元とした曲は、帝國交響楽団の「終焉の太陽」です。 まあ、その曲の要素はほとんど残ってませんけど。 じゃ、どうぞ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は、海原に立っていた。周囲には、他の誰かも何十人と立っている。一人は上を向き、またある一人は俯き、そのポーズは様々だったし、明らかにヨーロッパやアジア系らしき人もいた。共通しているのは、皆女性であり、海上に立っていることだけである。 動こうとしても動けず、声を上げようとしても上げられない。 空は蒼く、雲が点々と浮かんでいた。南国だろうか、遠くに珊瑚礁らしきものも見えた。 そうしているうち、遙か上空に一機の飛行機が見えてくる。 そこから何かが投下されかと思うと、それは光球となって広がっていく。実際は一瞬の出来事なのだろうが、時間が引き伸ばされたかのようにゆっくり広がってくるように見える。やがて、視界が光に塗りつぶされ―― 「はっ」 そこで私は夢から覚めた。いつもより一時間も早い。かといって再び眠る気にはなれず、適当なラジオをつける。雑音交じりに淡々と流れるニュースを聞き流しながら朝食の準備を始めた。 今の夢は、何だったのだろう。同じような夢は昔から見るが、いつも同じところで夢は途切れてしまう。そのたびに思うのだ。これは何なのだろう、と。同じような体験をしたわけでも、テレビや映画で見たわけでもない。それなのに、妙にリアルで、まるで体験したみたいで。 そんな事を考えていると、ふとラジオの声が耳に入った。いつの間にかニュースが終わり、なぜかオカルト番組らしきものが始まっている。ラジオでやるものなのだろうかと思ったが、流れてきた一つのフレーズに、なぜかドキッとした。 「前世の記憶」。その言葉が頭に引っかかった。もしやあの夢も、その類なのだろうか。そんな考えが頭によぎる。 その考えを消し去りたくて、ラジオを消して、こんな時間でも届いていた新聞に目を通す。 しかしまたも、平穏は破られる。一面の見出しとともに載っていた写真を見て驚愕した。その写真に写っている女性、それが、夢で見た一人にあまりにも似ていたのだ。見出しはこうだった。 『Japanese Fleet Clears the Pacific(日本艦隊、太平洋を打通)』 今更だが、この世界では、人類が危機に直面している。十年ほど前に深海棲艦と呼ばれる謎の勢力が突如として出現、世界の海運を脅かしたのだ。普通の兵器は効かず、あまつさえ陸上型によって陸上まで攻め込まれる始末だった。 対抗手段を最初に開発したのが、極東の島国、日本だった。『艦娘』と呼ばれる少女たちを投入、あっという間に近海を掌握、幾多の大規模作戦を実施、着実に西太平洋、そしてカレー洋の半分の深海棲艦を駆逐し尽くしてしまった。無論、その技術は世界中に発信されたのだが、初動が遅かった欧州、そして南北アメリカでは艤装の建造が間に合わず、深刻な燃料不足に陥り、そしてそれにより出撃もままならず、今でも海沿いのかなりの場所が制圧されてしまう。アメリカは得意の物量でなんとか近海を掌握するまではできたのだが、それもいつ崩れるかわからない状況であった。 そんなところに、日本が太平洋を打通したというのである。少なくとも、太平洋の深海棲艦の勢力は減退しているといっていいだろう。そのニュースは、この状況に疲弊した艦娘にも、市民にも、希望を与えるものだった。しかも、聞くところによると、日本は数百隻の大艦隊を誇り、開戦から一隻たりとも失っていないのだという。 さて、話がそれたが、もとの話に戻ろう。 「長門…?」 その艦娘の名前は、長門と言うらしい。その少し厳ついような名前に似合い、少し目が切れ長で、凛々しさを感じさせる見た目をしていた。今日初めて、しかも写真で見たはずなのに、なぜ夢に出てきていたのだろう。本当に奇妙だった。 