ありさがユウと付き合って1ヶ月が経った頃。 この日、事件は起きました。 ---------------------------- 「よーし!!今日も一日頑張るぞ!!」 笑顔でそう言ったのは、伊藤ありさ。私立『天蘭学園』に通う、女子生徒の一人。 彼女の笑顔は素晴らしく眩しい。可愛い。可愛い。 「よおありさ、おはよ!!」 数人の女子の視線を浴びながら歩いてきたのは、城崎ユウ。この学園のほぼ全ての女子のハートを奪った、罪深き男である。 「ユウくん、おはよう!!今日はいい天気だねぇ」 「そうだなぁ。今日一日頑張れそうだぜ!!」 「ほんとにそうだよね!!……あ、ユウくん。昨日出された数学の課題、ちゃんとやってきたの?」 「……あっ…((」 「も~、ちゃんとやってこなきゃダメだよ?分からないところは私がきっちり教えるから、一緒にやろう?」 「そうだな…ありがと、ありさ」 そう言いながら、ユウは苦笑した。そして二人で教室に向かおうとした時。 __キキッ 校門の目の前に、大きな黒い高級車が止まっている。 「わぁ、綺麗な車…」 「何だあれ。今まであんな高級そうな車、校門前に止まってなかったよな?」 「うん、そのはずだけど…なんだろう?転校生かな?」 「そうじゃねぇか?間違っても学校前に車止める人はいねぇだろ」 「まあそうだよね…。って、早く教室に行って課題を終わらせなきゃ!!ほら早く行くよ!!」 「うおわぁぁ!?ちょ、引っ張るな!!((」 ---------------------------- 「…今日からここが、私の学び舎になるのね」 「そうでございます。お嬢様」 「さて、ここで一番にすることは、あの人をゲットすること♪私の魅力にかかれば、一発で仕留められるわ!!」 「お嬢様、ここは学び舎です」 「あら失礼。では、私は行ってくるわ。帰りの迎えもよろしくね」 「かしこまりました。行ってらっしゃいませ、お嬢様」 ---------------------------- 「……で、ここはこうなるの。この公式を当てはめると、簡単に解けるよ」 「…分からん…()」 「う~ん…簡単に説明すると、このxはこっちのカゴに、整数はこっちのカゴに入れる…みたいな感じかな?」 「あっ、それだったら分かりやすいかも…」 「良かった!!じゃあ解いてみよう!!」 『~♪♫』 「あ、チャイム鳴っちゃった…。じゃあ、続きはまた後でね」 「おう、ありがとな!!」 チャイムが鳴ると同時に、先生が入ってきた。 「はい、それじゃあ朝のHR始めるぞ。最初に伝えることは一つ、」 「このクラスに、転校生が来る」 「……へ??」 「うそっ、マジで!?!?」 「どんな子かな!?可愛い子がいいな!!」 「俺女子がいい!!」 「ヤバい、めっちゃ楽しみ!!」 ざわざわ、クラスが騒がしくなる。 「はいはい静かに‼じゃあ、入ってこい」 「はい」 _ざわっ 全員、息を吞んだ。 何せそこに立っていたのは、水色の髪を優雅に揺らし、可愛らしい微笑みを浮かべている女子生徒だったからだ。 「「「かっ……可愛いーー!!!!」」」 男子たちは、一発でメロメロになってしまった。 「それじゃ、自己紹介を」 「はい」 「初めまして、野山あかりと言います。このクラスに馴染めるか不安でしたけれど、皆さんが笑顔で迎えてくれて嬉しいです‼」 そう言って、何とも可愛らしい笑顔を向けてきた。 「か、可愛い…」 「悔しいけど…何であんなに可愛いの…」 女子たちの囁き声も聞こえてくる。 「じゃあ、野山の席は…城崎の隣だ。城崎。仲良くしてやれよ」 「はい、分かりました」 ユウがそう言うと同時に、あかりがユウの隣の席に座る。 「よろしくお願いしますね‼ちなみに、貴方のお名前は何と言うのですか!?」 「俺は城崎ユウ。分からないことがあれば、何でも言えよ?」 「はっ、はい‼よろしくお願いします‼」 こんな可愛いあかりの隣の席になった男子は、緊張でぎこちなくなることだろう。 だがユウは違った。この男には、自分で決めた運命の相手がいるのだから。まあなんと罪な男。 ---------------------------- 転校生あるある。休み時間になると、机の周りにすごい人が集まってくる。 あかりも今、その状態だった。 「どこから来たの?」 「好きな物とかある?」 「仲良くしよう‼」 「この後一緒にランチ行かない!?」 「ちょっと、落ち着いて頂戴」 「そういえばさ、野山っていう名字で思い出したけど、野山家って有名なお金持ち一家でしょ!?」 