夜の東京。 雨上がりのアスファルトに、無数の街灯が揺れていた。 その光のひとつひとつが、まるで人の心を覗き込むように淡く瞬いている。 黒いドレスの女――ホーキは、傘も差さずに歩いていた。 長い黒髪が夜風にほどけ、濡れたアスファルトの上に影を落とす。 彼女の瞳は、深い闇の奥に赤い光を宿している。 まるで、他人の痛みを映す鏡のように。 「人の壊れる音って、どうしてこんなに綺麗なのかしら……」 呟きは誰に届くこともなく、雨粒の音に溶けた。 彼女の手には、一振りの鎌。 月明かりが刃に反射し、光の線を夜空に描いた。 その少し離れた丘の上―― 白い鳥居の前で、朱桜 累が佇んでいた。 白い巫女服に銀糸のような髪が映え、蒼い瞳が静かに輝く。 「妹よ、また彷徨っておるのじゃな」 「だって、退屈なんだもの。人の“愛”が壊れていくのを見るのが、いちばん面白いの。」 累はため息をつき、しかし微笑んだ。 「おぬしは愛の終わりを見て悦ぶ。わらわは恋の始まりを見て微笑む。 どちらも、この世に必要な“感情”じゃよ。」 二人の会話の間に、風鈴のような音が響いた。 街のどこかで、誰かの恋が、ひとつ終わった音。 その頃、別の街角。 猫耳を小さく動かしながら、メガドラがため息をついていた。 彼女の手には、タブレット端末と資料の山。 職場のチャットは未読が99件、コーヒーは冷めきっている。 「……ああ、もう無理……ウェスタンさん、今日も残業かな……?」 ガラス越しに見える高身長の青年、ウェスタン。 整った顔立ちに、冷たい光を宿した瞳。 何を考えているのか、誰にも分からない。 ただ、彼の指先がキーボードを叩く音だけが規則正しく響く。 同じ夜、 ベルギー出身の女性――シーメンス・D・ティラミスが、 街灯の下で一冊の古い本を開いていた。 「“恋の神は、願う者を映す鏡”……ふふ、なるほど。」 彼女の微笑みは穏やかだが、その奥に何か鋭いものが潜む。 そして、ページの隅に描かれた印を指先でなぞると、 風が一瞬、逆に流れた。 「――会いたいわ、朱桜 累。あなたの力を、借りたいの。」 夜の空気がざわめき、どこかで鈴の音が響いた。 まるで、何かが始まる合図のように。