呪爆霊単空王記 #45『アノ事故』 前回 https://scratch.mit.edu/projects/1233625948/ 次回 https://scratch.mit.edu/projects/1259389935/ はろーはわゆー(は?)miyatti3です。 これを投稿する頃には多分2026年になっていると思います。今年中に幽霊塔を終わらせることはできませんでしたね・・・まあ、今年度中には多分終わります。 (恒星祭内定前に作りました) 破壊の猫の携帯に、一本の電話が入った。破壊の猫は表情を変えず、 「ああ・・・ああ、分かった。安心してくれ」 と応対するだけだった。 「グルウェルからの電話だ。どうやら外に青導師の遊軍がいるらしいが、取るに足らない強さだそうだ。」 幹部ノ霜降、グルウェルは赤幕でも五本の指に入るかという強戦士である。彼の「取るに足らない強さ」は信用してはいけない。これはグルウェルの相手を見極める目がないというわけではなく、グルウェルがあまりに強いため、その「取るに足らない」が、普通に強いことがあるということだ。しかし、この場ではグルウェルを信じるしかない。 「まあ、気にするな。今は、9階で戦ってる痤牙城を応援しようじゃないか。」 次の連絡は雨黎からだと、皆が信じていた。 信号が青になったことを確認し、雨黎はトラックを発進させた。ここで右折すれば、例の公園はすぐそこだ。しかし、対向車が多く、なかなか進むことができない。その瞬間、視界の左端に、赤信号のはずの道路から猛スピードで突っ込んでくる自動車が見えた。 「仕事中」で油断していたのが、雨黎の運の尽きだった。 そのトラックは横転し、雨黎を頭を強打、エアバッグを見るまでもなく、意識を失った。さらなる不幸は、横転したトラックが大きく横に滑り、今度はそこを歩いていた小学生たちに衝突したことだ。そのうちの一人がトラックと建物の間に挟まれ、完全に潰される。 一方の信号無視の車の方も、決して無事では済まなかった。その車がトラックと違って横転していないというのは、どう考えても何かの能力が働いていることをしましていたが、それでも軌道を曲げられたその自動車は、また新たな車に激突した。その車も大きな衝撃と共にひっくり返り、運転席と助手席に座っていたであろう人間の頭を天井に強打させ、確実に死に至らしめた。幸いにも、後ろに座っていた子供は、奇跡的としか言いようだないが、その時シートベルトの付け根を強く握っていたために、負傷せずに済んだ。 しかし、それでも信号無視の自動車は止まらない。また軌道の逸れた自動車は、今度は歩道にいる歩行者の方に突っ込んで行った。その先には、あの高校生がいた。咄嗟のことで呆然としていた彼は、そこにただ突っ立っていただけだった。高校生の視界には、向かってくる自動車だけが写っていた。しかし、その時、視界が大きく傾いた。一瞬、激突されたのかと感じたが、そんな痛みは感じない。 同行していた老人が、彼を庇っていたのである。 「じいちゃん!!」 老人が生きていないことは、彼の目にも明らかだった。 その時、彼の中に眠っていた潜在的な力と本能が、絶望によって顔を出した。 建物に多少めり込んだその車の後席のサイドウィンドウを肘で割り、そこに俊足で潜り込む。そして一瞬で助手席へ移り、運転手が気づく間も無くその拳を脳天に激突させた。彼の拳は頭蓋骨をいとも簡単に割り、運転手の死亡を確認すると、すぐさま車から脱出した。 この時にはもう、彼の運命は定まってしまった。 月読は周りを確認する。散々な状態であるが、月読にとっては慣れっこだった。 突っ込んできた車は間違いなくJoshuaの手先のものだろう。その車が衝突したトラックにいた人物は、巧妙に隠してはいるが、おそらく相当な能力者だ。そのトラックに轢かれた小学生にも能力者はいるかもしれないが、たいしたものではない。