小説:『君の透明な素顔』 第1章:秘密の露呈 放課後。冬の冷たい光が射し込む教室は、すでに閑散としていた。席を立ち上がったばかりの**日向葵(ひなたあおい)**の背中に、**桜庭蓮(さくらばれん)**の声が投げつけられた。 「おい、日向。お前、いつもそのマスクして、何隠してんだよ?」 蓮の周りには、いつものように数人の友達がいたが、彼はふと、壁を作り続けている葵の態度に苛立っていた。誰も知らない金魚の世話をする優しい姿を知ってから、蓮はもっと葵の心に触れたいと焦っていたのだ。その焦りが、最悪の形で口をついて出た。 「まさか、口元にすごい傷でもあるわけ?そこまで隠す必要あるのかよ。」 蓮はからかい半分で、葵が耳にかけていたマスクのゴムに指をかけ、軽く引っ張った。 『やめて…!』 葵が小さく声を上げる間もなく、ゴムは弾け飛び、使い捨ての白いマスクが、床にはらりと落ちた。 教室に、凍りついたような沈黙が訪れた。 蓮は、自分が引き起こしたことに一瞬にして後悔の念が押し寄せたが、次の瞬間、その感情は別の衝撃で塗り替えられた。 マスクの下から露わになったのは、ただの素顔ではなかった。 雪のような透明な肌、形の良い唇。そして、マスクで隠されていたせいで、まるで初めて世界を見たかのように大きく潤んだ、吸い込まれそうな瞳。その顔立ち全てが、照明の下で宝石のように輝いていた。誰もが息をのむ、完璧な美しさだった。 「…え、嘘でしょ…」 誰かが、か細い声でつぶやく。 蓮の心臓は、警鐘を鳴らすように激しく打ち始めた。 自分が今、この少女の最も大切な秘密を、軽薄な行動で暴いてしまった。 葵は、顔を両手で覆い隠すと、床に落ちたマスクを拾い上げ、震える手でそれを再びつけようとした。しかし、パニックでうまくいかず、彼女はそのまま、何一つ言葉を発することなく、教室を飛び出して行った。 蓮は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。彼の心には、美しさへの驚きよりも、深い罪悪感と、取り返しのつかないことをしたという絶望だけが残った。 その日を境に、二人の間には、厚く、そして透明な壁が立ちはだかることになった。
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