状況が追い付かない。どういうことだ? まず、爆弾が仕掛けられたショッピングモールに潜入した僕と俐斗。残された女の子を助けた直後、爆弾が爆破した。それを俐斗が血を固形化して守った…というのが現時点の事実だ。 うん…事実なんだよな? 「あ~うんそうだよ。」 僕が聞いたところ意外にも俐斗はあっさりと回答した。 「詳しいことは社長さんから口止めされてて言えないんだけど、超能力的なのは使えるよ!」 「え、本当に?!」 僕はショッピングモール内を女の子を背負い、全速力で走りながら、血で作った盾を片手に前を走る俐斗の話を聞いていた。 「俺は血を操れる能力を持っているんだ。血は赤血球、白血球、血小板、血しょうなどでできている。俺が基本できるのは血小板を操作することなんだ。さっき手を切ったでしょ?こんな風に体外に血が出ると普通は血小板が働いて、血が固まる。俺はそれをちょっといじって、固形物にしてる…っていうらしい。条件はあるけどね、酸素の多い血しか使えないとか。」 センセーに聞いたことでわからないけど、と俐斗は付け足した。なんだそれ、魔法かよ。でも魔法にしては原理がちゃんとしてる。なんなんだよ… 「ってことで…早く抜け出さないとね…」 あたりは一面火の海だ。ショッピングモールが崩れなかったことが奇跡としか言いようがない。俐斗が盾で倒れてくる棚や商品や火の粉から僕と少女を守ってくれているものの早く抜け出さないとまずい。僕もどんどんと呼吸が荒くなっていった。 「早く非常口を見つけなきゃ…」 俐斗はあたりを見渡して探す…がそれらしきものはない。僕も一生懸命に探す。早くしないと… 『一つ下のフロアにまだ無事な非常階段があるはずだ。そこへ行け。』 どこからともなく響く声。路地裏の時の声と一緒だ。頭に響く、誰なんだろう…? でも今はそれどころじゃない。早く抜け出さなきゃ。 「俐斗!一つ下のフロアの非常階段!!そこが無事らしい!!」 俐斗は初め驚いていたが、行こう、と決意を固めていた。僕らは急いでもう止まっているエスカレーターを下りて下のフロアへ向かった。下フロアは僕らがいたフロアよりも損傷がひどくなかった。そのため非常口をすぐに見つけられた。僕らは全速力で非常口を目指した。 …はずだった。 【ジュエラー520 トウダリト ハッケン】 その瞬間、何かが俐斗にぶつかってきた。俐斗は吹き飛ばされ、商品棚にぶつかっていたが何とか素早く血で作った盾で自分を守った。よく見ると俐斗にぶつかったのは黒くて丸い金属質の物体だった。 「おっと…やっぱりか…」 俐斗が少しだけ聞こえる声でつぶやいた。 「離れていた方がいいよ。コイツ、めんどくさいんだよな…」 俐斗は立ち上がり、黒い物体をじっと見つめる。僕もまじまじと見つめていると、黒い物体は変形し始めた。丸いボールのような形状から素早く4つの細いものが出てきた形状になり、足として支えて立ち上がった。そして、みるみると元のボールのような形状ではなくなり、最終的には色々な部品が付いた犬のドーベルマンのようなスリムで4つ足な、ロボットになった。 「な、なんでこのタイミングでロボット…!?」 「よりによってこんなときに…」 僕が驚いているのをよそに、俐斗はずいぶんと冷静だった。ロボットはカメラと思われる目でこちらを見てきて、低い姿勢で構えた。 【コレヨリ ジュエラーヲ ショブンシマス】 ドーベルマン型ロボットが先ほどと同じ機械音声を発した。それと同時に俐斗は傷口から先ほどの鎌を一瞬で作り出した。さっきまで使っていた盾はもう固形物ではなく液体へと戻って床へと滴り、血たまりになっていった。 そして俐斗はこちらに目だけ向けて、 「先に逃げて。」とつぶやいた。 その瞬間、ロボットは俐斗をめがけて飛びかかってきた。俐斗は鎌を振って、ロボットを跳ね返す。ロボットはかなり遠くに飛ばされたものの、器用に着地し、また飛びかかる。ロボットにばねでもついているのかきれいに、優雅に飛び上がり、着地する。俐斗も負けじと当たらぬようにはじき返す。 何度も何度もこれを繰り返していく。鉄をはじくような音が響く。俐斗は隙のない動きでロボットを打ち返していく。 「すごい…」 僕の口からはこの言葉しか出なかった。記憶を忘れていてもいなくても、こんなの普通じゃ絶対に見れない。火の海ではあったが束の間、パフォーマンスを見ている気分になっていた。 がしかし、どんどんとロボットの攻撃は速くなっていく。いや違う、俐斗が遅くなっているのだ。さっきまでは互角、いや俐斗のほうが速かった。それが回数を重ねるごとに遅くなっていく。 『おそらく、一酸化炭素だ。』 また頭の中から声が響いてくる。 『血の中にある赤血球に含まれるヘモグロビンは酸素よりも二酸化炭素、それよりも一酸化炭素に結び付きやすい性質がある。火事の時には一酸化炭素が多くでる。こいつ…俐斗が使っている血は酸素が少ないんだろう。こいつは酸素の多い血しか使えないと言ってた。もう、ヘモグロビンと一酸化炭素が結びつきすぎている。俺らも次第に一酸化炭素中毒になるはずだ。』 「ってことは速く抜け出さないと…!」 僕も女の子も、俐斗も助からない。 それに、このショッピングモールはいつ崩れてもおかしくない。このままじゃ、いずれ…どうしよう… 『一つだけ方法がある。