===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第六話~~~ 「いいか、ZUN。ここからはしっかり私の後ろをついてきな。道から外れると、キノコの胞子で頭がパーになるか、腹を空かせた妖怪の餌食だぜ」 魔理沙は愛用の箒にまたがり、低空を浮遊しながら意気揚々と語った。 順也は、PC-9821が詰まった少し重いリュックを背負い直し、目の前に広がる鬱蒼とした緑の深淵を見上げた。 魔法の森。 そこは、博麗神社の清涼な空気とは正反対の世界だった。 湿度は高く、空気はどこか甘ったるく、そして重い。見上げるほどの巨木が太陽の光を遮り、地上には発光する不気味なキノコや、奇妙な色のシダ植物が所狭しと生い茂っている。 「……すごいな。色が、外の世界の『森』とは根本的に違う」 順也は眼鏡を指で押し上げ、その光景を脳内の「背景レイヤー」に刻み込んでいく。 深い紺色と、毒々しいまでの紫。そこにキノコの放つ燐光が混ざり合い、PC-98の16色同時発色では到底再現しきれないような、濃密なグラデーションを形成していた。 「だろ? ここは魔力が濃すぎて、普通の人間なら数分で気分が悪くなる場所だ。まあ、お前さんはさっきから平気な顔をしてるが……意外とこっち側の素質があるのかもな」 魔理沙がニシシ、と笑う。 確かに順也は、この「毒」を含んだ空気が嫌いではなかった。むしろ、創作の神経を逆なでされるような、心地よい刺激を感じていた。 道なき道を進むうち、順也はふと足元に奇妙な感覚を覚えた。 地面が、生き物のように微かに拍動しているのだ。 「魔理沙さん、あの木……動いてませんか?」 順也が指さしたのは、ねじ曲がった幹を持つ枯れ木のような植物だった。それは魔理沙が通り過ぎる瞬間、意志を持っているかのように枝を伸ばし、彼女の帽子をかすめた。 「おっと! こいつは『歩く木』のなり損ないだ。気にすんな、魔法の森じゃ日常茶飯事だぜ」 魔理沙は慣れた手つきで、箒から小さな光弾を放って木を追い払った。 順也はその一連の動作を逃さず見ていた。 (自律行動するオブジェクト、それに対するプレイヤーの迎撃。そして、背景そのものがギミックとして襲ってくる……) 頭の中のWindows 95上で、新しいプログラムの構想が立ち上がる。 これまでの「固定画面」でのやり取りから、一歩進んだ「スクロール」という概念。 奥から手前へ、あるいは上から下へ。絶え間なく変化する景色の中で、弾幕を避け続けるというゲーム性。 「……魔理沙さん、あなたの家まで、あとどれくらいですか?」 「あそこにヘンテコな屋根が見えるだろ? あそこが私の『霧雨魔法店』だ。……まあ、片付いてないのは勘弁してくれよな」 森の最深部。霧の中から、パッチワークのように増築された奇妙な一軒家が姿を現した。 順也はリュックの中のPC-98が、共鳴するように微かに振動したのを感じた。 ここには、霊夢の神社とは違う、もっと泥臭くて、もっと「研究」と「収集」に満ちた、新しい物語の種が転がっている予感がした。