フェリックス「じゃ、僕らは先に行ってるよ。 湊くん、またね」 湊「またな〜」 フェリックスは丁寧に一礼すると、 廊下の奥へと歩いていった。 その後ろをロベルト、クララ、ファニーたちが続く。 そしてすぐに彼らの会話が遠ざかりながら聞こえてきた。 フェリックス「ローベルト、今日はどのくらいの人数か予想してみるかい?」 ロベルト「え、急だね?そうだなぁ…この時間帯なら10人以上は普通にいそうだけれど」 湊「おい待て今なんか聞こえたぞ?!?!!」 湊くんが大きな声で叫んだ。 だが彼らは振り返らない。 聞こえなかったのか、聞こえていて流したのか。 どちらにせよ足は止まらなかった。 そんな彼らに、湊くんは「え?」と唖然としていた。 恐らく処理落ち、というものだろうか。 リスト「……彼らはまあ…そういうときもあるから、 あまり気にしないで良いよ。 …フレデリックは戻ってきなさい」 湊「え?…あ」 フェリックス達が歩いていった方と真反対に、 背中を向けているフレデリックの姿があった。 先程まで僕の後ろにいたというのに…、 全くいつから抜け出そうとしたのか。 フレデリックは耳をピクリとさせ、 ゆっくりと振り返った。 ショパン「……ダメ?」 リスト「ダメ」 ああ、彼の目つきが鋭くなった。 無言の圧がすごい。 一方で湊くんが「え?」と俺を見つめる。 そうだな、君は少し頭を休めようか。 しばらくするとフレデリックは重いため息をつき、 気怠そうに踵を返してこちらに戻ってきた。 …部屋に案内をするだけだというのに、どうしてこうも時間がかかってしまうのだろうか。 ーーーーーーーーーーーーーーーー------- やっとだ。やっと目的の部屋に辿り着けた。 体感3時間は費やした気がするよ、全く。 湊くんは部屋の扉を見ると、深呼吸をした。 そのまま両手で頭を思いっきり叩いた。 パンッと良い音がなった。 湊「っしゃあ!!現実!!!」 リスト「空想の世界だったら俺達は一体なんなんだ?」 湊「俺のイマジナリーフレンド」 リスト「それは大変だ」 なるほど、夢の世界かどうか確かめていたのか。 …え? ショパン「リスト、僕は先に部屋に入っているよ。 読みかけの本があったのを思い出したんだ。 …………湊くんは、その………。 ……楽しんでいって、くださいね…」 語尾がどんどん小さくなっているよフレデリック。 了解、と応えるとフレデリックは 急ぐように扉を開けて部屋の中に入った。 湊「…俺嫌われてる?」 リスト「そんなことは無いよ、緊張してるんだ。 少しずつ慣れてくれると思うから気にしないで」 湊「そっかー」 …さて、ここからが問題だ。 部屋の中に入るのは良いが、 正直に言うと変人が多い。 音楽家はそもそも変人が多いらしい…? 湊くんもまあ…癖が強いが、 できれば付き合いやすいヒトから 馴れ合った方が良いのでは?とね。 本人の気持ちを1番に優先する他ないが… そのとき改めて考え直そう。 リスト「ここは少し個性が強い人達がいるけれど 湊くんはどうす……、ってあれ?湊くん?」 いない。 後ろも前も横もいない。 目の前には半開きの扉。 …嫌な予感がする。 ----------------------- 部屋に入った瞬間、思わず額を押さえた。遅かった。 部屋の隅、一脚の椅子に腰掛けている 人物の前へ歩いていく湊くんの姿。 そこに座っていたのは、 黒猫のエリック・サティだった。 机の上には整然と並んだ紙束と、 封筒がいくつも置かれている。 湊くんが近づいても彼はすぐには顔を上げなかった。 数秒の沈黙の後、ふっと視線だけを向ける。 サティ「君は……湊、と言ったね」 湊「えっ、あ、うん!そう!俺の名前!」 サティ「…そうか。 …名前というものは実に面白い。 呼ばれるためにあるはずなのに、 中には呼ばれない名もあるのだから」 湊くんは少し戸惑いながらも頷いた。 彼の話を真面目に聞こうとする人は 中々いなかったから、面白い。 サティ「…突然ですまないが…、 君は物をどこかに置き忘れたことはないだろうか」 湊「あるある」 サティ「…私もだ。たとえば…傘、とかね。 生前のようについ最近、傘を置き忘れてしまったんだ」 彼は机の上のペンを一本、 きちんと角度を揃えて置き直した。 サティ「そのとき私は考えた。 『傘が私を無くしてしまい、 悲しんでいるのではないか』…と」 湊「え?傘が?」 サティ「ああ…。 置き忘れた、というのは人間の視点だ。 だが傘の側から見れば、 持ち主を見失った、と言えるものかもしれない」 湊「持ち主を…なるほど?分からん」 サティ「全ての話を理解しなくても良い。 ただ、今の話をどう受け止めるかは君次第さ」 次の瞬間に湊くんは真剣に考えた。 