朝食そっちのけで記事を食い入るように読んでいると、三面まで続いていた記事の最後に、企画として日本艦娘との面会が設けられると書いてあった。どうやら明後日らしい。その日は仕事だったのだが、何か大事なことが分かるかもしれない、そう思い、会社に有給を取ると連絡を入れると、荷造りを始めた。 二日後。 私は、西海岸の海軍施設の門の前に立っていた。臨時で基地祭が執り行われていて、他にも多くの人が並んでいる。長い列に並び、なんとか施設の中へと入った。 目当ては長門と話をすることだけ。そう思い、面会の抽選の受付へと向かったものの、そこもやはり人が多かった。なんとか申込用紙を手に入れ、記入して提出する。面会希望艦娘は、やはり長門。そして、理由としては、あの不思議な夢のこととそれについて何か知らないか、ということを。 数時間後、抽選結果の発表を見に、会場へと戻ってきた。長門は忙しいらしく、面会枠は一人だけ。どうせ当たらないだろうと思っていたのだが、結果は違った。当たっていた。98549番。私の番号だ。桁数が何桁かおかしいのは置いておこう。 早速、面会室へと向かう。長門に与えられた私室らしく、少し生活感が漂っている。掛けられているエプロンの、猫の模様を見ると、意外と可愛いところもあるように思えた。 「貴様がザラ・X・ヴィダティアだな」 一言目からなぜか上から目線気味である。それになんとか耐え、肯定を返した。今更だが、私の名前も長門と同じくらい厳つい。 「さて、貴様の夢の件だが、それなら分かるぞ」 「本当ですか!?」 「じゃあ、少し離れたところからの話になるが。まず、貴様は艦娘になれる」 いきなりそんなことを言われて混乱する。検査も何も受けていないし、そもそも私は一介の事務員だ。私が目を回しているのを見て、そりゃそうだろうな、というふうに続ける。 「まあ、そんなことを言われても分からないだろうな。これから先の話は、墓場まで持っていけ。もしくは、艦娘になるというなら、水底の可能性もあるがな」 「は、はい」 誰かに話したら、消されそうな気がする。主砲で。 「じゃあまず、艦娘に選ばれる条件だな。別に、頭の良さでも、身体能力でもない。『記憶』があるかどうかだ。前世の、艦であったころの記憶だな。もっと正確に言えば、魂だ。記憶はその一部に過ぎない。だから、貴様のように記憶が断片的な者もいれば、私のように艦の一生ほとんどを覚えている者だっている」 「前世が、船…?船に、魂なんて、あるんですか?」 船を女性のように扱う表現をすることはあるが、実際に魂があるなんて話は聞いたことがない。 「ある。そちらでも、艦を女性のように扱ったりすることもあるらしいな。我が国でも、古くから『船魂』として崇められ、航海の安全を願ったりと大事にされてきた。艦娘が皆女性なのも、船魂は女性の姿であり、転生する際も女性の姿となって生まれるからだ」 「じゃあ、私の魂は元は誰のものなんですか…?」 「断定はできないが、『サラトガ』だろうな。アメリカ側の所有者未確定艤装リストにあった」 奇しくも、私と似た名前だった。というより、名前の由来を昔聞いた際、なんとなくその名前が浮かんだと言っていたので、運命に導かれたようなものだったのかもしれない。 「さて、やっと本題だが、貴様の夢は貴様の前世であるサラトガ――ああ、こっからはサラと呼ぶぞ――が沈んだときの記憶だ」 「沈んだ…?」 もしかして、あの光が何か特別なものだったのだろうか。しかし、ならばなぜ逃げたり皆逃げたりしようともしていなかったのだろう。 「サラが、そして私が沈んだのは、かの大戦の後にあった一つの原爆実験だ。一つの、といっても使われたのは二発あるがな。一発目は、サラも私も耐えた。二発目で、サラは致命的な損害を受けて沈んだ。私も損害は負ったが、だいぶ長く持った。サラや他の奴らの沈没を見届けて、五日ほど後だったかな。