都会の町ってすごくキラキラしてる。人がたくさんいて、大きくて、なんと言っても夜でも明るい。夜でも人が起きている、生きている街なのだ。 まるで俺が生きていた世界とは違う、気がする。覚えてないから謎だ。 そんなことを俺、橙田俐斗(とうだりと)は思いながら夜の町を歩いている。後ろを歩いているのは、さっき出会った「名乗るものではない」さんだ。え?おかしい?だって、本人がそう言ってたんだから、そう呼ぶしかないでしょ…! なんで名乗るものではないさんと一緒にいるのか、それは少し話は前に戻る。 俺はアルバイトをしている。アルバイトの関係上、路地裏に入り込んでいた。がそんなとき、彼は路地裏で倒れていたのだ。そんな人をほおっておけないのが僕の性分、あきれるくらいのね。雨が降り続ける中、何度も声をかけ続けた。起きないから、手遅れなんじゃないかとも思ったが、雨がやみ始めたころ、目を覚ました。それで体調が悪そうだったので、「家、来る?」と誘ってみた。まあ、そもそも連れていくつもりだったんだけど。そんなこんなで、俺らは路地裏をでて、大通りを歩いている。 「あの…」 名乗るものではないさんが後ろから話しかけてきた。俺は振り返って、彼を見た。俺より少し身長が低く、見下ろす形になっている。 「俐斗さん…の家って…?」 ああ、なるほどね。まあ、確かに何も彼には言ってなかった。こういうところもよく直せと言われる。とはいっても説明が難しい。 「えっとね…俺はアルバイトをしているんだ。そこの雇い主?の家…事務所に住ませてもらってる感じかな…?」 結構、簡易的にまとめることができた。本当はもっと複雑だ、でも全て教えることはできない。大人の事情、ってやつだ。大人じゃないけど。 「つまり、僕は俐斗さんの住み込み先へ行くってことですね。」 ぴったりな言葉が見つかった! 「うん!そうそう!」 俺は少し嬉しくなった。というのも俺には語彙力がなさすぎる。 「あ、ありがとうございます…」 彼は少し下を向いた。その顔は少し嬉しそうにも見えた。人の嬉しそうな顔を見ると俺も嬉しい。それだけだ。だから、衝動的に動いてしまうのだろう。今回も倒れている彼を見て、衝動的に動いた。もしかしたら何もできないかもしれないのに、迷惑かもしれないのに。でもいいんだ。それでいい。 「俐斗さんって本当に優しいですね。」 「……え。」 頭を小突かれたような、気がした。優しいのか?俺は。そんなことはない気がした。 だって、優しかったら「キミ」がした行為(こと)も笑って許せたはずなのに。でも、俺は。 あれ?キミって…ダレダッケ? 「う~ん、そうかな…?ありがとう!」 少なくとも彼の質問には明るい返事で返した。聞きたいことも、返したいことも、もっとずっとたくさんあったのに。でも、隠したままでいいような気がした。だって、今日限りの付き合いだ。明日になれば、彼は自分の暮らしている日常へと戻る。今日のことなんて、きっと忘れて暮らしていくのだろう。 「本当に優しいですね。」 この言葉さえも、きっと他の人に息を吐くようにいうのだろうな。まあ、知ったこっちゃない。俺と彼は違うのだ。 「俐斗さん?ちょっと歩くの早くなってませんか…!?」 「ああ、ごめん。考え事してた!」 もう帰ろう。今日が終わるのなら、少しでも長く… って思っていたのだけれど、色々トラブルって起きるもんなんだね。 帰り道、大型ショッピングモールの前に警察がたくさんいた。サイレンもうるさく響いていて、近所に住んでいるらしき人がたくさんいた。 「どうしたんでしょうね…」 「ね~すごい大事(おおごと)みたい。」 盾をもった人とか、防護服を着ている人とかたくさんいる。そして、ショッピングモールからはたくさんの人がぞろぞろと出てくる。 「ちょっと近くの人に聞いてみましょうか。」 「そうだね。」 俺は近くの人に声をかけて、なにが起こっているのか聞いてみた。しかし、誰も何が起こっているか理解できておらず、解らずじまいだった。 「一体、何が起こってるんですかね…?」 彼が不安そうに聞いてきた。俺もわからずじまいなので「う~ん…」としか返せない。 