「かんぱ〜い」 とある繁華街にある、飯処、「定食・菓子類」。 店内の片隅のソファ席に集まって乾杯をしているのは、明るい雰囲気の男女4人。 「じゃあ麺さんとろみーさんはどんどん食べてね」 「なんせ今回はお二人を労う会ですからね」 ごやとちょぱすは口々に言う。 今日のこの集まりは、「麺さんを休ませよう、そしてろみーに飯を奢ろうの会」としてごやが企画したものなのだ。 麺は相変わらず裏社会を飛び回って多忙だし、ろみーは学生だ。たまには飯を奢ろう!という心遣いからのものだった。 「それじゃあ遠慮なく……豚骨ラーメン野菜マシマシチャーシュー丼プラス餃子セットにでもするかね」 「け、結構いくね…」 「じゃ、うちはチャーハンにエビチリ、北京ダックとデザートにマンゴープリンとかき氷にしよっかな」 心遣い虚しく、二人は遠慮せず高い料理を頼む。 「……ごやさん足りますか?」 「私は少食だからギリ……」 「ごやさんも食べなされ……」 「マンゴープリン分けようか?」 「どっちが奢る会かわかんないね」 そんな他愛もない会話をしつつ、注文を終える。 そんな時、聞き慣れた声がごやたちの耳に入った。 「あ、ごやさん達だ」 「ほんまやな」 そこに居たのは、硫黄にクルッポウ、のこ、めがぽ、そしてねぎまにあなごの同好会御一行。 「のこさん達もその様子だと打ち上げ?」 「このメンツで仕事しててな」 狂鳳組に同好会本部所属に、同好会所属なものののフリーであるねぎまを加えたこの一行のメンツはたしかに珍しい。 「麺さんだ〜。あとごやさんもどうも」 「これまた厄介なのが来たな…」 「よろしくね〜」 ねぎまは同好会最年少の構成員で、中学生にして裏社会を行き来する危ない少女だ。 目玉が好きらしく、硫黄とは仲が良い。 訳あって同好会に所属しているもののほぼフリーで活動しているが、狂鳳組と同じ仕事をすることは少なくない。 「麺にごやにろみー嬢とちょぱす氏…まあいつものメンツだな」 クルッポウは4人を一瞥してそう呟く。 クルッポウは狂鳳組のトップながらも、掴みどころがないため、組員でもその人柄はよくわからない。 「それにしてもこの4人と一緒なのはラッキーだね〜」 「そうだね」 「ま、うちらもさっさと注文しよか」 のこの一言で同好会一行は席に着く。 ……そして酒が入った所で店はいっそううるさくなった。 「のこさん…」 「めがぽ…」 「やばいこいつらいちゃつき出したぞ」 「あはは〜!いいねいいね写真撮っちゃお!」 「私も早く酒が飲みたい」 「ねぎまにはまだ早いね〜…」 「硫黄は飲まないの?」 「僕は飲めないんだよね」 「うるせえなこいつら」 「まーまー」 そんな喧騒の中、ねぎまはふと疑問をおとした。 「そういえばさ、この街ってちょっと前から治安良くなったじゃん」 「急だな」 「菓子類のお陰っていうけど、菓子類ってどうやって出来てここを掌握したの?あと同好会と癒着してるのもなんでなのかな」 「あ〜〜、その話ね」 硫黄が説明しようとしたその時、 「菓子類がどうかした?」 そこに菓子が現れた。 「あ、菓子さん」 「地獄耳だな」 「ちょうどご飯食べに来たら、みんながいたからね〜」 それで、と菓子は続ける。 「ねぎま?だっけ、君はまだこの業界入って日が浅い感じ?」 「そうですね」 「なるほど〜、じゃあね〜どこから話そうかなぁ」 そう言って菓子はカウンター席に腰掛ける。 「あ、トマトラーメン一つね〜」 さらりと注文すると、人さし指を立ててにやりと笑った。 「はじまりは3年前かなぁ」 3年前、この繁華街は複数の組織がぶつかり合い、治安は最底辺だった。 地名を言われれば人々は顔を顰め、普通の人間ならまず近寄ることはない……それどころか警察の介入も難しく、銃弾戦が日常茶飯事のような、そんな地獄のような場所だった。 そんな街に、彼女は降り立った。 「うわぁ、酷い」 彼女は、とあるマフィアの首領の娘だった。 