⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎ USEC Goons分隊←離反 ロシア連邦 タルコフ市 2033年 ⬛︎月⬛︎日 「………………」 薄暗い廃屋の中で、目を覚ました。幸いにも、まだ首は繋がっている。 「……Goonsから逃げてもう1週間か…」 世界的大企業にして、裏で違法な実験を山ほど行ってきたTerra Group。その証拠を掴もうとするBEARと、証拠破棄を命じられたUSEC。2つのPMCが起こした契約戦争で地獄と化したタルコフ市内で未だ生き残っているとは、運が良かった。いつ誰に寝首を掻かれるかわからない。 「…今日こそは……」 無線機に手を伸ばし、周波数をいじる。 「せめて…ロシア連邦軍の無線に繋がれば……」 切実な願いを込めて通信を開始する…が、どれも当てにならない。 聞こえてくるのは、聞き取れもしないロシア語がほとんどだった。一部ロシア訛りの英語や、完全な英語も聞こえてきたが、どれも助けを求められる相手とは思えない。 『Let’s roll fellas!〔いくぞ、お前ら!〕』 かつて所属していた部隊の隊長の声が流れた。咄嗟に通信を切る。額を拭った手は、冷や汗でびしょびしょになっていた。 「あの荒くれ部隊(ROGUE)を裏切ったんだ……見つかれば命はない…」 恐怖で震える手を必死に抑え、再び周波数をいじる。 『Он убежал в общежитие! Окружите его!〔寮に逃げたぞ!追い詰めろ!〕』 『He’s BEAR! I'm gonna k**l you!〔BEAR野郎め!ぶっ殺してやる!〕』 状況は変わらない。 「クソッ…」 『Run! Sniper fire!〔逃げろ、スナイパーだ!〕』 『это Килла! Быстрее, укрывайтесь...〔クソッ、Killaだ!早く遮蔽に…〕』 『ここなら安全だ。ここを拠点に…』 『USEC на пулемете водоочистной станции...〔浄水場の機銃にUSECが…〕』 「…ん?」 聞きなれた言語が聞こえた気がした。急いで周波数を戻す。 『もうすぐ日が暮れる。一旦野営して、明日ターゲットを探そう』 何年も聞いていなかった、母国の言葉だ。彼らになら、助けを求められる。そう直感した。 「おい、聞こえるか!?」 『………日本人?誰、きみ』 名前を名乗ろうとした……が、思い出せない。もう何年もコールサインでしか呼ばれていなかったからだろう。 「…USECの、Goons分隊に所属していた者だ。だが、もう離反した!あんなところは」 『USEC?Terra Groupお抱えのPMCじゃないか。そんな奴とは関わりたくないね』 「だからもう離反した!頼む、助けてくれ!」 『信用できないね。し…ケイナイン、周波数を変えよう。また傍受されたら困る』 「Terra Groupの情報を持ってる!!」 『…え?』 「アンタらが求めてんのはコレだろ?じゃなきゃ日本人がタルコフ市に来るわけない」 『………』 「嘘じゃない、本当だ!」 『………プリオゼルスキー自然保護区、WOODSって呼ばれてるエリアだ、そこの採掘場にいる』 直後、無線が途絶えた。周波数を合わせても反応がない。 「…自分で動くしかないか」 指定された場所までは歩いて2時間ほど。残り少ないレーションを掻き込み、ヘルメットを被る。持っている武器は、SCARとUSP。どちらも残弾はあまりない。 「…こんな機会もうないぞ」 重い身体に鞭を打ち、廃屋のドアを開ける。2日ぶりの外だ。あいわらず荒れ果てていて、散発的に銃声も聞こえる。 「…ここからが正念場だ」 「畜生!」 襲ってきた暴徒の集団の最後の1人の頭を撃ち抜いた瞬間、弾が切れた。 「…運がいい」 マガジンを装填し、ボルトを引く。幸運にも、採掘場はすでに目の前だった。 (…奴等が攻撃してくるかも) SCARのマガジンは今装填した物で最後、USPも残り2マガジン。本格的な戦闘はできそうにない。 「……」 USPのハンマーを起こし、静かにドアを開ける。中から物音は聞こえない。意を決して、中に突入した。両サイドをクリアリングするも、誰もいない。安心してSCARに持ち替えようとしたその時、後ろから物音がした。 