そのうち、警察官が「離れてください」と避難誘導をしてきた。周りの人もぞろぞろと離れていく。俺らも離れようとした。その時だった。 「ねぇ!!放してください!!」 「ちょっと、危ないですよ!!」 女性が警察官に抑えられていた。女性はショッピングモールへと行こうとしている。 「娘が、娘が!!」 「危ないですよ!!早く避難してください!!」 「娘がいないんです!!おもちゃ売り場に行かせたきりなんです…!!」 「それでも行かせるわけにはいきませんよ!!」 警察官は声を荒げて、女性に言った。 「だって、爆弾が仕掛けられてるんですよ!!」 その瞬間、俺はショッピングモールめがけて走っていた。 「ちょ、俐斗さん!?」 彼は混乱しながら俺を見て、立ち尽くしていた。 人を避け、警察官を振り切り、どうにかして入口につく。昔から身体能力だけは高かった。 息つく暇もなく、俺は入口の隣にあった階段を走って上り、二階にたどり着く。アパレル製品がたくさん置いてある。おもちゃ屋はどこだ?きっとそこに女の子がいるはず。警察官はきっと、爆弾が仕掛けられている恐れがあって、まだこのショッピングモール内には入っていないのだろう。今がチャンスだ。いつ爆弾が起爆するかわからない。早くしないと…!! 「俐斗さん…!!」 後ろから声が聞こえた。驚いて、振り向くと彼がいた。息を上げて、必死に追いかけてきたのだろう。 「な、なんで…」 「俐斗さん、戻りましょう!!さっき、警察が爆弾が…って…!!」 彼は不安そうだ。そりゃそうだ。最悪の場合、今爆発するかもしれない。でも、俺は放っておけない。 「俺は残されてる人を助けに行く。もちろん危険なのはわかってる。でも助けたい。それじゃ…!」 俺は振り向いて次のフロアに通じる階段へと走ろうとした。 が、彼の力のこもった声が耳に入ったとき、俺は動けなかった。 「………僕は」 彼は決意したように、俺の目を見て、 「反対します。」 と言った。 「もし、俐斗さんが行くのなら、全力で止めます。」 その言葉に俺は驚きを隠せなかった。顔にも出ていたと思う。なんでそんなことを言うんだ。だって、彼は止められない。さっきまで路上で倒れていたんだぞ、体力はもうない。それに、怖がって逃げるはずだ。初めて会った人なんてそんなもんだ。そんなもん… 「僕、思い出せないんです!自分が誰か、どこから来たのか、まったく!!」 突然の大声がフロアに響く。響いて、響いて、またその声が返ってきて、どんどん響く。やっと静かになったころにまた彼は話し始めた。先ほどとは程遠い、小さく、弱々しい声で。 「僕、本当に何もわからなくて、怖くて、不安です…!!でも!!」 彼はまっすぐに俺を見て、全世界に届くかのような声で言ったのだ。 「俐斗さんならって…!俐斗さんならついていっても、任せてもいいかもって思えたんです!!だから、無茶なことしないでください!!」 その言葉は俺の心に重く深くのしかかった。重い、重い。でも、その重さは温かい。まるで、誰かの手を取った時みたいな血の流れる温かさ。 ああ、あの時、みたいな、温かい、思い…? 「ありがとう。」 そういってほほ笑むことしかできなかった。そうしなければ、きっと泣き崩れてしまうから。 彼と俺が住んでいる世界は違う。でも、少しその世界に踏み込んでもいいだろうか。助けを求めてもいいだろうか。 「おもちゃ屋って何階にあるかわかる?」 そこからは俺と彼の共同作業だった。 俺の話を聞いた彼は顔を真っ青にして、「探しましょう…!」と言い、俺と共におもちゃ屋が何階のフロアにあるのか探しに行った。するとおもちゃ屋は3階にあることが分かり、急いで3階へ行った。しかし、おもちゃ屋には小さな女の子がいそうな雰囲気はなく。俺たちは同じ階のフロアのお店の中を探すことにした。しかし、まったく見つからなかった。 「あとはここだけ…」 俺らが最後に入ったのは文房具屋だった。中には鉛筆、ボールペンなどの文具だけではなく、筆箱や巾着などの学校生活で使うものまで置いてあった。 「お~い!!誰かいますか~!!」 彼は大声を出しながら進んでいく。俺はノートをパラパラとめくっている。 「ノートの中にはいないよな…あ。」 