「それじゃ〜行ってくるね」 「いてら」 「あーちゃんいってら」 狂鳳組組員、あなご。 彼女はこの組に入って日が浅い。 しかし、職場には十分すぎるほど馴染んでいたし、能力も高い。 そのため、今日は初めて一人で商談へ向かうことを指示されたのだ。 「……それにしても大丈夫かな」 口を開いたのは通草である。 「あそこって結構治安悪いよね、一人で向かわせていいん?」 「ああ、問題ないと踏んでいる」 答えたのは狂鳳組の長、クルッポウだ。 「まだ昼だから人通りも多い。向かわせる先も馴染みの組のシマだ。教えたルート通りに行けば脅威はない」 「本当だろうな?」 少し不満げに言うのは雑用係長、死神だ。 彼は一応あなごの彼氏で、口が悪い。その為あちこちから恨みを買っている。 「本当だよ彼女馬鹿」 「あ?」 「けどあそこ最近台頭してきた組のシマもあるよな、あそことこの前どんぱっちやってたけど大丈夫なんかい」 幹部のまろがぼそりと呟く。 「あのシマは裏道だし、治安が悪いからわざわざ通るようなマネはしないだろう」 「ほーん」 はたして、あなごのはじめてのおつかいはどうなるのか……。 「ええっと、この先かぁ」 あなごは行先の最寄り駅を出ると、スマホをいじりつつ道を進む。 この商談は、さほど重要なものではないがそれなりにでかい仕事だ。 そのためあなごは少々険しい表情をしている。 いやいや、せっかくのチャンスだし!と自分を鼓舞し、あなごは顔を上げた。 「……はあ、ここって仲悪い組のシマの近くだっけ」 そこには路地と表通りをわかつ建物が鎮座していた。 地図アプリは最短ルートはそこだと騒いでいるが、流石に勇気が出ない。 「しょうがない、遠回りしよ」 そう呟いて歩き出したあなごを、注視する影が一つ……。 「あれ、あいつは……狂鳳組に居たやつじゃねえか」 そう、まさに敵対組織の構成員である。 「狂鳳組には散々拠点を壊滅させられたんだよなァ」 その顔は赤く、歪みきっている。 「ちょーっと痛い目見てもらわねぇとな……あ、そうだ。あいつ弱そうだしいっそ攫って身代金でも要求してやるか!」 その構成員は直情的で頭が良いとは言えないが、行動力と体力だけはあった。 「……この道であってんのかなぁ」 呑気にそう言うあなごを後ろから思いっきり殴り……。 「っ!お前誰っ」 構成員はすかさず頭を殴り、スタンガンを首元に当てた。 「……へへ、ちょれぇ。後で奴らに連絡しねえとな」 そう言うと構成員はあなごを引きずり、裏路地へ消えていった。 「……あなごが到着していない、だと」 先方からの一報で、クルッポウは眉をひそめる。 「……はい、誠に申し訳ありません……至急向かわせます」 そう謝り、クルッポウはすぐ組員たちを見た。 「あなごから連絡は?」 「ない」 「……逃げるなんて事はないだろうしな……しょうが無い、いなふ、暇だよな?いますぐあの組行って来い」 「了解!」 「あと暇なやつはあなごを探せ、いいな」 「へい」 そう空気がひりついた時、また電話がわめきだした。 「はいこちら狂鳳組」 いち早くもヴェが受話器を取る。 『……狂鳳組、か。俺の声を覚えているか?』 「さあ、わかりませんねぇ」 『……一ヶ月、お前らに散々世話になった組の者だ』 怒気をはらんだ声に、もヴェの顔は僅かに巌しくなる。 『単刀直入に言ってやろう。お前らのお仲間は預かった……まあ、身代金に一億円、いや五億円程、本部に持ってくれば命は見逃してやっても良い……まぁ、精々良い選択をしやがれ』 そこまで一息で言うと、がちゃんと電話は切れた。 