水菜譚 兎章:裏-中- |||||||||||||| 互いが弾かれたように走り出す。 あの人────── 水菜さんが取り出したのは刃物。 恐らく脇差かなにかだろう。 龍と呼ばれた男は素手。 一見してみれば不公平だが。 「僕の物真似かよ?」 龍が服の内側に縫い留められた 暗器を水菜さん目掛けて投げる。 「っ!?」 水菜さんは全てを避けた。 だが問題は狙っているのが僕ということ。 |||||||||||||||||| 昔やったことの意趣返しのように 苦無を5つ投げられる。 どれも避けれないような物じゃない。 「っ!?」 だが、後ろには三鷹誠が立っている。 避けた上で、脇差を投げることを余儀なくされた。 苦無に当て、弾道をそらす。 当たりそうな苦無は三つ。 一投で弾き切るのは至難だったが。 誠君は驚きこそしたものの、 特に焦った様子もない。 逆に怖いくらい肝が据わっている。 ワンチャン寝てるかもしんない。 「随分と丸くなったものだな。」 五指に一つずつ苦無をはめた龍。 ありがたいことにお喋りムード。 「2年もあれば人は変わるよ。 あんたも随分小技を磨いたね?」 昔の龍は一芸特化のイメージだ。 体術面においてはお師匠さんと トントンかもしれない。 小賢しさがないので勝てはしないと思うが。 「お前を殺すならなんだってするさ。 小技だろうが何だろうが、殺し合いに 卑怯もクソもあるまい。」 「お口が悪いですわよ王伟さん 僕が勝ったら良い事教えたげるよ。」 「戯言を!」 五指にはめた苦無が明確な殺意を もって、こちらに投げられる。 「もう。すぐ怒るんだから。 たんひはほんひ、だよ?」 投げられた苦無を指で挟み、 残った一本は噛んで止める。 ちょっと舌切ったので早めに 咥えた苦無は地面に捨てる。 念のため再利用できないように折っておく。 一本だけ、拝借。 「あ、一応もう一回言っとくね? 短気は損気。おーけー?」 とりあえず挑発。 「無言で来るのは違うじゃん。」 龍はこちらを無視して攻撃へ。 正面からの攻撃だが小細工無し とは限らないので警戒を──── 「...。これは僕がやらかした。」 視界がグラつく。毒。 ガッツリ苦無を口ん中にいれたので 毒もガッツリ食らっている。 道理で好機と見て飛び込んでくるわけだ。 ||||||||||||||||| 真正面からの拳撃。 左手の肘で受ける。 右ストレートで顔面を狙う。 左に避けられる。 ストレートをそのまま肘打ちに転じさせる。 掠ったが裂傷に終わる。 そのまま胸に拳を打たれた。 「ぐぁっ...!!」 流せたがかなり効いた。骨は逝ってない。 そのまま頭蓋に掌底を打たれた。 その勢いを利用し後ろに下がる。 「亜嶋と違って僕には毒耐性ないんだけど...。」 龍がそのままこちらへ追撃をかけようとする。 「誠君、車の後ろに下がって。」 棒立ちで攻防を見ていた誠にそう指示する。 正直邪魔でしかないので下がってほしかった。 「はいっ...!!」 声には興奮したような印象を受ける。 ドラマみたいでカッコいいのかな? 全速力でこちらへ向かってくる龍は 速度と体重を乗せた一撃をこちらに あびせようとしてくる。 毒で視界はクラクラ、手足の動きも鈍ってる。 ここでこの一撃を防げなければ負け。 真っ向勝負。 「がっ...!!」 やらかした。警戒が足りなかった。 左下からの飛び道具。 苦無が左脇腹を掠める。 そのまま正面からの一撃をまともに... 「舐め...んなぁ!!」 正面からの打撃を右手で受けた。 右手は確実に持っていかれた。 力が上手く入らない。 左手で掌底を腹に捻じ込む。 土壇場だが、新しい事に挑戦するしかない。 今までは机上の空論だったが、 ここで必ず実現しなければならない。 この殺し合い終幕は何時だろう。 ただ一つ分かるのは、早く終わらせなければ こちらが確実にやられる、ということだけだ。 |||||||||||| 「舐め...んなぁ!!」 こちらの全力を乗せた一撃を 右手で受けられてしまった。 一瞬の隙ができてしまう。 相手はその隙で腹に掌底をぶつけようとする。 この状況であちらが出せる打撃の 威力を想定し、回避ではなく この一撃を受け、そのまま攻撃への 以降を決意する。 