ここは私立東京青凪高校附属中学校。 中高総生徒約300人の小さな学校。 私は颯乃空亜。この学校の中学二年生。 特に変哲のないクラスでそこそこやらせてもらってる。 今日も変哲無かった。午前の授業をこなして、給食を食べて…。 今は5限…給食が血糖値を上げてきて、すごく眠い。 それでもって授業時間を大幅に超えて教師が授業をしている…廊下では隣のクラスの男どもがはしゃいでいる。 「うむ、キリが悪いが今日はここまでだ。そうだ、時間がオーバーた上で申し訳無いが、三日前日本ではじめて黒い穴現実が確認された。他人事だと思わず気を付けろよ。まぁお前ら他の先生からも再三言われてるだろうから大丈夫だろうな。」 【黒い穴現象】 最近世界各地で報告されている怪現象。 手のひらサイズから車が入るサイズまで。 重力の影響を受けず、 空、または地底等にも発生する。 生還者はおらず、電子機器等も破損してしまうため発生原因や内部の状況がわからない。 現在調査中。 「じゃあ灰冥、号令を」 「規ぃ律、礼、ありがとうございました。」 灰冥君の気怠げな号令とへにゃへにゃの礼で授業が終わる。 先生が教室を出ていく隣を縫って、威勢の良い男子2人が廊下に飛び出す。 うるさいなぁ、とも思ったがいつもの事だと飲み込んで机の上の物を片付け始めた。 ーその時だった。 ジェットコースターが降下する時の、内蔵が動くような感触と僅かな浮遊感が全身を襲う。 なんだ? なにが起きている? 「きゃぁぁっ!!」 「うわぁぁっ」 ドサッ 言いようのない永遠のような落ちた体感時間と、感触の無い現実の後味てパニックになる。 「ハァッ、ハァッ…!?」 過呼吸と心拍であばれる胸を抑えて机に顔を突っ伏す。 「落ちた?」 「なにこれ…」 周囲の女子のヒソヒソという声でハッとする。 女子の声を筆頭に教室の話し声はどんどん大きくなる。 「倒壊?」 「地震じゃない?」 「いやなんか真下にスパーンって…」 「ズズズッ…ズズ」 「まぁ大丈夫でしょ」 「怖いよ」 「大丈夫だよ」 畏怖と心配、そして宥める声が一斉に耳に入ってくる。 「おーい皆大丈夫か!」 「俺たちは大丈夫!」 廊下ではしゃいでたであろう男子2人が教室に走って戻ってくる。 「ズズッ…ズズ」 みんなの声に混じって、石膏?石像を引きずるような鈍い音がする。 「とりあえず先生くるまで待ってよーぜ、あ、氷頭ぴーは先生呼んできて。」 「行ってきまーす!」 流石この時の陽キャは逞しい。こういう統率は任せたほうが良いかな。 「ズズ…ズズズッ」 「え?」 先生を呼びに行こうと廊下に出た氷頭が立ち止まっている。 「氷頭ー?大丈夫か?」 藻布が廊下を覗く。こちらからは氷頭と藻布が一直線上に並んでおり何も見えない。 「氷頭ー?」 「…」 返事が無い。まぁ大丈夫だろう。 「あの…颯乃さん。」 隣の席の辰巳が遠慮気味に話しかけて来る。 「颯乃さん、氷頭君の奥にいるあれ、見えますか?私の見間違えじゃ無いのか心配で…」 辰巳の席側に移動する。駆け寄る藻布、その奥に氷頭、さらに奥に白い物体。 「空亜さん、あれって、美術室に置いてある…」 息が詰まる。なんでこんな所にあるんだ。 「ミロのヴィーナス…?」 「氷頭ー!大丈夫か?」 「藻布!ミロのヴィーナスじゃねこれ笑」 「ほんとだ!笑なんでここに?」 「廊下ヲ走っタナァ!!!?」 ヴィーナスの絶叫がこちらまで響く。 辰巳の近くで固まってしまう。 永遠に近い時間だ。 「ャァァァッ!」 「颯乃!辰巳!起きろ!」 灰冥に揺すられ放心状態から再び覚醒する。 「あれ…どうなって…?」 直後強い鉄の匂いが鼻を指す。 ジクジクと鼻腔に焼き付くような嫌な匂いに吐き気を催す。 「氷頭と藻布、駅巣が…」 唇を噛む灰冥、十正気に戻って辺りを見回す。 教室の一番端の掃除ロッカーの前、入り口付近と廊下の奥に計3つの血溜まりと首の無い死体があった。 首の断面の2つの円がいっそ現実味を掻き立てた。背骨と、気道。 「な、なにが起こったらこうなるのよ…?」 隣の辰巳が口元を抑え、えずきながら灰冥に問いかける。 「氷頭が初めに食われたんだ…」 「食われた?」 「ミロが「廊下を走るな」、と。その後頭を食いちぎられた。」 「人間の頭を丸呑みからの丸齧りってこと?ありえない…」 「現実離れしすぎているわ。」 「それに怯えた藻布が教室に走って戻ってきてな、さっき怪物は「廊下を走るな」と言った。藻布君は走ってしまった。」 「それでまた食いちぎりコース?わかったけど掃除用具入れの前のアレは何?」 「なんで貴方そんな冷静なの?」 「教室に入ってきて藻布を食った怪物にびっくりした駅巣がパニックになって教室の後ろに走ったら食われた。計3人、死んだ。」 重い空気が教室を呑む。