「……まずいことになったね」 これは、十中八九あなごのことだ。 「くそ、見込みが甘かった……か」 少々下を向いた後、改めてクルッポウは組員たちを見渡した。 「……という訳でいなふはそのまま代理で商談をしろ。他は奴らのアジトに向かう支度……あと、まろは本部にもこの件を知らせてくれ、そして協力を要請してくれ」 「了解」 「あなご……大丈夫かな」 「……っち、」 死神は苦虫を噛み潰したように顔をひしゃげる。 「あの時、徹底的に潰しておけば良かった」 「同感だが、過去を悔やんでも仕方がない。後でぶちのめすのみ」 クルッポウは、見えるはずもない組のアジトを睨んだ。 「そんな……あなごさんが」 連絡を受けた硫黄は、表情を硬くする。 「うちらも動かんとな」 そう言ってのこは高速でメールを打ち始める。 「……麺さん」 硫黄は丁度居合わせた麺に視線を向ける。 「悪いが私は動かないよ面倒だからね」 「まあそうですよね」 「まあ金さえくれれば情報ぐらいは教えてやらんこともない」 「のこさん」 「構わんよ」 なにしろ、切羽詰まってるしな、とのこは麺に金を握らせる。 「それで、あそこの組の情報だが……あくまで噂だから話半分に聞いてほしいが、あの組ってえらい早い勢いで台頭してきただろ?それはやっぱバックに政治団体か大企業がついてるんじゃないかってのがもっぱらの噂だ。まあ、警察はこういう事にだけ敏感だからタレコミでもしたらすぐ動くかもな」 どうせ狂鳳組だけじゃ人員不足だろうからな、と言い残すと麺は早々に事務所を去らんとする。 それを見ながら、硫黄は口を開く。 「じゃ、じゃあつまりたれこんだ方がいいよね?」 「……いや、それよりみるあに連絡しよう」 「みるあさん?」 「あんまり多くの警察に来られたらこっちもやりづらいしな」 「けど……のこさんの正体が」 「みるあには何でも屋で通してんけど、まあ裏に何があるかは薄々気づいてると思うで。硫黄が連絡するよりはうちが来たほうがいい」 「……じゃあお願いします、僕はもうあっちに向かいます」 「ああ、頼んだ」 __同好会側は着々と準備を進めている。 一方あなごはというと……。 「…………」 さるぐつわをされ、さらに鎖に繋がれ身動きが取れない中、自信を監視する構成員を睨んでいた。 (あー、なんでこんなヘマしちゃったかなぁ……) 今頃みんなは自分のために動いてくれているんだろうか……。 「はっ、無様だねえ」 下卑た笑みを浮かべる構成員に、あなごは辟易する。 (あ〜、僕死んじゃうのかなぁ……。それは嫌だなぁ……。) 身代金をかけているらしいから、取引をするまでは無事、と信じたいが。 ただ、希望もあった。 (胸ポケットの発信器は、見つからなかったみたいだ。これがあれば僕の居場所は特定できる!) 普段はプライバシー侵害だろ、と思っていたがこういう時に役に立つとは。 後はみんなを信じて待つだけだ。 あなごは静かに瞬いた。 「はぁ、はぁ」 あれから1時間後、みるあは走っていた。 「……のこさんってほんとに何者なんだろ」 唐突に掛かってきた電話、そして内容は最近急浮上してきたヤクザに政治団体か大手企業が関わってるんじゃないかというタレコミ。 そして最後には、 「まあ、詳しくは現地で確かめ」 と意味深な言葉を残していた。 「やっぱあのひと一般人じゃないよなぁ」 しかし、素性を聞いても「何でも屋みたいなもん」とはぐら返してくるし、どうしようもない。 目指すはその組織のアジト。 みるあはせっせと足を動かす。 ~続く~
一応全部書けてるけど長いので分けます あなご誘拐大乱闘編です