腹部に掌底が入る。 想定外。威力は想定よりもずっと低い。 このまま攻撃に転じ、命を刈り取ろうと──── 「がっ...はっ...!!」 呼吸ができない。そして吐血してしまう。 攻撃は受けた。 だが受けたのは掌底による打撃のみ。 その他の攻撃など受けていない。 なのに何故。......考えている暇はない。 一旦下がるしかない。 手榴弾の栓を抜き、前に投げる。 決着はいつになるのか。 こちらが勝つには持久戦。 それ以外にない。 ここで確実に水菜抹茶を殺す。 今度こそ、逃がすわけにはいかない。 |||||||||||| 「がっ...はっ....!!」 結果的に掌底は成功した。 相手に呼吸困難、吐血を引き起こさせた。 だが、相手の判断は一瞬。 手榴弾による一時退却をされる。 これ以上こちらの体力を削られるわけにはいかない。 手榴弾を蹴りとばし、こちらも下がる。 「はぁ...。ふぅ...。」 少し呼吸を整えられた。 それがせめてもの救い。 「僕の一撃、効いたでしょ? 腸から肺に威力を通すっていう技だよ。 今までは成功しなかったけどね。」 少しでも呼吸を整えたい。 こちら側の攻撃の種明かしをしてやる。 時間稼ぎだ。こちらも不利になるが。 「でも、君にもかなりダメージいったっしょ? すぐには衝撃がこないけど、 時間がかかればかかるほど、 そっちにも負荷がかかる。 遅効性の毒みたいなもんだよ。」 こっちはなんとか呼吸を整えられたが あちらは肺へのダメージが大きい。 「がっ...。何故...。私の家族を...。 殺したんだ...!!」 息も絶え絶えといった様子で この場にそぐわない問いを投げかけられる。 「殺せって言われたから殺しただけだけど。」 なるべく余力を残せているように 見せた返事をする。 「何故、私ではなく...。家族なんだ...!!」 2年前にお師匠さんからお願いされた 殺害案件。 そこでの依頼をやっただけだ。 なにを言われても僕は知らない。 ただ、あれが僕の心を傷つけたのは確か。 だってあれから今の僕を演じ始めたの だから。 「僕に聞かれてもね。依頼主に聞いてよ。 誰なのか言うつもりないけど。」 「ここで...!!お前を...!!」 あぁ、気持ち悪い。 これは毒とは別の、心に残る異物感。 「なぁ、龍。お前は殺し屋。僕も殺し屋。 条件は一緒なのに、どうしてこんなに 違うんだろうね?」 「な、にを......!!」 「お前は主人公じゃん?で、僕は悪役。 まるで家族を殺された男の復讐劇だ。」 心に残るこれを全部ぶつけてやろう。 「気持ち悪ぃんだよ。お前も!その嫁も! 三鷹裕司も!!」 畳みかけるように言葉を投げかける。 「誰かの為に何かをする?何でだよ。 自分のことだけ考えてろよ...!!」 「お前には...。理解できないだろうな...!!」 「ああ、分かんねぇよ。分かりたくもない。 じゃあ何だ?俺がおかしいのか?なぁ!?」 心の中の思いが全て湧き出てくる。 「あぁ、分かった。自分って何なのか。 俺は自分がよけりゃそれでいい。 他人のことなんて知ったこっちゃない。」 「お前は──────」 「俺は究極の自己中なんだ。 それと、もう一つだ。楽しくない。」 あぁ、口にすれば簡単に気付けた。 何で今まで気づかなかったんだ。 「普通に生きるなんてつまらない。 普通に勉強して、普通の高校に入って、 普通の職について、普通に飯食って、 普通に幸せになって死んでいく。 つまんない。つまんない。つまんない。」 普通が嫌だ。ただの幸せが嫌だ。 「俺は今、最高に楽しいんだよ。龍。 頻繁に人間殺して、好きなもん食って、 好きな事して、好きなように生きて。」 「水菜ぁぁ!!!!!!!!!!!」 自分の言葉を聞いた龍が激高する。 肺に息を取り込むのがやっとだろうに。 「なぁ、お前が主人公なら俺に 教えてくれよ。龍。」 僕に教えてほしい。 人を殺しても何の感慨も沸かない、 何なら今の生活を楽しんでいる自分に。 「俺に、この生き方を選んだのが間違い だった、って。 この生き方が!俺が!全部!間違いって! お前の嫁もガキも!