地下137メートル 世界が終わった瞬間、地上には光があった。 それは太陽より明るい光だった。 空が白く裂けた。 そして数秒後、都市が消えた。 核戦争だった。 世界中でミサイルが飛び、 都市は火の海になった。 だが、その瞬間―― 地下137メートルの施設では 警報が鳴り響いていた。 「緊急封鎖」 重い鉄の扉が閉じた。 その瞬間、地上との繋がりは完全に断たれた。 そこにいたのは15人だった。 軍人。 科学者。 技術者。 そして一人の高校生。 小豆。 彼は偶然そこにいた。 父親が研究員だったからだ。 最初の数日は、まだ秩序があった。 食料は三年分。 水もある。 発電機も動いている。 「ここなら生き残れる」 誰かが言った。 誰も否定しなかった。 否定したら、心が壊れそうだったから。 一週間後。 地上との通信が完全に途絶えた。 ニュースも、軍も、政府も。 何も返ってこない。 つまり。 地上はもう終わっている可能性が高かった。 空気が重くなった。 誰もそれを口に出さなかった。 一ヶ月後。 最初の自殺が起きた。 研究員の一人だった。 首を吊っていた。 遺書はなかった。 ただ、壁に一言だけ書いてあった。 「外に出たい」 それから空気が変わった。 誰も笑わなくなった。 話す声も小さくなった。 地下の空気は重かった。 息が詰まりそうだった。 小豆はよく夢を見た。 地上の夢だった。 青い空。 風。 木の匂い。 目を覚ますと、コンクリートの天井があった。 灰色の天井。 変わらない天井。 三ヶ月後。 争いが始まった。 理由は小さなことだった。 食料の配分。 「誰かが多く取ってる」 疑いが広がった。 人は恐怖の中では簡単に壊れる。 ある夜。 叫び声が響いた。 小豆が駆けつけると、 男が倒れていた。 胸にナイフが刺さっていた。 犯人は誰も名乗らなかった。 でもみんな分かっていた。 この場所はもう安全じゃない。 人数は減 っていった。 自殺。 事故。 殺し。 一年後、残ったのは五人だった。 小豆。 軍人の男。 医者。 女性研究員。 そして老人の技術者。 誰も信じていなかった。 互いを。 寝る時もドアを閉め、 工具を武器にした。 このシェルターは 小さな牢獄だった。 ある日、老人が言った。 「地上に出よう」 全員が凍りついた。 放射線。 灰。 死の世界。 でも老人は言った。 「ここにいても死ぬ」 沈黙が落ちた。 結局、誰も出なかった。 怖かったから。 地上も。 そして、この地下も。 それからさらに時間が過ぎた。 ある朝。 医者が狂っていた。 笑っていた。 「聞こえる」 誰も何も言っていないのに、 彼は頷いていた。 「外から声がする」 それは幻聴だった。 孤独と閉鎖が人を壊した。 その夜。 医者は発電機を壊そうとした。 止めようとして、 軍人が彼を殴った。 医者は動かなくなった。 残り三人。 女性研究員は毎日泣いていた。 小豆に言った。 「空を忘れそう」 小豆は答えられなかった。 彼も忘れかけていた。 青い空の色を。 ある朝。 彼女はいなくなった。 地下の空調シャフトで見つかった。 首を切っていた。 残り二人。 小豆と軍人。 会話はほとんどなかった。 二人はただ生きていた。 生きる意味もなく。 ただ死ぬのが怖くて。 ある日、軍人が言った。 「外を見よう」 観測用の小さなカメラを動かした。 モニターに映った。 地上。 灰の世界だった。 街は消え、 空は黒く、 木も死んでいた。 何も動いていない。 世界は完全に死んでいた。 軍人は笑った。 壊れた笑いだった。 「終わりだな」 次の瞬間。 拳銃の音がした。 軍人は床に倒れた。 地下に残ったのは 小豆一人だった。 それから何年も経った。 小豆は話していた。 誰もいない部屋で。 「今日は寒い」 沈黙。 「みんな元気?」 沈黙。 ある日。 小豆はモニターを見た。 地上は変わらない。 灰の世界。 死んだ世界。 小豆は笑った。 涙を流しながら。 「人類って」 「何やったんだろうな」 数日後。 地下137メートルの施設で 一人の人間が死んだ。 それが 人類最後の記録になった。 地上では 風が吹いている。 灰が舞っている。 地球はまだ回っている。 ただ。 人間だけが いなくなった。
生き残りはまだいる。それが誰なのか、どこにいるのかは知る由もない。灯が消えたのだから。 next:https://scratch.mit.edu/projects/1298830779/