===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第十一話~~~ 霧の湖の畔。順也(ZUN)は、紅魔館へと続く道すがら、切り株に腰を下ろしてPC-9821を開いた。 目の前の湖を覆い始めた紅い霧。それは、これまでの「16色」のパレットでは到底描ききれない、深く、粘り気のある複雑な階調を持っていた。 「……これじゃ足りない。あの紅を表現するには、もっと多くの『光』が必要だ」 順也はリュックから、外の世界で密かに入手していた拡張グラフィックボードのドライバディスクを取り出した。そして、OSを「Windows 3.1」ベースの環境から、より洗練された**「Windows 95」**へと完全に移行させる作業(アップグレード)を開始した。 幻想郷の濃密な魔力が、PC-98の回路を加速させる。画面にWindows 95の起動ロゴが表示され、デスクトップが立ち上がった瞬間、世界は一変した。 「256色……。これなら、描ける」 これまで16色で塗り分けられていたドット絵が、滑らかなグラデーションを帯びていく。それは単なるスペック向上ではなく、彼が幻想郷を定義するための「視力」が向上したことを意味していた。 その時、湖の表面がパキパキと音を立てて凍りついた。 「あたいを無視して、何ジロジロ見てんのよ!」 鋭い声と共に、背中に氷の結晶の羽を生やした小さな少女が、湖面を滑るように現れた。 氷の妖精、チルノ。 「……青と白。そして氷の透明感。いいですね、256色環境の最初のテストに最適だ」 順也は驚きもせず、むしろ嬉しそうにキーボードを叩いた。 「なにがテストよ! あたいは幻想郷で最強なんだからね!」 チルノが小さな手を掲げると、周囲の霧が急速に凝縮され、何十、何百という氷の弾丸となって順也に襲いかかった。 だが、順也は避けない。彼の目は、氷の弾丸が描く放物線と、その表面で反射する256色の光彩を、超高速でキャプチャし続けている。 (……RGBの値を……青(B)に寄せて、透明度をシミュレートする演算を追加。弾幕の密度は、さっきの妖精の倍だ。でも、美しい) 「……食らえ! アイシクルフォール!」 「……見えました」 順也の指が「Enter」キーを叩いた瞬間、PC-98の画面の中で、現実のチルノが放った弾幕と全く同じ軌道を描くドットの塊が生成された。 「な、なによ! あたいの魔法が、その箱の中に吸い込まれてる!?」 チルノが目を丸くして、順也の画面を覗き込んだ。そこには、256色で彩られた鮮やかな「氷の弾幕」が、デジタルな世界で舞い踊っていた。 「これは、あなたをモデルにした新しい『ステージ』の断片です。最強のあなたを、最強のままプログラムに刻み込んでおきますよ」 順也の言葉に、チルノは顔を赤くし、腰に手を当てて威張ってみせた。 「ふんっ! 当然よ! あたいをモデルにするなら、世界で一番かっこよくしなさいよね!」 満足したのか、チルノはキラキラと氷の粉を振りまきながら、湖の奥へと消えていった。 順也は再び、対岸の紅い洋館に目を向けた。 湖の畔には、大きな門。そこには、鮮やかな緑色の衣装を纏った一人の門番が、居眠りをしながら立っているのが見えた。 「256色になったこのマシンなら……あの『紅魔館』の真の姿を描き出せるはずだ」 順也のWindows 95が、新しい時代の到来を告げるように、ファンを力強く回した。