俺が楽しむ為に死んだん じゃないってことを!!!! 証明してみせろよ!お前のその手で! 俺を殺して、俺を後悔させてみろよ!!」 「水菜ぁぁぁ!!!殺す!!!お前は!! お前だけはぁぁぁ!!!」 この戦いの終わりが、自分を決定づける。 僕の選択の全てが間違いだったか、 正解だったか。 この戦いでさえも、自分の糧としよう。 僕が楽しむためだけの。 ||||||||||||||||||||||||||||| 「俺に、この生き方を選んだのが間違い だった、って。 この生き方が!俺が!全部!間違いって! 証明してみせろよ!お前のその手で! 俺を殺して、俺を後悔させてみろよ!!」 この男の言葉の全てが憎い。 この男の選択の全てが間違いだったと、 この手で証明するしかない。 妻を、息子を、娘を殺したことさえも。 全てこの男の生を盛り上げる為だけの、 道具だったと、この男は言っている。 その全てを、否定しなければならない。 認めない。そんなの認めさせない。 「水菜ぁぁぁ!!!殺す!!!お前は!! お前だけはぁぁぁ!!!」 男に目掛けて飛び掛かる。 飛び掛かると同時に懐に隠していた鎖分銅を 男に投げつけ、それへの対処に神経を注がせる。 回避された。鎖を巻き戻し、 分銅と自分で挟み撃ちにする。 右手から鎖を手放し、格闘に切り替える。 ほとんど使い物にならないであろう右腕を 男は盾にした。 それと同時にこちらの打撃も受け流される。 鎌で男の腹部を狙う。 「舐めんなよ!!龍!!」 回避され、肘打ちを左肩に食らわされた。 骨は折れてしまったが問題ない。 腕は動かすことができる。 右手で拳打を食らわせる。 手ごたえはあったが、受け流された。 それがこの男の一番の恐怖。 どんな威力の攻撃も1ダメージに抑えられてしまう。 角度が、速度が、タイミングが、力加減が、 0.00000001mmでも変われば成功しない神業。 それを平然とやってのける。 鎌を持った右腕の肘でこちらも肘打ちを 食らわせる。 「ちっ!!!」 当たったが、やはりダメージが通らない。 足元へ蹴りを食らわせ、男が数cm浮いた。 そこで少し離れ、鎖分銅を投げる。 だが、男はそれすらも受け流した。 そこで生まれた隙に全力の蹴りを食らわせる。 それすらも受け流された。 だが、それこそが真の勝機だ。 男の体が吹き飛び、大きな隙ができる。 「これで...全て終わりだ。」 隙のできた男の首に鎌を突き立てようとする。 あの態勢では流すことができない。 「龍王伟ぃぃ!!!」 真の決着。 龍という男の決意が、水菜抹茶という狂人を 死に至らしめる。 ああ、やっとこれで家族に顔向けができる。 本当の意味で、やっと、終わったのだ。 龍王伟という男の人生も、 水菜抹茶という男の全ても。 龍王伟という男の決意が、 水菜抹茶という男を殺す。 そうして、男の決意は、宿願は──────── 一発の、銃声に破壊された。 続く。 matya_machaの一言 ドウモ!!マッチャデス!! 決着。 それは一瞬で、簡単に揺らぐ虚しい物だった。 水菜抹茶がどういう人間か、 分かってもらえたら嬉しいです。 今回時間かけてねったわりには上手く 描写できませんでした。悔しい。 こういう時に本職の小説家の凄さを痛感します。 もっと上手くやりたかった。もっと頑張りたかった。 てかここまで見てる人いないか。 まあ、この小説おもんないもんな。 コメント、☆,♡、拡散、宣伝等励みになります! 是非してください...。
兎章:裏-序- https://scratch.mit.edu/projects/1289956841 兎章-序- https://scratch.mit.edu/projects/1283712450/ 幕間:師弟と女-序- https://scratch.mit.edu/projects/1279166950/ 己章-序-(一話的な) https://scratch.mit.edu/projects/1277548111/ 小話 龍の所属していた組織のお話は ちゃんと語られるのでご安心を。 ガチ小話 |||が短いのはスクラッチの文字数制限のせいです。