【小説版】 片目の勇者 #6 空白、空白、優しさ 苦しそうな息が続いている。 「まずいな…」 定食屋…もといゾリーさんの家に辿り着くと、急いで中に入った。なんとか彼女を背負ったまま階段を上るが、筋肉のない体にはきつかったようで、汗が吹き出してくる。 「おー。おかえり」 ベッドに腰掛けて本を読んでいたゾリーさんが振り返る。が、すぐに俺が誰かを背負っているのを見て、訝しげな表情を浮かべた。 「って、誰だよ。」 なりふり構っていられなかった。 「っ、詳しいことは後で話します。この子がヤクザにやられていて傷だらけで…」 本を静かに置き、すぐに立ち上がった。 それを肯定と捉え。ベッドにそっと横たわらせると、少し手先が動いた。 「そりゃ大変だ。早く手当を。」 そういって、ゾリーさんが彼女の顔を覗き込んだ。 彼女の閉じられた瞳が、少しだけ開いた。 「っっっ!!」 顔にかかった髪を払おうとした俺の手を、音を立てて弾かれた。他でもない、ゾリーさんに。 「危ないッ、離れろ!!」 咄嗟に感じた、『嫌な予感』。 一瞬で飛び上がったゾリーさんが、拳を振りかざしている。 「殺す」 全身の毛を逆撫でするほどの、おぞましいオーラ。 殺気だ 「っは、待てッ!!!」 精一杯の力で床を蹴り、横からゾリーさんの胴に体当たりする。 彼の目に自分が映った瞬間、一瞬の『迷い』が見えた。手元は力を失い、ついに彼女に当たることはなかった。 …何だ。何が起きたんだ。咄嗟のことでひとつも状況が読み込めない。 だが、命の恩人だということを弁えても、今起きたことは許せることではない。 どっと怒りが押し寄せてきた。 「っ!!…なんてことするんですか…!!!怪我人ですよ…!?」 訴えかけるように、怒鳴った。 …一体何故? 「…ロンダ」 反応は、予想できなかった。 はっとしたのは、冷えきった瞳が俺を貫いたからだ。 「こいつは、【魔の手】だ」 淡々と話す彼の表情には怒りも焦りも、いつものような快活さもない。 込み上げた怒りさえ凍らせてしまうような空気に、目を逸らしてしまった。 部屋の温度がどんどん下がっていく。 「【魔の手】って…」 人を寄せ付けない、普段からは想像もできない雰囲気に鳥肌が立った。 「…っな、なんなんですか、それ」 なんて酷い名前だ。 もしかして、彼女はゾリーさんの知り合いなのか?そうでなければ、差別された家系、とかか。それとも… 「…ゾリー、さん、?」 翠緑の睫毛が揺れ、彼女が寝ている姿を横目に確認する。と、大きくため息をつく。 「…ああ。教えてやる。【魔の手】について。」 隠しきれない躊躇いが見えた。 ただ、何故だろう。 聞くのは、あまり良くない気がしたんだ。
彼の中身は、すっかり抜け落ちた。奪われた。 でも、空っぽじゃない。 【小説版公式スタジオ】 https://scratch.mit.edu/studios/51114310/ 前回 https://scratch.mit.edu/projects/1255632086/ 次回 https://scratch.mit.edu/projects/1274052750/ 【アニメ6話】 https://scratch.mit.edu/projects/607743755/ アニメでは表現しきれなかった情景、表情、心情、詳しい設定などが垣間見えるのが文字の良さだと思っています! 2月の受験まで、お付き合いくださいね