そんな彼女……菓子が、家出をして一から組を作ろうとしてやってきたのが、この繁華街だったのだ。 「まあこのぐらいが意外と組作りやすかったりしてね〜」 そして彼女はまず、一つの組織に潜り込んだ。 その組織とは即ち創立して間もない狂鳳組のことだったのだ。 正式な組員ではなく、アルバイトのようなものだったが幸いすぐに馴染むことができた。 「お菓子はなんで組を作りたいんや?」 「うーん、やっぱりすごい人を集めたいんだよね」 そして菓子は、同好会のツテを当たったりしながら、メンバーを集めた。 裏社会を転々としている実力派の麺や、やたらと喧嘩の強い不良のろみー。麺やろみーと仲が良い麻薬の仲介屋のちょぱすに、麺と同じ組織に居たお調子者のえふしー、コミュ力溢れるあご、などなど……。 菓子は持ち前のコミュ力と交渉力と人柄で、様々な実力者を引き連れていった。 そして、いつの間にかマフィア・菓子類は繁華街の中でも影響力のある組織になっていった……。 そんな中、菓子の目に入ったのは、身売りされていく子供達、理不尽な暴力と貧困にあえぐ人々だった。 1人ずつ助けていっても、らちがあかない。 菓子は一つのポリシーを持っていた。 「救える人は一人残らずすくい上げたい」 叶うことのないような理想。 それでも、と菓子は繁華街の「改革」を決めた。 それは、繁華街を牛耳るいくつかの組織の解体を意味する。 血で血を洗うような抗争が続く日々。しかし、同好会の支援もあり、僅か数ヶ月で改革は終わりを迎えた。 菓子は、繁華街の首領となったのだ。 その後の菓子の動きも迅速で、街はどんどん整備されていった。 「まあ、私はただみんなに任せただけだけどね」 繁華街は生まれ変わった。 菓子類が支配しているものの、治安もある程度良く、自由も保障された街。 それが今の繁華街である。 「なるほど〜、そこから同好会と縁があったんだ」 「大分お世話になったね〜」 ずずず、とサイダーを飲みながら菓子は言う。 「それにしても、ほんとに菓子さんはすごいですよね〜、繁華街をここまで整備するなんて」 「嬉しいけど、みんなに動いてもらっただけだしなぁ」 「まあ、うちらもあのときは大変やったなあ」 「おう、あれで今の地位も築けたがな」 「私はあの頃と変わらず忙しいがな」 「麺さん休んで」 各々好き勝手駄弁り、宴もたけなわである。 「あ、ラムネサイダーパフェ追加で」 「……お金足りますかねぇ」 「今日も今日とて平和でいい日ですね!」 「そうだね〜」 「この状況で…?」 その様子を菓子はにこにこと眺める。 「うん!こういう景色が見られたら首領冥利に尽きるよね」 「……いい感じにまとめてるがあんたのやり方もかなり荒っぽいからな」 「え〜、そうかな」 「理想を掲げてる割に、歪だ。そこんとこ理解してもらいたいんだがね……」 麺は呆れたように追加の肉まんを摘む。 菓子類はかなり際どいビジネスもしている。 例えば、麻薬を売りつけ、中毒になって借金をしてきた所で借金取りチームによりせしめる……といったマッチポンプ。 これを認めているのは、「救えないところまで来た人間は見捨てる」という、ポリシーの裏側の部分からだ。 「ま、私には関係のない話だ」 「もー冷たいんだから」 「黙れ」 マフィアとして菓子類がある限り、この街の歪みが無くなることはない。 しかし、その中でもこうして仮初の平和があるなら、それでいいと殆どが思っている。 「さて、次の仕事について……めがぽとのこ、あなご、聞いてくれないか」 「なになに〜?」 「裏通りのチンピラの制圧したくてな」 「なるほど!」 「おーけー、みんなに伝達しとくわ」 そして狂鳳組……もとい同好会のメンツもこの仮初の平和を楽しみ、菓子類に加担している。 「……まあ楽しいからなんでもいいよね〜」 「ねぎま〜、この前の仕事でもらった目玉いる?」 「わ、いるいる」 こうして繁華街の宵は更けていくのだった。
過去回想編です +宴会です