Ⅰ 小豆、元空軍少将。タックネームは「Raptor」。五機の敵機を撃墜した戦争英雄であり、天才的な戦術眼と精密な操縦技術で知られた。しかし、戦争終結後、彼の座は無慈悲な論理と計算能力を持つAIに奪われた。 AIは完璧だった。戦闘指令は常に最適化され、部隊の損失は最小限に抑えられる。人間の感情や直感は「非効率」として排除され、小豆の存在意義は過去の栄光としてしか残らなかった。 彼は都市の廃墟に隠れるように暮らしていた。戦争で失ったものはあまりに大きく、戦闘で感じた昂ぶりの記憶は今や灰色の空の下でしか蘇らなかった。 「生きていても、何の意味もない……」 拳を握り、瓦礫を叩きながら呟く。死にたいと思ったのは、孤独と無力感からだった。英雄としての称号も、異名も、もはや重荷でしかない。 しかし、その日、瓦礫の陰から小さな声がした。 「……ねえ、おじさん。」 振り返ると、少女が立っていた。目は大きく、異国の難民であることを示す薄汚れた服を着ていた。名前は リリ。手には小さな飛行機の模型を抱えていた。 「飛ばせない飛行機を作ったの?」 「うん。でも、どうにか飛ばしたいの。工夫すれば、きっと飛ぶと思うの。」 その純粋な目を見て、小豆は心がざわつくのを感じた。戦争と死しか考えてこなかった自分に、希望という小さな光が差し込んだ瞬間だった。 Ⅱ リリはただの少女ではなかった。廃墟の中で拾った廃材や壊れた機械を組み合わせ、奇抜な装置を作ることを日課にしていた。 ある日、小豆が寝ている間に、屋上に見たこともないような装置が置かれていた。風で揺れる小さな羽のついた車輪のついた箱。 「これ何?」と尋ねると、リリは嬉しそうに答えた。 「風の力で、飛ぶ飛行機を追いかけるんだよ!飛ぶたびに、どのくらい高く、遠くまで飛べるか測れるの。」 小豆は思わず吹き出した。無駄なように見えて、少女は楽しさと好奇心に全力だった。 「他には?」 リリは廃材で作った小さなドローンのようなものを見せた。 「これ、私の手紙を空に届けるの。敵味方関係なく、人に小さな希望を届けるの。」 小豆は驚いた。戦争で奪うことしか知らなかった自分に、物を作り、誰かのために喜びを届けるという発想があるとは思わなかった。 Ⅲ 二人は日々語り合った。 「戦争で死にたいって思ったことあるんだ。」 「どうして?」 「……もう、何も残っていないと思ったから。」 リリは少し考え、模型飛行機を手にして言った。 「でも、飛ばそうとしたら飛ぶかもしれないでしょ? 何だって可能性はあるんだよ。」 小豆は小さく息を吐いた。 「可能性か……」 リリは次々と奇妙な実験を持ちかけた。 廃墟の煙突を使って風の流れを研究し、模型飛行機を飛ばす。 瓦礫の山で「隠れ家迷路」を作り、二人で探索しながら生存の知恵を学ぶ。 古い通信機を修理し、AIの無機質な計算だけでは見えない「人間らしい声」を再び聞かせる。 小豆は戸惑いながらも、少しずつ楽しさを覚えた。戦術や戦闘とは違う形の戦い――日常を取り戻すための試行錯誤に、心が揺さぶられる。 Ⅳ ある日、リリは小豆の肩に手を置き、真剣な顔で言った。 「おじさん、生きたいって思ったことある?」 小豆は目を閉じた。戦争で死にたいと思った日々、英雄として称えられた日々、AIに追い出された日々……すべての記憶が胸を締め付ける。 「……今、初めて思った。生きたい、って」 リリは笑った。 「ほらね。小さな希望でも、信じれば強くなるの。」 小豆は瓦礫の中で、少しずつ息を取り戻すような感覚を覚えた。戦争やAIの論理に支配される人生ではなく、自分の意思で生きることの喜び。 Ⅴ その瞬間、遠くの地平線に異常な閃光が広がった。核兵器の発射。世界は一瞬で変わる。 小豆はリリの手を握り、強く抱きしめた。 「世界は、もう終わるかもしれない」 「でも、私たちは生きたいって思った。希望は消えないんだよ」 灰色の空に赤い閃光が反射する中、二人は未来の見えない世界で手を取り合った。希望は小さいけれど確かに存在していた。
可能性は時に人を盲目にする next:https://scratch.mit.edu/projects/1287091182/