私は深夜に誰にも見られず、ひっそりと沈んだ。自分の意志でどうこうなる話ではなかったが、もしかしたら、祖国への最後の誇りとして、沈む姿を誰にも見られたくないという思いが心のどこかにあったのかもしれない」 あの光は、爆発で起きた、熱波の閃光だったのかと納得する。しかし、そんな実験の話は聞いたことがなかった。大戦すら、何の話か分からなかった。 そんな私の疑問を察したのか、長門が続ける。 「聞いたことがないのは当然だろう。前世世界は、この世界とはよく似ているが、別の世界だからな」 更に爆弾が投下された。魂の他にも並行世界とか存在しちゃっているらしい。 その後も、大戦の概要や艦娘についてのことを長門は話した。 「どうだ、貴様の聞きたかった話は聞けたか?」 「あ、はい。ありがとうございます。――それと、決めました。私も、艦娘になります」 「…本当に、いいのか?艦娘になるということは、危険な戦場に赴き、戦うということだぞ?しかも、いつ終わるか分からない戦争だ」 驚いたかのように、しかしその答えを予想していたように長門が聞き返す。 「それでもいいです。私の中の魂が、行きたがっているように感じるんです。かつての、でもまだ見ぬ仲間と一緒に戦える戦場に。そこで、勝利を掴み取りたいって」 「そうか。じゃあさっさと家に帰って準備をすることだな。一週間後にまた来い。米軍の方には私から伝えておく」 「はい!」 それからは、一気に忙しくなった。 会社に辞表を出し、荷物をまとめて家を引き払う準備をした。もともと自分で買った家だったが、あまり惜しくはなかった。出発の日、何もかもなくなった家を見ると、少しさみしい感じもした。でも、それよりも、これから待ち受けている仲間との未来を思い描くと、そんな気持ちは一瞬で吹き飛んでいった。 そして、あの日から一週間。私は再び海軍施設の門の前に立っていた。ただ、一週間前とは違うのは、出入りするのは物資搬入のトラックばかりで、私のような一般人――といっても今日でもう軍人になるのだが――は私以外一人としていなかった。もちろん門の守衛に声をかけられ、詰め所に連行されそうになる。着替えなどを詰めた大きいスーツケースを持っていたのも災いしているだろう。傍から見れば何が入っているかなどわからないし、当然のことだ。 ただ、タイミングを見計らったかのように長門が現れた。そして、守衛にこいつは大丈夫だと告げ、門の前で最後の確認のように言う。 「ザラ、来たか。本当にいいんだな?」 「はい。覚悟は決めていますし、今更やめても家は引き払っちゃいました」 「そうか、ははっ」 長門がいきなり笑い出す。 「どうしたんですか?」 「いや、そこまでしてくる奴は初めてだからな。大体が、家を引き払ったりはしない。まあでも、覚悟は分かった」 そして、応接室のようなところに通される。 そこで偉そうな人と話をし、契約書にサインをした。 次に装備の受け取りだ。といっても、サイズ調整などがあるためとりあえず採寸のみ。他にも謎のヘルメットを被らされ、なにかの測定やらをされる。 「やはり、サラトガだったか」 長門がそんなふうに言っているのが聞こえた。もし違ったらどうするつもりだったのだろう。特に既に持つものがいる艤装だったら。 更に一週間後、出来上がった制服が渡された。 前とじのワンピースに赤いスカーフ。それと、白黒の煙突を模したような髪飾り。 なんというか、体のラインが強調されて少し恥ずかしい。そんなことを思いながら袖に腕を通し、髪飾りに苦戦しながらなんとか着終える。 そして、他の艦娘が集められている講堂の、一段高くなった壇上に上がって言った。 「航空母艦、Saratogaです。サラ、と呼んでください。よろしくお願いいたします」 あとがき テスト期間に何してるんだろうね自分は。 しかも中三の二学期期末。 おいバカ。 あと、なんの捻りもない適当な題名。