小説:『君の透明な素顔』続き 第3章:トラウマの告白 蓮の真摯な謝罪と、「優しさを見ていた」という言葉に、葵はマスクの下でそっと息を吐いた。彼女は、まだ蓮の目を見ることはできなかったが、逃げるのをやめた。 「…私、桜庭くんとは違うんです」 葵は、ポツリとつぶやいた。それは、自分に言い聞かせているような、小さな声だった。 「私、昔…仲の良かった友達がいました。ずっと一緒にいた、大切な友達だったんです」 夕焼けが路地の影を長く伸ばす中、葵は初めて、誰にも語らなかった過去を話し始めた。 「でも、中学に入って、私が少し目立ち始めてから、全部変わった。クラスの人が私のことばかり話題にするようになって、友達がどんどん離れていった」 葵は、一度言葉を区切ると、手のひらを強く握りしめた。 「最後は、友達に言われました。『葵は、やっぱうちらとは違うよ。一緒にいると疲れる』って。…私だって、みんなと同じで、ただ笑って過ごしたかっただけなのに」 その言葉は、葵の心を深く抉った、刃物のような一言だった。彼女は、自分の外見が、大切な縁を壊す呪いのように感じていた。だから、高校に入ってから、誰にも関わられず、普通の高校生としてひっそり生きるために、マスクで全てを隠すことにしたのだ。 話終えた葵は、顔を上げることはなかったが、その細い肩は震えていた。 蓮は、ただ黙って聞いていた。彼にとって、「目立つこと」は当たり前の日常だったが、それがどれほど誰かの心を傷つける原因になり得るのかを、初めて知った。 「そうか…」蓮は、静かに言った。 「辛かったな。お前の優しさを、誰も見てくれなかったんだ」 蓮は一歩、葵に近づいた。 「俺は、お前の顔がどうとか、周りの反応がどうとか、マジで興味ない。…いや、嘘だ。お前が美少女だってことは分かってる。でもな、俺が今日、お前を追いかけて謝りたかったのは、優しくて、一人で頑張ってる日向葵に対してだ」 蓮は、葵の前に立って、まっすぐな瞳で彼女を見つめた。 「俺は、お前を見た目だけで判断しない。約束する。だから…俺に、お前の隣にいるチャンスをくれないか?壁を作らないで、また少しずつ、話をしてほしい」
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