くあ、と小さな欠伸が広いようで狭い作業場に響いた。 欠伸の主である背丈がやや小さく見える青年、花城テオはここ数日間まともに眠ることができなく寝不足状態だった。 というのも、原因は彼の才能にあった。 花城テオという齢18の青年は生粋の科学好きの機械好きであり、科学の申し子とも言えるほどの才能を持っていた。それに加えまるで七歳児のような純粋さと好奇心や探究心等、実に科学者やエンジニアに向いた人格を持ち合わせていた。しかしまあ、それらの性質が悪い方にドッキングしてしまったのか才能との引き換えと言うべきか、好奇心を満たすためなら小動物から人間の犠牲まで厭わないという残虐性を持ち、…まあ簡単にいってしまえば人でなしだった。 話がそれてしまったが、とにかく彼は素晴らしい才能を持っているわけだ。世間がそれを放っておくはずもなくあっちへいったりこっちへいったり、あれやこれやと色々やることが多すぎてテオは疲れ果てていた。 大好きな機械もいじる気にもなれないしもう冷え切ってしまったコーヒーを飲む気すら起きない。 こうなってしまっているのは用事が多すぎるからという理由もあったが、 原因はもうひとつあった。 「あ゛ー…疲れたぁ…1人でやんのはやっぱ体力的にきついなぁ…」 そう、彼は助手やアシスタントを持っていなかった。前に何度か雇ったことがあったのだが、大抵が別の研究者だかエンジニアだかから送られてきたスパイだったり、テオの倫理観の欠如した性格に耐えられなくなって辞めていった。そのため彼はいつも1人で機械を作ったり研究をしたりしていたので今回でそれに限界が来てしまったのだ。 「どっかにいないかなぁ…スパイじゃなくて僕の言う事キチンと聞いてくれる奴…いないよなぁ…」 目の下に濃い隈を携えて机に突っ伏している彼は、まるでその辺にいるような試験に悩む学生に見えた。 「(ああ、そうだ。確かこの間借りた図書館の本、そろそろ返却日なんだっけ。返しに行かなきゃ…寝たいのになぁ…)」 重い腰をあげて、彼は自分の部屋においてある数冊の本を取りにいった。 「これこれ…」 手提げに本を入れようとする。そのとき、フィルム越しに本の表紙が目に入った。 「(『生命の誕生と仕組み』…)」 「…!これだ、これだぁ!ああ、僕ってばなんて馬鹿なんだ!そうだよ、機械は融通が利かないなら生物で!都合のいい生物がいないなら自分で造ればいいんだ!!!僕ならできるもの!今すぐにでも取り掛かろう!」 テオは宝物を見つけた幼児のようにはしゃぎまわっていた。…人工的に生命を作るのは犯罪だ。バレたらただじゃ済まない。いつもの彼ならそんな判断は絶対にしないだろう。ただ、今は…数日の徹夜とその間取り続けたカフェインのせいで最高にハイってやつになっており、ストレスで頭がポンになっていたのだ。 ________________________ 「あ゛〜…」 あれから数週間後。 何回か疲労と睡眠不足でぶっ倒れながら彼は研究を進めていた。何回も何回も失敗を繰り返し、現在実験体は八号目まできていた。 「う〜ん…難しいなぁ…無脊椎動物は論外。魚類や両生類その他諸々もだめだからとりあえず鳥フォルムにしてみたけど…よく考えたら羽ばたくから翼じゃまなんだよなぁ…飛ばない部類のやつは移動速度に難あり…没だねこりゃ。だめだめ。」 おっと、九号目になったようだ。彼が過労死するのとカフェイン中毒で死ぬのはどっちが先だろうか。 「あーあぁ。次どーしよっかな。…気分転換で日光でも浴びてこようか。」 そう言って彼は少しだけ散歩をすることにした。このあたりは治安は悪いがその分実験台が手に入りやすいので、テオはこの家を気に入っていた。しかし外の治安が悪いのは確かなので自衛ができないといけないが、彼は戦闘には多少の心得があるのでそこを心配する必要はなかった。空を見上げるとどこかの工場の煙と鳥と、真っ青な空とそれによく映えるギラギラと輝く太陽が見える。その眩しさに少しだけ目を細めて、彼は歩いていた。 「いてっ、」 そうやって上ばかり向いて歩いていたからだろう。彼はなにかに躓いてしまった。いったい何に躓いたのだろうと起き上がって後ろを振り返ってみるとそこには血まみれの男がいた。 しかしテオは動じることなくしばらく男を観察した。 