「どうされましたか、お兄様?」 その声にレモンシャインは案外遠くに行っていなかった事に少し安堵しながらも、半分呆れてため息をつきながら振り返った。 「アイスフェザー」 レモンシャインが見た先には青みがかった灰色の猫がいた。きちんと毛づくろいされた毛は美しく輝き、青い目は慈愛に満ち溢れながら、レモンシャインをうっとり見つめていた。 「いい加減僕のことを"お兄様"というのはやめてくれ。小っ恥ずかしいったらありゃしないんだよ。」 するとアイスフェザーはクスッと笑って返した。 「あら、本当のことじゃないですか。私にとってはお兄様は特別呼び扱いされる程大切な存在なんですよ。」 レモンシャインはくるっと目を回した。いつもこう呼ばれるたびに言い返しているのだが、その度にハチミツのように優しくとろけるような声で言い返されてしまう。どうやらアイスフェザーは僕のことを普通に呼んでくれるつもりは無いみたいだ。だが今はそれどころではない。どうしてもこの雌猫に聞きたいことがあるのだ。レモンシャインは早速本題に入った。 「なあアイスフェザー、最近ナイト族との争いが今までより増えている気がするんだ。前の大集会から雨が一度も降らないから、獲物と水が不足している状況でもあるし、こんなに厳しい時期は初めてだ。スター族は君に何かお告げをくれたのか?」 アイスフェザーが耳をピクっと動かした。 「実はまだ族長にもお話ししていないことがあるのですが…」 レモンシャインは興味をそそられた。 「どんなことなんだい?どうしてエンバースターに伝えようとしないんだい?」 アイスフェザーは言った。 「伝えるにはあまりにも不明瞭な部分が多いんです。だからもう少しお告げの意味がはっきりしてから伝えようと思ったのですが…お兄様が相手です。特別にお告げの内容を教えますよ。」 レモンシャインは感謝を込めてまばたきし、耳をアイスフェザーに近づけた。 「私は縄張りの中を歩いていたんです。そうしたら突然空が曇って一気に薄暗くなって…そしたら突然空から降ってきたんです…血が!生臭い臭いを放って降ってくる血の雨の中にこんな声が聞こえたんです。『部族内に血は降り続ける…同じ血を持つものがその雲を打ち払わない限り…』そう聞こえた後ふっと意識が飛んで…それで目をさましたんです。」 レモンシャインは訳がわからなくなった。なんだその滅茶苦茶な夢は?アイスフェザーが族長に話すのを渋る理由がわかった。今度の夢はいくらなんでも意味不明過ぎる。レモンシャインは告げた。 「教えてくれてありがとう。僕もその夢の意味を考えてみるよ。勿論誰にもこのことは言わないよ。」 アイスフェザーが言った。 「ありがとうございますお兄様。誰かに話したら少し心が軽くなりました。」 「辛い事があったら、いつでも僕に相談してくれ。」 その時、看護部屋の外からエンバースターの声がした。 「レモンシャイン、出発するぞ!」 レモンシャインはハッとした。 「行かなきゃ。」 アイスフェザーが返す。 「行ってらっしゃいませ、お兄様。どうかご無事に帰ってきてください。」 レモンシャインはさっとアイスフェザーの耳を舐めて看護部屋を出た。お告げの事を教えて貰ったからには、僕も真剣に考えなくちゃ。そう思いながら仲間達と合流し、一行はエンバースターを先頭にキャンプを出発した。
※このプロジェクト内の音源の使用は厳禁です。 音源… https://www.youtube.com/watch?v=IMJVU4ztJI0 ⚪︎ストーリー補足 アイスフェザーはレモンシャインとは兄妹の関係で、幼少期から看護猫になる訓練を受けていました。そんなある日、もうすぐ命名式だという頃に一人で縄張りを歩いていたところをキツネに襲われて、そこを偶然通りかかったレモンシャインに助けられました。それからというものアイスフェザーはレモンシャインの事を「お兄様」と呼び慕い、看護猫として見た夢は族長よりも先にレモンシャインに教えたり、彼の治療を他の猫より優先するなど破格ともいえる程の特別扱いをしている。本猫曰く「これからの一生は一族やスター族ではなくお兄様に捧げる」とのこと。因みにアイスフェザーは他の猫への態度は至って普通。レモンシャインにだけあの喋り方をしている。