「!」 咄嗟に振り返ると、そこには全身黒一色の装備で固めた兵士がいた。急いでSCARを構えるも、蹴り飛ばされる。そのまま押し倒され、ハンドガンを突きつけられた。 (何故だ…さっきはいなかったのに…) 「Freeze」 冷たい声で、兵士が言う。その声に、違和感を感じた。 (日本語訛りがある…まさか) 「待て、俺だ!」 必死に声をあげる。それに、兵士が反応した。 「…君、さっき通信してきたUSEC?」 「あぁ、そうだ」 「…悪い事をしたね」 そう言うと、兵士はハンドガンをホルスターにしまった。その腕に、部隊章はついていない。 「…あんた、所属は?」 「今は言えない。生きて帰れたら、教えてあげる」 そう言って、兵士は近くのドアを開けた。 「入って」 入った部屋には、3人の兵士がいた。装備はさっきの兵士と同じ。最新型のMCXを携えている。旧式の装備を使わされていたことが馬鹿馬鹿しく思えてきた。 「コイツが例の?」 「そうだよ、アンバーアイズ。で、情報は?」 バックパックからケースを取り出し、中央の机の上に置く。 「これだ。Goonsの隊長からくすねてきた物だから、間違いはない」 兵士達が中のファイルを漁り、何かを話し始めた。 「…よし、これだけあるなら充分だ。で、君は確か…ここから脱出したいんだっけ?」 「…何故それを?」 「顔見てりゃわかるよ。よし、今すぐ出発だ」 その合図で、周りの兵士が動き出した。 「よし、この辺りでいいか」 採掘場を出て数分、周りに何もない開けた場所にでた。 「…何をする気だ?」 「快適な空の旅。これつけて」 そう言うと、兵士が大掛かりなバックパックの様な物を取り出した。 「タンドラ、膨らませて」 「わかりました」 兵士の1人がバルーンを膨らませ始めた。バルーンとバックパックはワイヤーで繋がっている。 「…フルトン回収システムか」 「ご名答。旧式のシステムなのによく知ってたね」 「あぁ。実際に経験したことはないg」 その時、どこからか銃声が聞こえた。 「スナイパーだ!」 おそらく回収用のバルーンを見られたんだろう。急いで伏せて周囲を見渡すも、どこにも敵の姿は見えない。 「クソ…一体どこに」 「見つけた」 「…嘘だろ⁉︎ナイトヴィジョンもつけてないのに」 「4時の方向、500m先の建物の中だ」 そう言うと、兵士はMCXを構えた。直後、また銃弾が空を切る。 「無謀だ!スコープもなしに狙撃なんて…」 そう言うのにも構わず、兵士は引き金を引いた。 「…仕留めた」 「なに?」 確かに、兵士が発砲してから、銃弾は飛んでこない。目測のみで、500mmも遠くの相手を一撃で仕留めたのだ。 「さて、脅威は去った。あとは回収機を……ちょうど来たみたい」 航空機の音が聞こえてくる。あれが宙に浮いたバルーンを引っ掛け、それに繋がったワイヤーで空へ引っ張られる。考えるだけでも足がすくんだ。 「じゃ、また機内で会おう」 回収機にバルーンが引っかかる音が聞こえた。 「Bon voyage(良い旅を)」 「おーい?起きてる?」 その声で目を覚ます。隣を見ると、あの時脱出の手助けをしてくれた兵士がハンドルを握っていた。 「…ここは?」 「日本だよ。君にとっては、久々の母国なんじゃないかな」 もう長い事帰っていなかった故郷。精神を安定させるには充分だった。 「それで…今はどこへ向かっている?」 「あの時言ったろ?生きて帰れたら所属を教える、って」 そう言うと、兵士はブレーキを踏んだ。 「ここが俺の所属だ。ついてきて」 車を降りると、そこには基地の様な光景が広がっていた。 「ここは…軍か?」 「いや、民間の警備会社だ。表ヅラはね」 「おい、廻嶺」 その時、兵士の肩を叩いた。 「コイツが例の“新入り”か?」 「そうだよ、サイモン。あのタルコフを生き抜いたんだから、役に立つよ」 「お、おい。ちょっと待て。…新入り?」 「うん。君には今日からここで働いてもらう。どーせUSECに返しても始末されるんだし」 考えてみれば、所属していたUSECはTerra Groupの機密情報破棄を命じられていたPMC。その任務を放棄するどころか、むしろ背いてタルコフから脱出したのだ。帰れば間違いなく命は無い。 「…それも、そうか」 「はい、決定」 兵士が肩を組んで言った。 「ようこそ、PEACEへ」
...なに、これ...