===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第十二話~~~ 湖を半周し、ようやく辿り着いた紅魔館の正門。 見上げるほどに巨大な鉄柵の向こうには、手入れの行き届いた庭園と、威圧感を放つ赤い洋館の玄関が見える。 そして、その門の前に立ちはだかるのは、鮮やかな緑色の中国風装束を纏った一人の女性だった。 「……ふわぁ。あ、お客さん? いえ、巡礼の方かしら?」 欠伸を噛み殺しながら、彼女――紅美鈴(ホン・メイリン)が順也を見た。その瞳は穏やかだが、足の運び、重心の置き方を見ただけで、順也の脳内シミュレータが警報を鳴らす。 「(……座標軸が、びくともしない。なんて強固な立ち姿(スプライト)だ)」 「すみません、ここを通らせていただきたいんです。この館の中にある『物語』を、記録したくて」 順也は背負ったPC-9821の重みを感じながら真っ直ぐに伝えた。 「物語? うーん、お嬢様はあまり部外者を入れるのを好まないんですよね。……それに、あなたからは魔法の気配もしない。ただの人間を中に入れて、万が一のことがあったら私の首が飛びかねません」 美鈴は困ったように笑い、ゆっくりと構えを取った。 その瞬間、彼女の周囲に七色の気が渦巻いた。 「もし通りたいなら、私の演武に耐えてみてください。……大丈夫、命までは取りませんから」 美鈴が地面を蹴った。 その動きは、先ほどのチルノのような無邪気な飛翔ではない。重力と慣性を極限まで制御した、肉体という名の精密機械による突進。 「(……速い! でも、Windows 95(これ)なら追える!)」 順也は門前の石畳に膝をつき、即座にPC-98を起動した。 256色モードで描画される開発画面。美鈴の動きに合わせて、画面上のデバッグ用オブジェクトが激しく明滅する。 美鈴の拳が空を切るたび、色鮮やかな「気」の弾幕が扇状に広がった。 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。 かつての16色環境なら、単なる色の塊にしか見えなかったその弾幕が、256色のパレットを得たことで、美しい「彩虹(虹色)」のグラデーションとして画面にレンダリングされていく。 「すごい……! この色の遷移、まさに虹そのものだ!」 順也は興奮で指を震わせながら、美鈴の攻撃パターンをコードに変換していく。 『円を描くように広がる多色弾』。 『物理的な打撃と連動する衝撃波』。 格闘家である彼女の特性を、シューティングゲームの「敵機データ」として再定義していく。 「あら、意外としぶといですね! その妙な箱、私の動きを読んでるの?」 美鈴が驚いたように声を上げる。彼女の放つ極彩色の弾幕は、順也がキーボードを叩くたび、PC-98の画面の中で「攻略可能なパターン」として美しく整理されていった。 「美鈴さん、あなたのその『色』……最高に綺麗です。そのまま、もう一度、一番大きな一撃(スペル)を見せてもらえませんか?」 「……変な人ね。でも、そんなに熱心に頼まれたら、門番として応えないわけにはいかないわ!」 美鈴が深く息を吸い込み、両手に巨大な気の塊を凝縮させた。 館の門が、その圧力でガタガタと震える。 「彩符『彩光乱舞』!」 空気が爆ぜ、256色の光の奔流が順也を飲み込もうと放たれた。 順也は眼鏡の奥の瞳を輝かせ、「Enter」キーを力強く押し切った。