===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第八話~~~ 「……足の踏み場もないとはこのことですね」 順也が霧雨魔法店の扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは「知識とガラクタの土石流」だった。 床から天井まで積み上げられた魔導書、乾燥した怪しいキノコの束、そして外の世界から流れ着いたのか、錆びついたティーポットや動かない時計。 「へへっ、整理整頓は魔法の習熟に回してるんだよ」 魔理沙は気にする様子もなく、山積みの本を箒でどかして順也のためのスペースを作った。 「呆れた。これじゃ魔法の研究以前に、呼吸するのも一苦労だわ」 アリスは眉をひそめ、持参した人形で自分の周りの埃を叩かせながら、部屋の隅の椅子に腰を下ろした。 順也はそんな二人のやり取りをよそに、空けられたスペースにPC-9821を設置した。 電源を入れると、ピポッという小気味よい電子音と共にWindows 95が立ち上がる。 「ねえ魔理沙、さっきの続きだけど。あなたの魔法は出力に頼りすぎなのよ。もっと魔力の収束率を計算して、効率的に弾幕を展開すべきだわ」 アリスが本を開きながら、厳しい口調で切り出した。 「効率だあ? 魔法は『ドカン』と派手にやってこそだろ。ちまちま人形を動かしたって、最後に残るのは決定的なパワーだぜ」 魔理沙が八卦炉を弄りながら反論する。 「その『ドカン』のせいで、弾幕の密度がスカスカじゃない。そんなの、少し計算ができる相手なら簡単に見切られて終わりよ」 「見切られる前に、避ける隙間もなく焼き尽くせばいいんだよ!」 バチバチと、二人の間に火花のような魔力が散る。 普通の人間なら気圧されて逃げ出すような場面だが、順也の指はキーボードの上で踊っていた。 (……面白い) 順也の脳内では、二人の対立がそのまま**「ゲームバランス」**の議論へと置換されていた。 魔理沙の魔法は、圧倒 的な攻撃力と直進性。プログラムで言えば、巨大な当たり判定を持つレーザーの座標計算だ。 対するアリスの魔法は、複雑な配置と精密な誘導。多数のオブジェクトを同期させ、プレイヤーの逃げ場を計算で潰していくアルゴリズム。 「……魔理沙さんの『パワー』をX軸の拡大率に、アリスさんの『精密さ』を配列変数での管理に……。そこに、FM音源のノイズを混ぜて……」 カタカタカタカタッ……! PC-98の画面の中で、16色のドットが激しく明滅する。 順也は、魔理沙が八卦炉から放つ光の余波を感じながら、新しい曲のベースラインを打ち込んだ。 それは、魔法の森の重苦しさと、二人の少女の激しい意地のぶつかり合いを表現する、スピード感あふれる旋律。 「ちょっと、ZUN! さっきから何をおかしく笑ってるのよ。あんたはどっちが正しいと思う?」 魔理沙が顔を真っ赤にして順也を振り返った。 順也は画面から目を離さず、口角を上げた。 「どっちも正しいですよ。だから面白いんです」 「はあ?」と声を揃える二人に、順也はPC-98の画面を向けた。 そこには、巨大な光の束と、緻密な星型の弾幕が美しく交差する、まだ製作途中の「弾幕ごっこ」のプロトタイプが動いていた。 「一方が『静』で、一方が『動』。この矛盾が組み合わさった時、一番美しい『東方』の形が見える気がします。……お二人さん、もう少しだけ、その喧嘩を続けてもらえますか? 最高のコードが書けそうなんです」 アリスと魔理沙は顔を見合わせ、毒気を抜かれたように同時に溜息をついた。 「……変なやつ」 「全くだぜ。魔法使い二人を『素材』扱いするなんて、外の世界じゃどんな教育受けてきたんだ?」 呆れられながらも、順也のPC-98は止まらない。 魔法の森の夜、Windows 95の光が、幻想郷の新しい歴史を一歩ずつ計算(レンダリング)していった。