本文↓ 無双回です!番外編五話の後の世界かな一応 試合形式は、特殊ルール。 一対多数。 一度倒された時点で、そのプレイヤーは脱落。復活はない。 観客席がざわついている。 「一人で、百人?」 「正気か?」 「誰だよ、受けたの」 コートの中央に立つ少女は、静かだった。 リッター。 リッター4Kを肩に担ぎ、周囲を見渡す。 敵は円を描くように配置されている。 シューター、ローラー、チャージャー、スロッシャー。 数だけは揃っている。 開始まで、あと数秒。 ――知ってはいる。 ――映像も、噂も、何度も見た。 だが。 「一人だぞ」 その言葉に、誰も笑わなかった。 名前は知っている。 ただ―― 自分たちが、その『相手側』になる実感だけが、なかった。 開始音が鳴る。 最初に動いたのは、敵だった。 一斉に広がるインク。 包囲。 逃げ場を潰す、教科書通りの動き。 リッターは、撃たない。 照準を構えたまま、わずかに銃口を上げる。 ――撃っていないのに、空気が揺れた。 いつの間にか、空中に“止まっている”インク弾。 数発。 いや、十数発。 誰も気づかない。 撃たれた記憶が、ないからだ。 「前、詰めろ!」 「チャージャーの射線、切れてる!」 ローラーが突っ込む。 その瞬間。 ノーモーション。 空中のインクが、一斉に落ちる。 撃音は、ない。 着弾だけが、ある。 「――っ!?」 ローラーが消える。 続けて、背後にいたシューター。 さらに、遮蔽物の裏にいた二人。 インクは、曲がっていた。 地形をなぞり、逃げ道を塞ぎ、確実に当てる。 「な、何が起きて……」 混乱が、伝播する。 リッターは、ようやく一発撃つ。 その弾も、途中で止まる。 空中に“ストック”される。 撃つ。 止める。 撃たずに、殺す。 それを、淡々と繰り返す。 敵が距離を詰めれば、地面のインクが跳ねる。 目眩し。 足を取られた瞬間、見えない射線が通る。 「囲め!一気に――」 声は、途中で途切れた。 上から、インクが降ってきたからだ。 上空。 誰も見ていなかった位置に、数十発。 落下。 同時着弾。 十人が、同時に消える。 会場が、静まり返る。 リッターは動かない。 撃たない。 ただ、見ている。 残り、半数。 チャージャーが狙う。 射線が交差する。 その瞬間、リッターの弾が――撃たれる前に曲がった。 撃ったインクが、途中で軌道を変える。 手前にいた相手を避け、奥のチャージャーに当てる。 「……意味が、わからない」 誰かが呟いた。 意味は、ある。 射程の中に、すべてを置いているだけだ。 時間が、削れていく。 数が、減っていく。 残り、十人。 連携を取ろうとする。 だが、その“間”に、インクが落ちる。 撃たれていない。 見えていない。 それでも、倒れる。 最後の一人が、ブキを落とした。 ――投了。 試合終了の音が鳴る。 リッターは、ようやくブキを下ろした。 息は乱れていない。 表情も、変わらない。 ただ一つ。 空中に止めていた最後のインクを、静かに解除する。 それが、地面に落ちて、ただのインクに戻る。 誰も、拍手できなかった。 勝利だった。 圧倒的な。 でもそれは、チーム戦でも、個人戦でもない何かだった。 射程の外に、誰もいない。 だから、彼女は一人で立っている。 ――それが、リッターという存在だった。