「ちょ、マジで!?野山さんお金持ちなの!?」 「だったらブランド品とかいっぱい持ってるんじゃない!?」 「まあ、対して安っぽい物は持ってきてるわ。はいこれ」 そう言いながら、あかりは机の上に、まだ綺麗な状態の可愛いシール、まだ未読の状態の少年漫画などを次々に出していった。 「え!?すっげぇ‼これ俺が欲しかったやつだ‼」 「このシール可愛い~‼」 「よかったら、好きなものどれでも貰っていいわよ。どうせいらないし」 「いいの!?じゃあ私これ貰おう‼」 「俺はこれ‼」 そう言いながら、みんなは次々と漫画やシールを手に取っていく。 その途中、ふとあかりが近くの女子に聞いた。 「ねぇ。ユウくんって格好いいわね」 「そうでしょ!?ユウくんはほんとに、もう最高なの‼」 「そうなのね…」 「あ、でもさぁ、ずっと前に恋人できたらしいよ」 「……は?相手は?相手は誰なの!?」 「い、伊藤さんだよ‼ほらあそこにいる…いいよね~、伊藤さん。悔しいけど、お似合いのカップルだよね~」 「……」 あかりは、ありさを見て、歯を食いしばった。 「……ごめんなさい。ちょっと、席を立つわ」 「あれ、どうしたの?って、あかりちゃん!無視しないでよ‼」 ---------------------------- ユウとありさは、教室の窓際で雑談をしていた。 「…ってことがあったんだよ‼すごく面白くて~!」 「ははっ‼確かにそれは面白いな‼」 「…ちょっと、いいかしら?」 「…?あ、あかりちゃん‼どうしたの?」 「どうかしたのか?」 「いえ、ちょっと、伊藤さんとお話をしたくて…ちょっと来てもらえます?」 「い、いいよ。ごめんねユウくん、また後でね」 「おう、分かった」 ---------------------------- 「…で、どうしたの?何か困り事?それとも__」 「__うるさいわね」 「_へっ…?」 「見てて目障りなのよ。貴方とユウくんが親しげにしているところ」 「えっ…な、何かごめんね!?傷つけちゃったみたいで…」 「ふん、どーせそんな対応も偽りなんでしょ?あ~あ、可哀想ねぇ」 「い、偽りなんかじゃ…」 「何?口答えする気?」 「っ……」 「いい?あんたはユウくんと付き合って調子に乗ってるみたいだけれど、今から私が証明してあげるわ。あんたとユウくんは不釣り合いだって」 「え…?」 「話は以上よ。それじゃあね」 「え、ちょ…ど、どういうこと!?」 だが、あかりはありさに目もくれず、教室に戻って行ってしまった。 ---------------------------- 「…え、どういうこと…?私とユウくんは不釣り合い…?」 ありさは、脳の整理が追いつかない状態だった。来たばかりの転校生にあんなことを言われたのだから、仕方ない。 ありさは何となくモヤモヤしながら、教室のドアを開けた。 次の瞬間、ありさは絶句した。 「ね~ユウくぅ~ん♡この後一緒に昼食でも行きましょう?」 「ちょ…離れろよ…」 「ね?行ってくれますよね??」 「全然話聞いてねぇな!!!」 「お願いです…私、一人で食べるのは物悲しくて…。一番に仲良くなったユウくんじゃないとダメなんです!!だから、お願いします!!」 「……お、おう。分かった」 「やったぁ~♡嬉しいです‼」 「(…ちょっと待って。どういうこと?二人共近い…距離が近いよ…)」 頭がパンクしそうになるのを必死で抑え、ありさは冷静になろうとした。 「……やだ…」 いつの間にか、とてつもなく小さな声でそう発していた。 「ねえ、あの二人距離近くない?」 「確かに…城崎さんて伊藤さんと付き合ってなかった?」 「まあそうだけど……でもさぁ、」 「あかりちゃんとユウくんの方がお似合いじゃない?」 「……へ…?」 「…確かに。言われてみたら…」 「何でユウくんは伊藤さんを選んだのかな?」 目の前が真っ暗になる。頭がクラクラする。ありさは、絶望のどん底に突き落とされた感覚に陥った。 「(…やだ…やめて…)」 今はそう思うことしか出来なかった。 ---------------------------- 夕方。帰り道。 ありさは一人だった。足は重く、顔も真っ青だ。 「……何だろう、この気持ち。何を考えてるんだろ…私がユウくんと不釣り合い…どうして…」 そんなはずはないと、考え込んでいた時。 『今から私が証明してあげるわ。