家、来る?」と笑顔で言った。 「は?」 本当に言ったことに、しかも二回目には素晴らしく笑顔で行ったことに対してびっくりした結果、間抜けな声を出してしまった。どういうことだ?家?普通、道で倒れていた人に「家、来る?」とか誘うのか?いや、普通じゃないのか、この少年は!? 「よし、じゃあ行きますか。」 返事も聞かずに、少年は僕を支えていた手を放して、立ち上がる。僕はよろけて、何とか地面に頭をぶつけないで済んだ。扱いがひどいとも思いながら、僕も何とか立ち上がる。水をすった服がゴミ捨て場を出たときからかなり重くなっていた。きっと、僕が気絶しているときにも雨が降っていたのだろう。もちろん、目の前の少年の服も若干濡れていた。でも、この少年はずっと僕を支えて、雨の中、ずっと声をかけていたのだろう。優しい少年だ。なぜか、この少年になら、ついていってもいいと思ってしまった。 「あ、俺の名前、教えてなかったね!俺は橙田俐斗(とうだりと)!よろしく!」 君の名前は?、と続けて聞いてきたので名前を忘れている僕は「名乗るものではないです…」と返しておいた。少年は「そっか!名乗るものではない、さん…か!」と少しイラっとする意地悪をしたが、その後はついてきてと言わんばかりに先導して前を歩き始めた。僕は行く当てもないので、その少年…俐斗についていくことにした。 よく見ると俐斗のほうが少し背が高い。声が高いので僕より年下かと思ったが、そんなに歳は離れていなさそうだ。となると、僕の年齢は同じくらいなのか。 何も覚えていない。不安だし、怖い。けど、こんな感じの少しの発見があれば、きっと思い出せる。はず。 路地裏を出て、少し人気(ひとけ)が出てきた道を通っているとき、俐斗が真横に来て、質問をしてきた。 「ねぇ、ねぇ、なんだか変なにおいがする気がしない?なんというか…ゴミの山とコンクリート…あの路地裏のにおいが…するような?」 「あ~なんでしょうね…」 もう二度と屋外では寝ないようにしようと思った。
『ビべエルモメント』 No.1「雨と記憶」 次回↓ https://scratch.mit.edu/projects/1216473088 【登場人物】 僕(名称不明) 橙田俐斗(とうだりと) 色んな人が小説を書いていて、書きたいなって思ってしまいました!!オリ棒?人間?の世界観のお話です!!(( 「ケモノじゃないんかい!!」って思ったあなた、このお話、結構黒来の創作のケモノの世界観に関係ありますよ!!飽きるかもしれないし、飽きないかもしれない!!次回もお楽しみに!!