===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第十五話~~~ 「ついてきなさい。お嬢様がお待ちよ」 咲夜は突き刺さったナイフを鮮やかな手つきで回収すると、音もなく翻り、長い螺旋階段を登り始めた。順也は、熱を帯びたPC-9821を抱え直し、その背中を追う。 階段を登るごとに、空気の「赤」が濃くなっていく。それはもはや色の概念を超え、物理的な質量を持って肌にまとわりつくかのようだった。 辿り着いたのは、最上階にある広大なバルコニーだった。 そこには、現実の世界では決して拝めない、禍々しくも美しい「紅い満月」が天に居座っていた。 「……連れてまいりました、レミリアお嬢様」 咲夜が深く頭を下げる。 バルコニーの手すりに腰掛け、巨大な月を背負って座っていたのは、幼い外見に不釣り合いなほどの威厳を纏った少女だった。 紅い悪魔、レミリア・スカーレット。 「ふうん。あなたが、咲夜の『時』の中で動いたという人間?」 彼女が振り向いた瞬間、順也は本能的な恐怖よりも、クリエイターとしての「興奮」で全身が震えるのを感じた。 背後に広がる蝙蝠のような翼、揺れるフリルの質感、そして何より、彼女を中心に渦巻く「運命」の奔流。 「……驚きました。あなたの周りだけ、世界の『描画優先順位(プライオリティ)』が書き換わっているようだ」 順也は吸い寄せられるように、バルコニーの床にPC-98を置いた。 256色モードの液晶画面が、レミリアの瞳と同じ「深紅」を映し出す。 「ほう……。その妙な箱で、私を計るつもり?」 「計るのではなく、定義したいんです。レミリアさん、あなたは『運命』を操ると聞きました。ですが、僕の目には、あなたがこの世界の『メインプログラム』そのものに見える」 順也は、Windows 95上で独自のスクリプトエディタを走らせた。 紅い霧、月光、そしてレミリアという存在。それらを構成する変数を、一つずつコードに置き換えていく。 「運命とは、避けることのできない確定したフラグ……。ですが、もしそのフラグをプレイヤーの手で飛び越えさせることができたら。それは、この世界で一番美しい『遊び』になる」 「面白いことを言うわね」 レミリアがふわりと宙に浮き、順也の鼻先まで顔を寄せた。 「私の前で『運命』を書き換えるとでも言うのかしら?」 「書き換えるのではありません。あなたの美しさを、誰もが攻略したくなるような『絶望的な弾幕』へと翻訳するんです。……吸血鬼(吸血鬼)の王にふさわしい、最高にクールなラスボス曲と共にね」 順也の指が、FM音源のベースラインを叩き出した。 重厚で、貴族的で、それでいて破壊的なビート。 レミリアはくすくすと笑い、大きく両腕を広げた。 「いいわ。あなたのその『箱』に、私の運命が収まりきるかどうか……試してみなさい!」 バルコニーに、紅い月を覆い尽くさんばかりの魔力の弾幕が展開される。 順也のPC-98が、その圧倒的な演算負荷に、悲鳴のようなファン音を上げながらも輝きを増した。