その様子が面白くて、 可笑しくて、そして少しだけかわいらしいと思った。 変人度で言えば… サティはこの館にいる作曲家達の中でも 群を抜いている。 同じスーツ、同じ色の食べ物… 奇行を挙げたらキリがない。 そんな彼に一直線に向かった湊くんは 何か惹かれるものがあったのかもしれない。 湊「なあリスト、俺この場所で国語とか哲学受けるとは思わなかったんだけど」 リスト「そうだな。でも、彼…中々興味深いことを言うだろう?暇なときに会いに行くのも良いかもね」 サティ「湊や君の暇潰しのために 存在しているのではないよ、私は」 それもそうだな。 それにしても彼が話に割り込むのは珍しい。 真剣に話を聞く相手が現れて喜んでいるのか。 リスト「分かっているよ、すまない。 …そうだサティ、湊くんに誰を紹介させたら良いと思う?」 サティ「カラスとゾウ、サル。…あとはワニ」 リスト「直接名前で言えば良いのに」 サティ「あぁ、ついでだがワニは今ここにはいない」 無視をした挙句、サイコロを転がし始めた。 一応僕先輩なんだけれどな…舐められている気がする。 湊「えーーっと、つまり誰と誰と誰と誰よ」 リスト「そんな誰を連発することある? カラスはオッフェンバック、 ゾウはドヴォルザーク、 猿はチャイコフスキーで ワニはドビュッシーだと思うよ。 ドビュッシーはいつもなら この時間にこの部屋にいると思ったんだけれど …どこに行ってるんだ?」 湊「ワニか…爬虫類で変温動物だから… この部屋が暑すぎて退散したとか!」 リスト「どこに行っても同じだと思うよ、この時期は」 湊「あれ〜?…てかさっきの名前!全員知ってる!! …よし!一旦オッフェンなんとかに話しかけるか!」 リスト「今どれも知ってるといったんじゃないのか」 湊くんは駆け足で本棚の近くにいる オッフェンバックに話しかけにいった。 オッフェンバックは天国と地獄を作曲した作曲家で、 湊くんの時代でも有名と聞く。 湊「うお?!!配色かっけぇ!!!」 オフェ「え?…ああ、この羽毛のことかい?」 …配色だけであんなにも盛り上がれるのなら、 湊くんはハイドンさんにもまた喜びそうだ。 今度は麻雀をやっているドヴォルザークとチャイコフスキーに話しかけに行った。 今更だけれど湊くんは行動力の塊みたいだ。 …ドヴォルザークは確かに、 湊くんと付き合いやすいかもしれない。 温厚な人柄で、社交的。 それに鉄道が大好きだから、 もし湊くんがそれに興味を示せたらそれなりに良い関係を結ぶことが出来るはずだ。 一方のチャイコフスキーは繊細で内向的だ。 ワオキツネザルとなった 今でも不安を抱え込みやすいのはそのまま。 湊くんと仲良くなるには少しだけ難しいかもしれないが…まあ見届けるとしよう。 しばらくして、湊くんが上機嫌で戻ってきた。 足取りが軽い。どうやら大満足らしい。 湊「ただいま!あのさ!! ドヴォルザークと仲良くなれそう!! 正直、鉄道とかあんま興味なかったんだけどさ! 機関車ってさ!確かにかっけぇな〜って思った!」 リスト「自分の趣味に興味を持ってくれるのは、 きっと嬉しいだろうね」 湊「うん!今度また話に行こうかな…… 鉄道のこと、色々知りたくなったし!」 リスト「あぁ、それは良いと思うよ。 ……それにしても、ドビュッシーは一体どこに……」 そのときだった。 廊下から慌ただしい足音。 バタバタと近づいて来たと思った次の瞬間、 勢いよく扉が開く。 ドビ「…ッッッエリック! 僕の部屋に白紙の手紙を大量に送ったのは君だな?!」 サティ「そうだが」 ドビ「そうだがって……」 湊くんはぽかんと口を開けたまま、 二人を交互に見つめている。 ……最後の一人が見つかったのは良しするが 湊くんにとって、これが初対面とは…。 なんとも言えない出会いだな…。
結局土曜日投稿でクッソワロタ!久しぶりで文がオカシイ なんかヤケクソになってサムネの方の曲にしましたわ 前回: https://scratch.mit.edu/projects/1256143423 次回:まだないよん 【登場人物】 ・湊 ・リスト ・ショパン ・メンデルスゾーン ・シューマン ・ドヴォルザーク ・チャイコフスキー ・オッフェンバック ・サティ ・ドビュッシー 【曲紹介コーナー(ヤケクソ)】 エリック・サティ作曲「ジムノペディ(1番) 音楽界の異端児として知られる エリック・サティの名曲の一つ。 意図的に聞かせるのではなく、その場の空間に溶け込むようなメロディーが特徴である。 サティがパリ音楽院時代に勉強していた教会音楽であるグレゴリオ聖歌の影響が出ているらしい。 BGMの先駆者ともいわれる。 【あとがき】 背景直したい BGM:ジムノペディ(1番)