──導入 皆様、私が少し前に公開した猫改造作品"nvel"はご覧になられたでしょうか? まあ別に全然見る必要なんて無いです...が、今日はそのキャラの小ネタについて語ろうかなと思います。ですので以下の文章は"nvel"を既に閲覧したことを前提として記述していきます、ご了承ください。中にコメントアウトで設定文も作ったので一応そっちも読んでいただけるとより理解が進むかと思われます。 ──"nvel"のリンク https://scratch.mit.edu/projects/1258831943/ ──創作経緯/序 実は眞白くん(性別不詳ですが便宜上くん付けで呼びますね、私の中ではどちらかというと男性寄りというイメージです)は「物理の授業では"ただし空気抵抗はないものとする"って書いてあるけどなんかそれ空気抵抗が可哀想だよね」というふとした思いつきから生まれたんですよね。...嘘じゃないです、私は基本色々と適当なので冗談みたいな発想から創作を始めることがあります。 さて、そこから「じゃあ空気抵抗をなくしちゃうキャラを作ろう!」と思い至ったわけですが、ここで壁にぶち当たります。単純に弱すぎるんですよね、モチーフとして。というわけで能力を拡大解釈する...というより、一般化することを試みました。そこで辿り着いたのが"ナヴィエ・ストークス方程式"。眞白くんのモチーフの一つですね。その能力はちゃんと書くと「半径300m以内に存在する、指定した流体のナヴィエ・ストークス方程式における圧力項と粘性項を無視する」と表現されます。もしくは「流体による古典力学的な相互干渉の影響を遮断する」とも書けますね。 ──創作経緯/破 まあこうすることによって以降キャラクターの設定を作り込んでいく上での足がかりが出来たわけです。一応ここでナヴィエ・ストークス方程式について軽く語りましょうか。 (私は普段可換環論とかをやっている都合上あまり流体力学については詳しくないので数学的・物理学的に誤った表現があってもどうかご容赦ください。もしくは優しくご指摘ください。そもそも、これはあくまでも創作なのだからあまり厳密な表現を追い求めすぎるのもナンセンスではありますけれども) ナヴィエ・ストークス方程式とは人類に残された7つの難問"ミレニアム懸賞問題"の一角にして2026年現在でも未解決の問題です。これは気体や液体などの総称である流体の運動に関わる方程式であり、この方程式を解くことが出来れば人類は流体の運動を完全にシミュレーション出来るようになり、例えば天気予報は100%当たるようになるとも噂されています。まあ、そのエピソードについては眉唾ですがね...。 ともかく、そんなすごい方程式が何故今まで解かれていないのか。その理由は単純にこの方程式が難しすぎるから、なんなら解が存在するかどうかすら分からないからです。件の方程式は非線形微分方程式という形式を取っており...とにかく何もかもが予測不能。奇想天外な現象が起きまくるわけです。例えば立ち昇ってゆく線香の煙は微かな風に吹かれて揺れ動き、いずれは満開の菫のように花開いて散らばっていくことでしょう。ともかくその非線形性のせいで流体は予測不可能で不規則的な運動をするわけです。 では先ほど述べた方程式の困難さの根源とはどこにあるのか? それがまさしくナヴィエ・ストークス方程式における移流項と圧力項、粘性項なのです。そして彼はそのうちの圧力項と粘性項を無効化して流体の運動を予測可能なものにする...という能力を持っているわけですね。 原案では移流項も無効化可能にする予定だったのですが、それは流石に強すぎてチートキャラに片足を突っ込んでしまうということで却下されました。とはいえ却下しても尚だいぶ強かったので、能力のデメリットとして「能力の使用中は呼吸ができなくなる」という設定を付け加えました。空気の影響を遮断するんだから、呼吸という空気の恩恵を喪っても仕方がないよね...という論理です。実はこれが偶然にも本人の生きづらさ、息苦しさを示唆するメタファーとして色々と上手く機能してくれたんですよね、私は本当に運が良かった。 ──創作経緯/急 さて、彼にはもう一つのモチーフとして、漠然としていますが"生きづらさ"というものが存在します。彼の能力とは自身を取り囲む環境の予測不可能性やランダム性を排除し、そしてそれとの関係を断つ...というものです。きっと、彼にとっては人間関係なども苦痛になることでしょう。理解できない物事が怖くて仕方がない、複雑なものが美しくないように見えて気分が悪くなる...どれもありえない話ではないかと思います。 ここで、私はあることに気がつきます。「この性格は俗に自閉スペクトラム症と呼ばれる発達特性に類似しているのではないか」と。もちろん、このテーマをモチーフとして扱うかどうかについては大いに葛藤がありました。それはもうセンシティブなテーマですし、下手なことは書けないな...いっそ全部没にしようかな...とも感じました。 しかし、この特性としっかり向き合い上手く表現することは彼を描く上で避けられない試練なのではないか...と思い至ります。そこで私は「なんとしてでもこのキャラクターの設定の完成度を炎上しないようなレベルまで持ち上げてやろう」と決意しました。差別的なニュアンスを取り払い、扱うキャラクターに対して1人の人間として真摯に向き合う。このテーマに手を出すからにはそうしなければならないと感じたわけです。少なくとも...設定文の作成についてはそれくらいの態度で望みました。 