本文↓ ルールは、ガチエリアだった。 中央の区画を挟むように、両チームが散開する。 味方の編成は、シューター、ローラー、そしてスクリューとリッター。 前線と維持と後方。役割は、はっきりしている。 「いつも通りでいいよ」 「後ろは任せた」 ローラーが軽く手を振る。 リッターは短く頷き、高台に立った。 照準を覗く。 世界が、線になる。 敵シューターが顔を出す。 遮蔽物の縁。射程内。 当てられる。 ――けれど、撃たない。 すでに撃っていたインクが、地面でわずかに歪む。 広がるはずのなかった塗りが、エリアの内側へと寄せられた。 「塗り、助かる!」 中央でシューターが声を上げる。 ローラーが、そのまま前に出た。 (撃たない方が、早い) そう判断した。 今のは、迷いじゃない。 エリアは取れた。 カウントが、ゆっくりと進む。 次の波。 敵が二人、同時に入ってくる。 (左、右……) 照準を振る。 右は当てられる。 左は、スクリューが詰めている。 (撃てば、落とせる) でも――。 リッターは、引き金にかけた指を止めた。 代わりに、地面のインクを跳ねさせる。 視界を遮るように、黒いしぶきが舞う。 「今の、何……っ」 敵の動きが鈍る。 その隙に、スクリューが振り抜いた。 「取った!」 エリアは、まだ守られている。 (上手くいってる) そう、思った。 だが、次の瞬間だった。 裏。 射程の端に、敵が滑り込む。 (当てられる) 確信がある。 照準は合っている。 だが、その先で、味方が交差する。 ローラーが、エリアを塗り直そうとしている。 (今は……撃たない) 一拍。 判断。 その一瞬で、ローラーが落ちた。 「裏、抜けた!」 「エリア削られてる!」 慌てて撃つ。 撃ったインクを曲げ、倒した。 ――けれど、遅い。 エリアは奪われ、カウントが止まった。 (判断が、重い) 撃たなかったことが、間違いだったとは思わない。 でも、考えすぎた。 それだけは、はっきりしていた。 残り時間は少ない。 敵が一人、中央に残っている。 (当てられる) 撃てば、終わる。 照準は、完璧だった。 だがその瞬間、スクリューが前に出る。 インクの軌道が、重なる。 (この弾は――) 撃たない。 スクリューが敵を落とす。 だが、別方向から塗り返される。 「エリア、取られる!」 「時間ない!」 ホイッスル。 試合終了。 結果は、敗北だった。 ロビーへ戻る途中、誰も責めなかった。 「今の判断、悪くなかったと思う」 「無理に撃たなかったの、助かった場面もあったし」 リッターは、ただ頷く。 (それでも) 勝てた。 そう思ってしまった。 試し撃ち場。 白い壁の向こうに、エリアの感触が残っている。 照準を上げる。 当てられる距離。 だが、撃たない。 「……今、撃たなかったでしょ」 スクリューの声。 いつからいたのかは、わからない。 「うん」 「インク、動かしてた」 「……うん」 スクリューは、それ以上踏み込まなかった。 「撃たない代わりに、全部やろうとしてたね」 「……」 「それ、逃げじゃないよ」 リッターは、銃を下ろす。 (撃たないことで、守れたものはある。でも、撃たないことで、失ったものもある) その両方を、否定できない。 狙撃の正しさは、まだわからない。 撃つ距離も、撃たない距離も。 どちらも、射程の中にある。 王なき時代は、まだ続いている。 その中心に立つには―― この曖昧さごと、抱えなければならない。