あんたとユウくんは不釣り合いだって』 『一番に仲良くなったユウくんじゃないとダメなんです!!』 『あかりちゃんとユウくんの方がお似合いじゃない?』 『何でユウくんは伊藤さんを選んだのかな?』 「……そうじゃん。こんな私より、可愛いあかりちゃんの方がお似合いじゃん…。ははっ…私ってバカみたい。ユウくんと付き合えただけで浮かれちゃって…」 _ぽたっ。 涙が溢れ出る。止まらない。 「……ううっ…ひぐっ…」 小さな声を上げて、涙を流していた時。 「__どうしたのありさお姉ちゃん!?何で泣いてるの!?」 「…へ…?」 顔を上げると、そこには__ 「…ゆうかちゃん…」 佐々木ゆうかが立っていた。 ゆうかはありさの2つ年下の女の子。ありさの家の近所に住んでいて、よく一緒に遊んでいる。 「何でここにいるの?帰り道はこっちじゃないでしょ?」 「いや、学校に忘れ物しちゃって…。戻ってきたらありさお姉ちゃんが泣いてたから…。とりあえず、涙拭いて‼」 そう言ってゆうかは、ポケットからハンカチを取り出した。 「ありがと…」 「…何で泣いてたの?体調でも悪い?それとも学校で何かあった?」 「まあ、そんな感じかな…」 「私、聞けることでよければ相談に乗るよ‼」 「ありがとう。…ちょっとここで言うのは恥ずかしいから、近くの公園で話していい?」 「うん、分かった」 ---------------------------- これが、ありさの事情を聞き終えたゆうかの反応。 「はぁ~~~ん!?!?!何だそりゃ!!他人の大切な人を奪って何が楽しいのさ!!よりによってあのイケメンお兄ちゃん!?ふざけんなァ‼」 「ちょっと落ち着いて‼((あとイケメンお兄ちゃんじゃなくて、ユウお兄ちゃんね」 「あ、ごめんね。ユウお兄ちゃんの話題が出たからつい…。そっか、そのあかりちゃんって人にユウお兄ちゃんを取られそうで、悩んでるんだね」 「うん…ユウくんがあかりちゃんを好きになってしまわないか…」 「そっか…辛かったね。これは私の意見なんだけど、あかりちゃんはユウお兄ちゃんをありさお姉ちゃんから"奪いたい"だけ。奪うためにありさお姉ちゃんを脅して、ユウくんとわざと近い距離になって。…でもさ、仮にそんな酷い方法で付き合ったとしても、本当の"恋人"とは言えない気がする」 「本当の恋人じゃない…?」 「うん。人から奪って無理矢理恋人にさせて、それを本当の恋とか愛とか、言わないと思うんだ」 「……」 「それに、ユウお兄ちゃんはありさお姉ちゃんのありのままを好きになってくれたんでしょ?じゃあ、その"好きになってくれた"っていう気持ちを大事にして、ユウお兄ちゃんに向き合ってみたらいいと思うな」 「……好きになってくれた…」 次の瞬間、ありさの頬が真っ赤になった。 「…ちょっと恥ずかしいかも…。でも、元気出た。ありがとう、ゆうかちゃん‼」 ↓メモクレに続きます
「そりゃぁよかった‼いや~ありさお姉ちゃんはヤキモチ焼くほどユウお兄ちゃんのことを想ってるんだねぇ」 「ちょ、ちょっと‼からかわないでよぉ‼」 「ごめんごめん(笑)じゃあ私はもう帰るから。バイバイ、ありさお姉ちゃん‼」 「うん。また今度ね~‼」 なんだか少し、心が晴れた気がする。 ありさはそう思った。 ---------------------------- 「よし‼ユウくんにちゃんと向き合うんだ。本当の気持ちをちゃんと伝えるんだ‼」 校門前、ありさは心臓の鼓動を抑えながら門をくぐった。今日は本音を伝える。ちゃんと向き合う、と決めて。 「ユウくんを探さなきゃ…早くしないと…」 ありさは、小走りでユウを探した。 「どこにいるんだろ……あっ、いた‼」 この学園のシンボルとも言われる、大きな噴水の前。 そこにはユウと__あかりがいた。 「(やっぱり……)」 朝から距離が近い。異常なほどに近い。 「ユウくん、今日もとてもかっこいいですわ…」 「朝から近い‼離れろ‼」 あかりは、やけに甘々しい声でユウに囁いている。その横で、ユウは顔をしかめて離れようとしている。 「はぁ……そんなにかっこいいと、さぞかし人気者なのでしょうね…」 「いや、人気者ではない」 この男、どこまでも無自覚である。 「私、ユウくんともっと一緒にいたいです。一緒に勉強して、昼食を食べて、一緒に帰って、ずっと二人きりがいいんです‼」 「っ……!?」 ありさのメンタルが音を立てて崩れ落ちていく。あんなに可愛い声で言われては、ユウも変わってしまうのではないだろうか。