===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第十八話~~~ 「これ、なあに? キュッ、ってすれば、壊れちゃうのかな?」 フランドールが、無邪気に順也の胸元を指さしました。 彼女に見えているのは、物質としての肉体ではありません。万物が持つ「目(弱点)」――プログラムで言えば、その存在をメモリ上に繋ぎ止めている**「メモリアドレス(ポインタ)」**そのものです。 彼女がその「目」を握り潰せば、対象は例外なく、エラーを吐く間もなく消滅(クラッシュ)する。 「(……まずい。彼女の能力は、物理的な攻撃じゃない。システムへの『直接書き換え(オーバーライト)』だ)」 順也の背中を冷や汗が流れます。PC-9821の画面上でも、フランドールが手を動かすたびに、メモリ管理ツールが真っ赤なアラートを吐き出していました。 「フランお嬢様、いけません! その方はお嬢様の客人で……」 咲夜が割って入ろうとしますが、フランドールの周囲に渦巻く破壊的な魔力が、時間の流れさえも歪ませ、近づくことを許しません。 「……いいですよ、フランさん。僕を『壊して』みてください。……もし、できるなら」 「えっ? 本当にいいの?」 フランドールが嬉しそうに右手を握り込みました。 その瞬間、順也の心臓の位置にある「存在のポインタ」に、絶対的な圧力が加わります。 論理の盾:ダミーデータ・インジェクション しかし、順也はただ待っていたわけではありません。 彼の指は、PC-98のキーボードの上で目にも止まらぬ速さで舞っていました。 [System Protocol: Decoy Memory Allocation] Heap Spraying: 実行中 Dummy Address Generation: 65,535個作成 Pointer Redirection: 完了 「(……彼女が狙っているのが『僕の本体』というアドレスなら、その周囲に数万個の『偽の自分』をばら撒けばいい!)」 フランドールが「キュッ」と掌を握り込んだ瞬間、順也の肉体が消滅する代わりに、PC-98の画面上で無数のエラーログが爆発しました。 「あれ……? 壊したのに、壊れてない」 フランドールが不思議そうに首を傾げました。 彼女が握り潰したのは、順也が瞬時に生成した**「ダミーのメモリアドレス」**に過ぎませんでした。順也の本体というポインタは、膨大な虚像のデータの中に紛れ込み、破壊の追跡を逃れ続けています。 「次は、僕の番です。……フランさん、あなたのその『壊したい』という衝動を、全部この曲の中に閉じ込めてあげます」 順也はFM音源のボリュームを最大まで引き上げました。 不規則に跳ね回るベース、壊れたオルゴールのような高音、そして突然訪れる静寂。 ――『U.N.オーエンは彼女なのか?』 「あははは! 面白い! 音がいっぱい、壊れたおもちゃみたいに踊ってる!」 フランドールは、自分を騙した順也に怒るどころか、そのトリッキーな「防御(遊び)」と、自分に呼応するような狂った旋律に、心からの歓喜の声を上げました。 七色の翼を羽ばたかせ、彼女は地下室いっぱいに弾幕をバラ撒きます。 順也はダミーデータを生成し続けながら、その破壊の光景を256色のドットとして、一フレームずつ着実に焼き付けていきました。