ただし設定文に「やや自閉スペクトラムの"傾向"があり」とあるように、件の発達特性を持っているとは断言していません。あくまでも発達とはグラデーション的なものであり...誰かに対して一方的にラベル付けを行うのではなく、1人の人間として見てあげることが大切であると感じています。 ──理想系と複雑系の文学的再解釈 我々が住まう現実社会にはさまざまな"複雑系"が存在します。金融市場、生態系、気象現象、あるいは人間の感情。これらはミクロな視点から観察するにはあまりにも複雑であり、巨大な怪物のような存在だと言えることでしょう。 彼はそんな社会を"ノイズ"に塗れた世界であると蛇蝎の如く嫌い、そうしたノイズに自分が影響される、阻まれる(抵抗を受ける、とも言い換えられますね。これも空気抵抗要素です。)事すらも嫌います。金欲に目が眩み"ハカセ"を追い詰め、最終的に彼を消してしまった群衆もこれにあてはまるでしょう。そしていつしか人間の声が嫌いになり、能力の副作用により息苦しさを感じつつも音を遮断することで誰の声にも耳を傾けなくなってゆく...。 そんな彼の前に現れたのが"ハカセ"の存在です。彼の興味は真理を追求する事のみにあり...眞白は彼のそんな純粋さに惹かれていくことになります。設定文だと過去の描写に使える文字数が限られてしまうのであまり上手く表現できなかったのですが...眞白にとってハカセは理想そのものであり、それほど大きな存在だったのです。まあ結局ハカセすらも奪われちゃうんですけどね、あはは。 ──キャラクター・デザインの意図 以降、キャラクターデザインの意図について紹介していきます。多いので箇条書きで書きます。 1.全体的に透明が多く用いられている これは流体、特に空気が無色透明である事を表現しています。例えば袖を取り囲むように存在している透明なフリルは、彼の動きを阻害する空気抵抗に対応します。 2.ベレー帽の顔みたいなやつ こちらはナヴィエ・ストークス方程式の移流項になっております。uと∇(ナブラと読みます)の内積です。数式なのに絵文字みたいでかわいいですね。 3.しっぽについてる謎の金属のアクセサリ これはベクトル量τ(タウ)の勾配を意味する∇τのことです。これも表記によってはナヴィエ・ストークス方程式に登場します。乱暴な表現ですが、粘性による変形・流動のエネルギー散逸と言える...と思います。すみません、この辺は専門外なもので...。 4.前髪の編み込み これは流体の軌道が乱れることなくまっすぐに流れていく現象"層流"を表現しています。彼にとってはそんな"層流"のような社会こそが理想的な社会なのでしょう。 5.ベレー帽の位置 このベレー帽、耳を隠しちゃってますよね...?実はこれは彼が能力を使って耳を閉ざしている事を暗示しています。ちょっと無理があるかもしれないですけど...。 6.リボンについてるピン状のアクセサリー 周回積分の記号です。そのまんま。 7.お腹のギザギザしてる矩形波みたいな飾り これは彼の白黒はっきり付けたがる性格を表現しています。歯車みたいでいかにも理系っぽいですよね。 8.胸元のペン、全体的に白い服 申し訳程度の研究者の助手要素です。服が白いのは白衣みたいなイメージですけど、こんなふりふりの服で研究室に入ったら多分怒られちゃいますね。このペン、ハカセとの思い出の品だったらいいなぁなんて思います。 9.しっぽに乗っている布の切れ込み これは中学時代における人間関係の断絶を暗示しています。透明の布は空気、つまり周囲の環境...周りの人間のことを示しており、その布がところどころ破けているのは周りの人に受け入れられなかったこと、そしてそのトラウマを表現している感じです。 10.白い鎖 これは眞白が感じている閉塞感、息苦しさの象徴です。正直に言うと、なんとなく付けたのであまり深い意味はないです...。 11.スカートのma=F 皆様ご存知、運動方程式。これは"解ける"方程式の一種であり...前髪と同様(彼にとって)理想的な社会のメタファーです。 ──キャラクターの立ち位置について 個人的にこのキャラクターは味方側でも敵側でも構わないと思います。やっぱり私は後味の悪い作品が好きなので「このキャラクターは絶対に善人!」とか「こいつは害悪!」みたいなキャラクターだけじゃなくて「この子、主人公と対立しちゃったけどもしかしたら救えたんじゃ?」ってなるようなキャラクターも増えて欲しいな〜って思ってるんですよね、多様性! ですので、もしこのキャラクターを使うことがあれば色々とご自由にしていただければ幸いです。それがあなたにとっての"正解"です。 ──イメソンについて 実はイメソンはまだ未定なんですよね...なかなか良い曲が思い浮かばないです。ちなみに、今は螺旋周回軌道が第一候補に上がってきています。 「孤独の海」 「時に惑い、藍は僕を試す」 「彷徨う度、痛みに追い込まれて」 「呼吸の螺旋」 「君の周回軌道上にどれだけ手を伸ばそうとも、木霊して消える声のように独り宙を舞う」 「事実以外馬鹿げた空想だと思い知らされて」 「遡及の可変」 「罅割れる」 「矛盾した宇宙論」 「君の周回軌道はどれだけのものを拒んで、呼応して嘆く声のように独りきりでいる?」 「躊躇うことはなく立ち止まることもない」 ...と、ぽい歌詞が多いんですよね。絶賛迷い中です。 ──おわりに ここまで読んでいただきありがとうございました...! 一旦語るべきところは大体語れたかと思います、たぶんね。まあまたどこかで会いましょう。