『ねぇ、抜け出さない?』 「ん?」 不意に後ろから声をかけられた。 『午後の体育プールなんだ。泳げないからさ、』 控えめな友人の大胆な誘いに面食らう。 ……確かにここにいなきゃいけない理由は見つからない。 「いいよ、いいけど、どうやって抜け出すの?」 『とりあえず荷物まとめて』 「うん」 『そのまま』 「それって大丈夫?」 『多分、大丈夫』 大丈夫ではないんだろう。 大丈夫ではないけど、大丈夫と言い切りたいほどに抜け出したい、そんな衝動が痛いほど伝わる 「そっか」 『あと次の授業まであと10分、もう行こう』 「ねぇ、どこ行くの」 『わかんない、電車乗ろう』 大粒の雨が地面に打ち付けられる音。 負けない声量で前を歩く友人に声をかける。 「電車、止まるかも」 『止まってもいいよ』 できるだけ遠く、家からも学校からも ただただ遠い所へ 逃げ出した罪悪感も不安も、開放感とこれから 先の高揚に掻き消されていく 「……ねぇ、温泉入りに行こう」 東京のど真ん中、突拍子のない本音が口を吐いて出た 友人は振り返って、心底嬉しそうな顔で笑った 「決まりだね。」