最初は喧嘩でもして気を失っているのかと思ったが、違った。右腕はなくなり、顔の片側は原型をとどめていない。男は死んでいるのだ。喧嘩か、通り魔にでも襲われたのか、それともマフィアに借金でもしたのか。理由は知ったこっちゃないが自分が犯人と疑われるのだけは勘弁だ。こいつは殺していないのだから。そう思ったテオは足早に立ち去ろうとした。 が、そこで1つの考えが彼の頭によぎった。確かまだ人間は造っていない。候補には上がってはいたがその中でも人間は大きく思考も複雑で、例え自分でも1から造るとなるとそれこそ数年は確実にかかるだろう。しかしベースの体が既にあるというなら話は別だ。 「(見た感じ、目の前の死体は損傷こそ激しいが内蔵に傷はついていない。死因は失血死といったところかな。)」 この考えには自分でも少し驚いたが、悪くない。むしろ結構いい考えなんじゃないのか。そう一瞬思考を巡らせてから死体の場所に戻り、彼はにっこりと笑顔を浮かべていた。 ________________________ また数日後。 彼の作業場の床に、誰かが倒れている。 藍色の髪に、歯車と桜の枝がついたゴーグル。それはテオだった。 「スヤ…」 彼は眠気に勝てなかったようだ。とても穏やかに寝息を立てている。 「スヤ…ゥ…ゥ゙ン…」 おや、起きてしまったようだ。目をこすりながら彼が体を起こした。 「…床で寝てたんだ…体いた〜い…てか僕確か作業中で、それで… …!」 一瞬で彼の顔が歓喜に満ちた表情に変わった。 「やっと、できた…!やった!やった!」 ここに薬品や機械がおいていなければ彼は飛び跳ねていただろう。それほど彼は喜びと達成感に満ちていた。 ________________________ 「〜♪」 陽気な鼻歌が響き渡る。あちこち小走りでうろうろとして、どうやらなにかの準備をしているようだった。 彼がカチャカチャと音を立ている横には椅子があった。 その椅子には目を閉じた男が座っている。道端で冷たくなっていたあの男だ。でも、男の容姿は道に落ちていたときとは少し異なっていた。 グチャグチャになっていた片側の顔は一部変色しているが綺麗に元通りの形になっている。 右腕がなくなっていたところにはゴツい機械の腕がついていた。 「これまた失敗だったら心折れるなぁ…よし、あとはこれで…」 なにかの準備が終わったようだ。テオは身長な手つきでフラスコに入ったなにやら怪しげな緑色の液体を持ってきた。そして男の口を開いてゆっくりと液体を飲ませた。 ________________________ 「あっ」 バサバサバサッ 静かな図書館に似合わない騒がしい音が鳴る。 音の鳴った方向には床に落ちたたくさんの本とテオがいた。ここ最近は夜ふかしが増えていたので注意力が散漫していたのだろう。 図書館司書に見つかる前に片付けなければ、といそいで本を拾いあげる。最後の本を拾い、ため息をついた。 ふと、本の表紙を見る。 「『生命の誕生と仕組み』…」 それはあの時に彼が借りていた本だった。 彼は椅子に座り、懐かしむように本を開いた。 「(生命ねぇ…ほんとあの時は我ながらクレイジーな発想だったなぁ。)」 そのまま本を読み進めていると、彼は自分の背後に誰かの気配を感じた。 「…さっきからなんともいえない表情で読書をされていますが、どうかされたのですか?」 「…あー、キューか。ちょっと気になる本があったからちょっと見てたの。」 「『生命の誕生と仕組み』…これ小学生向けの本じゃないですか?…意外ですね。」 「そうー?…でもさ、これなかったら多分君生まれてなかったよ。」 「なんでそうなるんde「まあまあ、そんなのどうだっていいからさ!これ元のとこに戻すの手伝って〜」…はい、わかりましたマスター。」 人間もどきと人でなしは、今日も呼吸を続けている。
登場キャラクター 花城テオ https://scratch.mit.edu/projects/1228159921 九号(男、キュー) https://scratch.mit.edu/projects/1276508101 あとがき テスト期間中に私は何をやっているんでしょうか。 気づいたら手がパソコンに向かっていました。 でも好きなんですよねコンビ系のキャラ… 書くの楽しかったです