乗用車に乗っている家族はもちろん無能力、車に轢かれた老人も同様である。その連れの子供は確かに強いが、こういう怒りに任せてとんでもないことをしでかす奴には「先例」がある。手を出さない方が賢明だ。 となると、気になるのはトラックの運転手だ。おそらく今回の事故のターゲットはあの男だろう。「奪う」価値があるかもしれない。月読はここまでのことを数秒で考え、事故車たちに注目が詰まっているうちに目立たないようにトラックに乗り込んだ。名刺を見ると、その名は「甘板海勲」。もちろん偽名だ。並び替えると「赤幕隊員」。そういう闇組織があることは噂には聞いていたが、実際に隊員を見るのは初めてだった。耳につけたイヤホンは、形からして通信機だろう。月読はそれを外し、連絡の履歴を復元させる。普通はもちろん通信履歴など残らないが、月読の常備するveriynuiの機械の一つで無理矢理に履歴を出す。最新の通信は「幽霊塔に来てくれ。」だった。 幽霊塔。その響きには、月読を興奮させるに十分なものがあった。veriynuiが長年追っていながらも、なかなか本性を掴めない場所。そこに、これまた闇組織の赤幕が動いている。これは、漁夫の利を狙えるかもしれない。赤幕隊員か幽霊塔の人間か、2、3人は持っていけるかもしれない。 ・・・月読の「2、3人」も信用してはならない。このセリフが出た時には、その場に数十体の死体が転がることが稀ではない。 月読はすぐさま幽霊塔があるとされる場所に向かった。確証はないので本部に報告こそしていないものの、月読の優秀な相棒の情報だ。おそらく間違いない。 月読の頭から、Joshuaのことはすでに消えていた。 幽霊塔9階から痤牙城が出てきてから、もう10分が経とうとしている。いくらなんでも遅すぎる。雨黎は確かにズボラなところがあるが、それにしたって遅い。不審に思った一ノ瀬は、雨黎に電話をかける。しかし、誰も出ない。とはいえ、雨黎が電話に出ないのはいつものことだ。次に電話をかけた相手は、外にいるグルウェルだ。彼は今、赤幕隊員全員の居場所がわかる地図アプリの入ったスマホを持たされているため、彼に聞けば、雨黎の場所が分かる。 電話は2コール目でかかった。 「一体なんの用だ?もちろん、青導師は殲滅完了しているぞ?」 「雨黎さんを呼んだのですが、なかなか来ません。雨黎さんの場所を確認していただけませんか?」 「・・・あいつなら、こっから数十キロ先の道路にいるぞ。また、トラックの仕事じゃねぇか?」 わけがわからないが・・・これが、「予感」の正体だろうか。 今度は破壊の猫に対して、また電話がかかってきた。それに受け答えする破壊の猫の顔は、グルウェルの電話に対するそれよりはるかに険しいものであった。 電話のボタンを押し、破壊の猫が厳粛に告げる。 「雨黎は・・・・トラックで、亡くなったそうだ・・・」 幽霊塔がまた移動を行い、がたん、と床が地震を起こした。 そこからは悪夢のようであった。プランを大幅に変更し、10階に代理で挑戦したのは鳳凰で、なんとか勝利を喫したものの、その姿は明らかな苦戦の様を表している。普段の鳳凰とは違い、一歩一歩に動揺が見て取れる。 11階は時乃川が挑戦したが、時間がかかり過ぎている。そして、ついにその報せは来た。 もう、これ以上は難しい。ゼディガがここから本来の実力を出せるとも思えないし、痤牙城も平静を装っているが、内心の動揺は間違いない。一ノ瀬は、リスクよりも安全を取る隊員だった。 「今回の幽霊塔は、もう諦めた方がいい気がします。」 一ノ瀬の発言に意を唱えるものはいなかった。とはいえ、このままではこの判断は幹部総会議で批判されていたかもしれない。 しかし、この後、一ノ瀬の判断を賞賛するしかないことが起きたのである。 月読は幽霊塔を目視していた。