本文↓ 次もまた、同じエリアだった。 偶然じゃない。 でも、前とは違う。 高台に立つ。 照準を覗く。 線になる世界は、相変わらず正確だった。 (全部、落とせる) それがわかるのが、少しだけ怖い。 「中央行くね」 「左、見る」 「右は私」 スクリューの声。 いつも通りの配置。 いつも通りの始まり。 リッターは、撃った。 高く。 目立たない角度で。 数発。 インクが、上空に留まる。 (……でも) すぐには、落とさない。 敵が前に出る。 シューター同士が撃ち合い、ローラーがエリアを塗る。 (今、落とせば) 一気に取れる。 ノックアウトも見える。 それでも、指は動かない。 「リッター?」 「……見てる」 前と同じ言葉。 でも意味は違った。 敵チャージャーが顔を出す。 撃てば、確実に落とせる。 ――撃たない。 代わりに、視線を下げる。 スクリューが、少し無理をして前に出ている。 足元の塗りが、薄い。 (危ない) 上空のインクに、意識を向ける。 でも、狙うのは敵じゃない。 地面。 スクリューの進行方向に、インクが落ちる。 遮蔽物になる。 足場が、繋がる。 「……助かった」 短い声。 エリア確保。 カウントが動く。 敵が、別方向から詰めてくる。 三人。 (落とせる) 前なら、もう終わっていた。 でも、今回は。 「左、来る」 「見えてる」 言葉を、投げる。 スクリューが、即座に動く。 その瞬間を待って、一発だけ、落とす。 一人。 残りは、味方が処理する。 (……足りる) 全部じゃなくていい。 一人でやらなくていい。 終盤、敵のラッシュ。 前回と同じ状況。 同じ位置。 同じ人数。 上空には、十分すぎるほどのインクがある。 (全部、終わらせられる) そう思って――やめた。 代わりに、動かす。 敵の足元。 味方の前。 逃げ道を、限定する。 「今!」 スクリューの声。 ローラーが踏み込む。 シューターが塗り返す。 リッターは、最後の一人だけを落とした。 カウントが進む。 ホイッスル。 試合終了。 勝利。 でも、前とは違う。 「今の、連携よくなかった?」 「リッター、合わせてくれてたよね」 声が、ちゃんと向いてくる。 スクリューが、隣に立つ。 「今日のは」 「……うん」 「一人じゃなかった」 リッターは、少しだけ考える。 (落とせた) (でも、落とさなかった) それは、弱さじゃない。 縛りでもない。 選択だった。 試射場。 何発か撃つ。 インクを、上空に止める。 落とせる。 いつでも。 でも、落とさない。 (射程は、ここまでじゃない) 当てる距離。 撃つ距離。 それより少し外側に、 『任せる距離』がある。 それを、ようやく理解した。 王なき時代は、騒がしい。 強い者が、前に出る。 でも―― 中心に立つのは、 全部を撃ち抜いた者じゃない。 撃たなかった一瞬を、誰かに渡せた者だ。 もう一度、何発か撃つ。 インクを、上空に止める。 落とせる。 いつでも。 リッターは、意識を集中させる。 (今度は全部、落とす) 上空のインクが、一斉に地面へ叩きつけられる。 逃げ場はない。 想定された相手は、確実に倒れる。 (……これが、私) 任せる距離も、知った。 撃たない選択も、持った。 それでも。 (最後に撃つのは、私だ) 一対一なら、話は別だ。 誰も、代わりはいない。 撃たなかった瞬間が、負けになる。 だから―― 迷った末に、撃てるようになったのは、弱さじゃない。 リッターは、ブキを構える。 その照準は、 誰かのためじゃなく、 自分一人に向いていた。 ――射程は、足りている。