【前回:https://scratch.mit.edu/projects/1275955620】 ――魔王について、なにか知っていることはありますか? 「いきなりどうしたんだい? ――へえ、王立学院の課題? 魔王について調べるなんて、随分と変わった課題を出すんだね。 ――本当は歴史を変えた人物を調べる課題? その課題で魔王を調べるのかい? 勇者様じゃなくて? ……あんた、随分と変わってるんだねえ。 私もそんなに知らないけれど、こんな老婆に話の種をよこしてくれたんだ。せっかくだから私が知ってることを話してやるよ」 ――ありがとうございます。 「礼なんかいいよ。 ――そうだな、お前さん、『童話』は聞いたことがあるかい?」 ――『童話』……? どの童話ですか? 「先代国王様の勇者時代の逸話が元になったあの『童話』だよ。 ――なに? 聞いたことがない? 本当かい? ――ああ、すまんかったね。まさかあんたくらいの年の子が知らんなんて、思わんかったもんでね。 そうか、知らんのか……。 ――なら、聞かせてやるよ。『勇者を騙った魔王を打ち取るまで』の勇者様の逸話を元にした『童話』を」 むかしむかし、王国に勇者の少女がいました。 少女は強く、多くの魔物を倒し、ついに魔王までも打ち倒しました。 少女は魔王を倒した勇者として崇められました。 ですが、少女は魔王を打ち倒した後、魔物たちにこう言ったのです。 『王国を、変わらず侵略し続けろ』 そうして、少女は勇者のふりをしながら、魔物達に侵略の指示を出し続け、王国は長く戦火に包まれました。 そんな中、少女の悪行に気づいたのは一人の少年でした。 少年は少女と戦い、そして少女を討ち倒しました。 こうして、『勇者』を騙った魔王を打ち倒し、真の『勇者』の少年はその功績を称えられ、国王となりました。 王国には真の平和が訪れたのです。 めでたし、めでたし。 「――とまあ、こんな話さ。 ――おや? どうしたんだい、黙り込んで」 ――いえ、少し、気になることがあって……。 「気になること? ……なんだい?」 ――魔王の少女はなぜ、『王国を変わらず侵略しろ』なんて命令したのか、わからなくて。 「そんなの、私にゃあわからんよ。 それは魔王にしか、わからないものだろうね。 ――ただ、そうだね。これは私の死んだ姉が、魔王が魔王になる前――もう何十年も前に本人から聞いた話らしいんだが……」 魔王はかつて ――自分の生まれ育った村を、魔物に襲われてなくしたらしい。 *** 村が、燃えている。 木が焼けるにおいと、灰のにおいと、――血のにおい。 腕から力が抜けて、ボクは行商人からお礼に、ともらったオレンジを地面に落とした。 ボトッと、落ちたオレンジはゆっくりと転がっていって、血溜まりで止まる。 鮮やかなオレンジは血の色に赤く染まった。 涙で、視界が歪む。 喉の奥が引きつって、そして、獣のような叫びが突いて出た。 ボクの目の前には、母の、血に赤く染まった骸が転がっていた。 *** 「じゃあ、行ってくるね!」 そう言ってボクは心配そうな顔をした母に笑いかけた。 母はボクと同じアメジストの瞳を不安で揺らしていた。 「本当に、一人だけで大丈夫? ――シオン」 やっぱり一緒に行きましょうか? そう言って眉を下げた母に、ボクは慌てて口を開く。 「大丈夫だよ! 一人だけっていっても、行商人の人達だっているし、隣の村までだし。 ほぼ荷物持ちみたいなものだから、すぐに戻るよ」 そう言うと母は、ならいいけど……とボクの頭を優しく撫でた。 「魔物に会ったら、すぐに逃げるのよ。 ――あなたが強いのは知っているけれど、それでもあなたに無事でいてほしい」 「大丈夫だよ。だって、ボクはこの村の勇者。 ――主人公だもの!」 ボクは、勇者のような『主人公』になるために、鍛錬してきたのだ。だから、大丈夫。 そんな意味を込めて私は声高らかに言った。 そんなボクを、母は抱きしめる。 「ええ。知っているわ。 私の可愛い娘。私の小さな勇者様」 *** 無事に帰ってきてね、そう言って笑ってくれた優しい母は家の中で大量の血を流して倒れていた。 優しく私を抱きしめてくれた母の体は、とうに冷たくなっていて、ボクと同じあの美しいアメジストの瞳は虚ろだった。 力の抜けた、母の体を抱き寄せる。 ボクの手が、血で濡れる。震える。 母の骸をベッドに寝かせて、ボクは外へ出た。 生き残った人がいないか、確かめるために。 ひとりひとり、脈と顔を確認しながら歩く。 ボクの髪を染めてくれた、お姉さん。 ――彼女の自慢だった亜麻色の髪は血に染まっていた。 いつもボクにクッキーを焼いてくれたおばあさん。 ――いつもの甘い香りではなく、血の匂いを纏っていた。 ボクに剣の扱い方を教えてくれたおっちゃん。 ――彼の剣は、砕かれていた。 そして、 「ミキ、アイク、ライム……」 ――いつか、一緒に冒険者になってパーティーを組もう。 そう言って笑いあった、友達。 アイクとライムはミキを庇ったのだろう。二人とも、ミキを背にかばう形で倒れていた。 みんな、赤い血に染まって死んでいた。 ――死んでいた。 ボクは、剣を握った。 ボク自身を焼き尽くすほどの、強い怒りを抱きながら。 飛びかかってきた、狼の姿をした魔物の核を突き刺す。 ぴくりとも動かなくなった魔物から剣を引き抜いて、別の魔物を切り刻む。 頬についた、魔物の血が鬱陶しかった。 それでも、魔物を殺した。なるべく苦しむように切り刻む。 村にいた魔物が全部死んでも、ボクは魔物を切りつけ続けた。 怒りが、収まらなかった。 近くの村からやって来た自警団の人たちがボクを止めるまで、ボクは魔物を切りつけ続けた。 *** みんなの墓の前にボクはうずくまる。 風が、涙で濡れた頬を撫でる。 ここから、離れたくなかった。 みんなの遺体を埋めただけの墓。 隣の村の人たちが、埋葬を手伝ってくれて作った墓。 みんなが、埋まっている墓。 なんで、みんなは死んだんだ。 なんで、みんなをボクは助けられなかったんだ。ボクは主人公じゃなかったのか。 ボクは、主人公じゃ―― 『主人公には、困難がつきものなんだね』 それは、幼い頃に母が寝物語に聞かせてくれた勇者の話を聞いたとき、ボクが言った言葉。 「――ボクが、主人公だから?」 ボクが、主人公だから。 これは、神様がボクに与えた試練? ―― なら、ボクは立ち上がらなければいけない。 主人公は、どんな困難にぶつかっても立ち上がる。 それなら、ボクは『主人公』だから、ボクも立ち上がらなければ。 「――ボクは、主人公……」 これは『主人公』のボクに与えられた試練。 そうでなければ、みんなの死んだ意味がわからない。 *** ――『ボクは、主人公じゃないといけないんだ!!』 【次回:未定】