ここにくるまでに何人かの赤幕隊員らしき人物を見つけたが、姿を見られるヘマをするような月読ではない。というよりは、姿を見られた隊員をそのままにするような月読ではない。連絡の暇もなく、隊員たちを死角から瞬殺した。その様子を監視室で見ていたシュレオンですら、その人物を青導師の一味だと思っていた。 月読は幽霊塔を破壊してでも入るべきか、それとも待つべきか、それを思案していたが、長く悩むような月読ではない。すぐさま幽霊塔の扉の破壊にかかる。幽霊塔に触れさえしなければ、幽霊塔が動くことはない。遠隔から能力を使って、扉を破壊する。「新しい」能力を試すにはもってこいだ。 「絶止崩壊『Lance』」 幽霊塔の扉を能力によって生まれた霧状で闇色の槍が刺し、完全に崩壊させた。 この時の赤幕隊員の陣形は、最悪としか言えなかった。月読が次に放つ技が確実に当たる位置にいたのは、痤牙城、破壊の猫、シャーラの3人で、この3人は扉を壊した「雨黎の」技に呆気に取られていて、次の技を避けれる状況ではなかった。その後列にいるのは動揺している鳳凰とゼディガで、この二人は三番目の技を受け切れはしない。そのままでは、最後尾にいる墓も決して平気ではなかっただろう。だが、赤幕にとって幸したのは、この一団の中に冷静かつ即座に反応を起こせる人物がいたことだ。 「無限落下!!」 侵略者は地面の遥かそこまで続く穴へと落とされていた。それに一ノ瀬も続く。 流石の月読でも、落下状態から羽もなしに地上に戻ることはできない。まあ、たとえ羽があったとしても決して地上に戻れないような仕掛けがこの技には施されている。 「落下の気持ちはどうですか?」 一ノ瀬が月読に語りかける。落下中だとしても風に遮られず会話ができるというのが、この空間の良い点である。 「なかなかですね。もしかしたら、貴方を殺したら、永遠に出られなくなる、とかですか?」 一ノ瀬は首を横に振る。 「トウマさん、でしたっけ?別にそんなことはないです。ですが、安心してください。貴方は私を殺せません。」 一ノ瀬は技を出す体勢に移る。しかし、月読の方が少し早かった。 「絶止崩壊『ball』」 一ノ瀬を狙っていたのは巨大な球体である。悠に自分の身長の倍はあるだろう。しかし、落下に慣れているという点で、一ノ瀬に理があった。易々と球体を避け、再度自分の技を出そうとする。今度は、月読よりも早かった。 「出現固定(アピア・ロック)。」 月読は一瞬、一ノ瀬が何をしたのか理解できなかった。しかし、それはすぐに分かった。自分の中から何かが剥がれ落ちるのを感じた。間違いない。月読は「もともとの」能力を封じられた。 「その、『絶止崩壊』って、雨黎さんの技ですよね?技をコピーするのがあなたの能力ですか?なら、その能力はもう使えませんね。あなたが使えるのは、雨黎さんの技だけですね。」 『出現固定』は、相手を永遠に直前の状態から変えないという、難しい効果の技であるが、今回の場合であれば月読の能力は雨黎の能力で固定され、もう能力のコピーはできないということである。普通は相手に加えたデバフをそのままにするために使う技である。ちなみに、味方に加えたバフを永続させることも不可能ではないが、これは相手の体に大きな負担がかかることも多いので、あまり行うことはない。 一ノ瀬は、雨黎が自分の技を最大限活用することであの強さを得ていたのだと知っていた。こんなぽっと出の奴なんかに、あの能力を使いこなし、雨黎のような強さを得ることはできない。 月読も不利を悟り、ポケットから煙玉を取り出し、煙幕を撒く。この煙幕は信じられないほど範囲が広く、一ノ瀬は月読を見失ってしまった。 「まあいいでしょう。脱出、頑張って下さい。」 一ノ瀬は目の前に大きな丸を描き、そこに黒い穴を出現させた。そして、その中へと入っていった。 次回第四十六話「アノ事故(後編)」 「はい。僕の名前は・・・」