===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第十六話~~~ 「無駄よ。私の前で、未来はすでに『確定したイベント』に過ぎないわ」 レミリアが指先を宙に走らせると、紅い月が共鳴するように激しく明滅した。 放たれた弾幕は、これまでの妖怪たちのものとは次元が違っていた。不規則に飛び散るようでいて、その実、順也の退路をミリ単位で完璧に塞いでいる。 それはもはや「攻撃」ではなく、順也が弾に当たるという結果へと導く**「運命の強制」**だった。 「……なるほど。これが『運命を操る』という処理の正体ですか」 順也はPC-9821のキーボードを叩き、流れるデバッグログを凝視する。 普通なら絶望するような状況だが、彼の眼鏡の奥には、冷徹なまでの観察眼が宿っていた。 「レミリアさん。あなたの運命操作は、プログラムで言えば**『乱数シードの固定』**だ。次に何が起こるか、どの弾がどこに飛ぶか、すべてが事前に計算され、変化を許さない。……でも、それは弱点(バグ)でもあります」 「バグ? 私の能力が?」 「ええ。結末が固定されているなら、そのプロセスを完全に解析(トレース)してしまえば、それは単なる『暗記問題』に変わる」 順也はWindows 95上で、独自の逆アセンブラを起動した。 レミリアが放つ弾幕のアルゴリズム、その「固定された乱数」を逆算し、画面上に「安置(安全な座標)」をリアルタイムでレンダリングしていく。 「運命が『100%当たる』と決まっているなら、僕は『0.00...1%の隙間』を論理でこじ開ける!」 順也はPC-98を抱えたまま、レミリアの弾幕の渦中へと飛び込んだ。 右、左、そして一回転。 まるで目に見えない糸を解くように、彼は「当たるはずの弾」の間をすり抜けていく。 「な……っ!? なぜ私の弾に当たらないのよ!」 レミリアの余裕が消えた。 彼女の能力は、相手の未来を縛るもの。しかし順也は、その縛られた未来(シード)を逆手に取り、確定した軌道の上を「歩く」ことで無効化していたのだ。 「レミリアさん、見てください。これが、あなたが作り出した『運命』の楽譜(スコア)です」 順也はPC-98の画面をレミリアへ向けた。 そこには、彼女の弾幕に合わせて自動生成された、狂おしいほどに美しい旋律が刻まれていた。 ――『亡き王女の為のセプテット』。 重厚なFM音源のベースが唸りを上げ、高鳴るトランペットのメロディが紅い月の夜を支配する。 レミリアの攻撃が激しくなるほど、曲は深みを増し、弾幕の幾何学模様は256色の輝きで画面を埋め尽くしていく。 「あはは……! おかしいわ、あなた! 私の運命を、こんなに騒がしくて、こんなに綺麗な『遊び』に変えてしまうなんて!」 レミリアは翼を大きく広げ、最高潮の魔力を解き放った。 恐怖は消え、そこには純粋なクリエイターと、その被写体(ラスボス)としての魂の共鳴だけがあった。 二人の衝突が、紅魔館のバルコニーに巨大な光の柱を打ち立てる。 それは、Windows 95という名のキャンバスに、幻想郷の新しい神話が「実行(Execute)」された瞬間だった。