ありさは漠然と不安を抱いた。 「……いい加減にしろよ」 「「…え?」」 「しつけーんだよ。そりゃ昨日は仕方ない。転校してきたばっかりだもんな。……でも、どうして俺ばかりなんだ。お前、昨日沢山できただろ?友達。だったらそいつらのところに行けよ」 「ちょ…ユウくん、何言って__…」 「言っとくけど、俺あかりみたいな人嫌いなんだわ。昨日クラスメートが話してるの聞いたんだが、お前、裏で酷いことしまくってるらしいな」 「っ……!?ち、違う!何かの間違いですよ!?」 「そんな奴だとは思わなかったわ。……昨日聞こえたんだ。あかりと俺の方がお似合いって。誰かが言ってた。…でも俺は、お前に好意を寄せることはないから。自分で選ぶ。俺が選んだのは、本当に好きなのは、ありさだから」 「…は……」 「いや、二度と話しかけるなとは言わない。ただ、その人を見下す性格、直した方がいいと思うんだ」 「…~~~っ……‼」 あかりは、怒りと悔しさと悲しさで顔を真っ赤にしながら、走り去ってしまった。 ---------------------------- 「……」 ありさは、その場で固まってしまっていた。そして我に返り、顔を真っ赤にした。 そりゃそうだろう。「本当に好きなのは自分」と、しかも好きな人に言われたらこうなるだろう。 「……お~い、ありさ、ちょ、どうした?」 「…ファッ!?ユ、ユウくん!?」 声が裏返る。情けないと、ありさは心からそう思った。 「どうした固まって。何かあったか?」 「えっ…?」 この男、さっきの発言を疑問に思っていない。どこまでも罪な男だ。 「(…そうだ、ちゃんと話さなきゃいけないじゃん‼シャキッとしろ私‼)」 首をぶんぶん横に振る。そして、大きな深呼吸。 「…あのね、ユウくん。私昨日ね、ユウくんにヤキモチ焼いてたみたい」 「はい???」 「あかりちゃんと距離が近くて、ちょっとモヤモヤしちゃって…。…ちょっと、やだった、かも…」 「……」 「あっ!?ご、ごめんね!?ど、独占したいとか、そんなことじゃないの!ただちょっと、……嫉妬、しちゃってたかもな~…って…」 「……」 「(ダメだ引かれたかも!?どうしようなんて説明すればいいの!?)」 「…いや、俺の方こそ、悪かったな」 「…え…??」 「ありさが悩んでたのに、ありさの気持ちに気付いてあげられなくて…」 「いやいやいや!?わ、私こそごめんね!?正直に言えなくて…。…でも、もしユウくんの好きな人があかりちゃんに変わっちゃったら、どうしようって考えちゃって…」 「何言ってんだよ」 「……え?」 「そんな簡単に変わるワケないだろ。俺が好きなのは、ありさだけだから」 「ん゛っ!?!?」 ありさの理性が音を立てて崩れ落ちる。 「だから心配すんな。ほら、いつまでもそんな悲しそうな顔しないで、笑って。ありさの笑顔は素敵なんだから」 「…~~~っ…‼も~~~!!」 ありさはそう言って、いつものような柔らかい笑みを浮かべた。 やっぱり、私はユウくんが好きだ。心からそう思った。 ---------------------------- ここは、ゆうかの家。 __ガチャッ 「ただいま~。あ゛~疲れたァ…」 「お母さんおかえり。お仕事お疲れ様」 「……」 「…どうしたの?」 「あんたさ、ちゃんと頼んでた掃除、やったの?」 「や、やったよ。ちゃんと」 「どこを?」 「ど、どこって…リビングとかキッチンとか部屋とか__…」 「いやいやいや、」 「どこが綺麗なの??」 「え……」 「ほんとにちゃんとやったの?ねぇ、聞いてる?」 「ちゃんとやったつもりだったんだけど…駄目だった…?」 「……チッ…」 「っ……」 「ホントあんたって使えないね」 「……ごめんなさい…」 「クズ」 「ごめんなさい…」 「疫病神」 「ごめんなさい…」 「役立たず!!!!」 「……っ…ごめんなさい…」 __ガチャッ 「ただいま~。あ、お母さん帰ってたんだ。今日は早いねぇ」 「あらりりかおかえり~!!遅かったじゃない!!何かあったの?」 「うん、ごめんね。クラスの話し合いが長引いちゃって…」 「あらそうなの~?…まあいっか」 「それよりお母さん見て!!今日まとめテストで全部100点だったんだ~!!」 「あらまぁ凄いじゃない!!よし、今日はりりかの好きなもの、何でも作ってあげるわ!!何がいい?」 「ハンバーグ!!」 ……。 …どうして。 姉妹なのに、 こんなに違うの…?? -end-