危険だが、やるか?』 頭の中の声が僕に問いかける。僕の答えは決まっていた。 「もちろん、やる。」 俐斗を守るためならなんだってする。 『じゃあ、もう少し待て。あともう少しで…』 するとその瞬間、上から何か冷たいものが目いっぱいに振ってきた。火とは正反対の…水だ。 『スプリンクラーだ、火事の時に発動する。』 今まで火の海で暑かったので水の冷たさに感動する。冷たい、気持ちがいい、さっきまで雨に打たれて寒かったのに、今は暑くて、冷たい。どんどんと色々な場所からスプリンクラーが水を出し始める。 『これでいいだろう。じゃあ今から指示をする。手で銃の形を作れ。』 僕は頭の中の声に従い、親指と人差し指を伸ばし、そのほかの指を曲げた銃のポーズを右手で作った。 『よし、じゃあ人差し指の先をロボットに合わせろ。』 僕は指先をロボットに合わせる。といってもロボットもそれを受ける俐斗も動き回っていて、なかなか合わせられない。間違えたら、俐斗に危害が行くかもしれない。 『大丈夫だ。着地地点を見極めろ。』 僕はよく目を凝らした。確かに、ロボットはいつも同じところに着地している。そこを狙えば。僕はそこに人差し指を合わせた。 『そして、こう叫べ。【スコール】と。』 僕は目いっぱい息を吸った。一酸化炭素のせいなのか苦しい、呼吸ができない。でもいける。やれる。 「スコール!」 叫んだ瞬間、手に冷たいような暑さが走った。ドライアイスを触ったときみたいだな、と思う。でもそれはほんの一瞬で、気が付いた時には人差し指の先から丸い透明で光る何かができた。それは大きくなっていき、ゴルフボールくらいの大きさになったとき、一気に僕の指から離れて、すごい勢いで狙ったところに発射された。勢いに負けてしまった僕はしりもちをついてしまう。しかし、丸い何かは勢いを緩めず、着地したばっかりのロボットにそのまま当たった。ロボットは勢いよく遠くへ飛ばされ、壁に当たり、首と胴体で2つに分かれた。最初は足と首を動かし、緊急を伝える機械音声が流れていたが、数秒後には消えてしまい、そして、ついにロボットは動かなくなった。 ロボットを倒した本人である僕は唖然としていた。 「え、本当に?」 これ、僕がやったの? 状況が読めない僕に頭の中で声が語り掛ける。 『ああ、お前がやった。以上。』 「え!?あの手から発射されたのは一体何!?」 『水だ。お前の能力は体内の水を操れる能力、だ。』 「え!?どういうこと!?え!?」 混乱している僕が何度聞いても声は帰ってこなかった。 一方の俐斗はロボットと僕を交互に見て、口をあんぐりとしていたが、少しすると「すごいじゃん!!」と詰め寄ってきた。 「え!?すごくない!?俺、救われちゃった!!」 俐斗がこちらにフラフラと歩いてきながら、にこやかな笑顔で聞いてくる。 「とりあえず、だ、脱出…」 「すご、かっこいい!!どうやってやったの!?ねえ教えてよ~!!!」 「ちょ、速く逃げないと…」 こんなやり取りを繰り返しながら僕らは火の海と化したショッピングモールを脱出した。 「なんとかなった…」 僕らはサイレンを聞きながら一息ついていた。 消防隊によるショッピングモールの消火活動も終了し、女の子も無事救急隊員に引き取られて、僕らは俐斗の住み込み先へと向かっていく、はずだった。 「あれ俐斗、なんでいるんだい?」 濁った茶色のマリンキャップとコートを身に着けた、20代くらいのお兄さんが馴れ馴れしく俐斗に話しかけてきた。 「社長さん!どうしてここに!?」 「いや~帰り遅いからね~ショッピングモールの火事なんとかなったみたいだね。」 この人が俐斗の言っていた社長さん。よかったよかった、と俐斗の隣で笑っている。身長は俐斗と同じくらい。色々コートの下に服を着こんでいるように見える。そして何よりも不思議な目をしている。まるでこちらを見透かすような… 「へぇ…そうなんだよかっt…」 突然、俐斗が倒れた。さっきからフラフラしているとは思っていたが、まさか倒れるとは。 「え!?俐斗!?」 僕が驚くとは正反対に社長さんはしゃがんで冷静に俐斗をみて、大丈夫だね、と言った。 「俐斗は能力をたくさん使うと貧血になるんだよ。そりゃ、血を使う能力だもんね。」 そして社長さんは立ち上がり、僕を見て、こういった。その目は何もかも見透かしているようにも見えた。 「さて、何があったか聞かせてもらおうか。」 この時、僕は知らなかった。 僕は一体だれで、僕は一体どこからきて、そして僕がこれから出会うものすべてが、世界を変えてしまう一歩だなんて、知らなかった。
⚠本作品(使い方の文章)では大規模な火事の表現があります。観覧時はご注意ください。 『ビべエルモメント』 No.3「水と能力」 次回↓ まだない 【登場人物】 僕 橙田俐斗(とうだりと) 社長さん コンニチワ、黒来です。でいワーできないのと同時に(でいワーはスランプ中です)小説です。書くの楽しいです。絵柄は不安定ですw んで、下はとある人の声です。ぜひ聞いてやって、実行してやってください。 以上、黒来でした~! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「俺の声は全て『中にある』。 はやく見ないと…世界は終わる。」