紙で指が切れてしまった。血がどんどんと出てくる。 「俐斗さん大丈夫ですか?」 彼がこちらに来て、俺の指を見る。 「全然、大丈夫だよ~」 むしろ都合がいい。 「そうですか…」 何とも言えない顔をした彼に「さ、探すよ」と声をかけて捜索を再開させる。 そして、ちょうど気になったことを伝えておいた。 「あ、あと、俐斗でいいからね。敬語はなし!」 「どこかな…あ!」 店の奥の方、いつもなら店員さんしか入れない所であり、たくさんの段ボールがおいてある場所に俺らが捜していた女の子を見つけた。女の子は寝ていた。どうやら、お母さんと別れてしまい、しかも誰もいなくなったなか、ここでずっと泣いて、ついには泣き疲れて寝てしまったのだろう。すやすやと気持ちよさそうに寝ている。彼は「よかった~」と言って、女の子を抱きかかえた。 「さあ、あとはここから出るだけ…!」 彼はよろつきながら、立ち上がった。俺が抱えようか聞いたら、「俐斗さん…俐斗は指とか怪我してるから、僕が運ぶよ。」と優しい顔で言った。その後に 「よかった…無事で。」 と小さな声でつぶやいた。 俺と彼は安心して、ショッピングモールを出ようとしていた。 だから、直前まで気がつかなかった。 隣にあった爆弾に。 BAN ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 爆発音が響いた。衝撃が伝わった。とにかく熱かった。じりじりと、もしかしたら僕らは燃えるんじゃないかって。 尻もちをついている僕は直感的に感じた。 「え、タヒぬ?」 でも、現状、僕は生きている。抱えている女の子も無事だ。すやすやと寝ている。あれ? 「俐斗…!?」 そうだ俐斗がいない。どうして…!? 僕は正気に戻り、あたりを見渡す。あんなに物が置いてあったショッピングモールは火の海だ。そうだ、爆弾だ。本当は女の子が寝ている横に置いてあったんだ。見つかった喜びと安心で気が付かなかった。つまり、すごく近くで起爆したことになる。あれ?じゃあ、なんで生きてる? 見上げると、立ったまま、動かない人がいた。その人も傷1つ、ついていない。 その人は朱色の盾のようなものを持っていた。 「危ない…指切っててよかった~」 その人は振り向いた。 「俐斗?」 そうだ、目の前にいるのは俐斗だ。さっきまでと同じような俐斗だ。 「え?俐斗…え?無傷!?」 「ああ…うん。」 俐斗は手に持っている盾を見た。 「え?何それ…え…どこから…」 「ああ…これね。これは、俺の血。」 は?何を言ってるんだ。血がこうして固形物になるわけがない。しかも、爆発を耐えられるような。 「いや…」 「うん、血だよ?」 あそっか、とつぶやいた俐斗は盾を床に置いて、手を前に突き出した。さっき、指を切った方の手だ。 「あんまり、能力者以外の前では使いたくないんだけど。今回は仕方がない。」 その瞬間、ほんの一瞬のことだ。 手の傷口から血があふれ出て、どんどんあふれ出て、俐斗の前で静止した。そしてどんどんとあるものが形作られていく。そして、俐斗の身長ほどに大きくなったとき、一気にそれをつかんだ。もうその時には流れるような血ではなく、血の色をした固形物だった。 朱色の死神のような鎌。 大きく、先は鋭利で、触れたらどうなるかわからない。もしかすると、俐斗は本当の死神かもしれない。 そう僕が勘違いしている中、まあこんなもんかな、と当たり前のように鎌を持っている。 「え、え。」 「あ、そういえば逃げなきゃ」 驚きが隠せないままだったが、後ろからどんどん爆発音が聞こえる。僕らはとにかく逃げることにした。
⚠本作品(使い方の文章)では大規模な爆発、火事の表現があります。観覧時はご注意ください。 『ビべエルモメント』 No.2「血と能力」 次回↓ https://scratch.mit.edu/projects/1239771765/ 【登場人物】 橙田俐斗(とうだりと) 名乗るものではない(?) 予想以上の反響でびっくりしてます、黒来です。ありがとうございます。星、ハート、コメント、ありがとうございます。励みになっております。次回もお楽しみに!!