===太田順也はzunさんの本名です。 ~~~ZUNさん幻想入り物語 第二十話~~~ 「お嬢様からの計らいです。里までお送りしましょう」 紅魔館の正面玄関。そこには、一頭立ての豪奢な馬車と、御者台に座る十六夜咲夜の姿がありました。 順也は、パチュリーによって「魔導的な最適化(パッチ)」を施されたPC-9821を大切に抱え、客席に乗り込みました。 馬車が動き出すと同時に、咲夜が懐中時計の蓋を弾く音が聞こえました。 瞬間、窓の外の景色が猛烈な勢いで後ろへと流れていきます。物理的な速度ではなく、馬車が走る「時間」そのものが圧縮されている――そんな奇妙な感覚。 「(……システムクロックが加速している。彼女が時間を操作するたびに、僕のPCの時計も数分ずつ進んでいくな)」 順也は膝の上でノートパソコンを開きました。 Windows 95のデスクトップ。背景には、いつの間にかパチュリーが仕込んだのか、魔法陣を模した複雑なバイナリエディタが常駐していました。 「……驚いたな。以前よりも、リソースの空き(コンベンショナルメモリ)が劇的に増えている」 パチュリーの「パッチ」は、PC-98のハードウェア的な限界を魔法でバイパスし、OSのカーネルレベルで効率化を図っているようでした。256色の描画レスポンスはさらに向上し、まるで最新のワークステーションを扱っているような滑らかさです。 「着きましたよ。ここが『人間の里』です」 咲夜の声と共に、時間の加速が止まりました。 目の前に広がっていたのは、紅魔館のゴシックな雰囲気とは打って変わった、どこか懐かしい日本の江戸時代を彷彿とさせる街並みでした。 活気と伝承のバッファ 瓦屋根の長屋が連なり、あちこちから煮炊きの煙や、職人が槌を打つ音が聞こえてきます。 八百屋、呉服屋、そして酒屋。幻想郷の「食」と「経済」を支えるこの場所には、これまで出会った妖怪たちとは違う、地に足のついた人々のエネルギーが満ちていました。 「……ここなら、この世界の『データ』がもっと手に入りそうだ」 順也は馬車を降り、賑わう通りを歩き出しました。 彼の目には、街を行き交う人々の会話が、一種の**「パケット」**のように見えていました。誰が誰と話し、どんな噂が流れているのか。その情報の集積こそが、幻想郷というシステムの「背景(バックグラウンド)」を形作っている。 「まずは、この里の記録(アーカイブ)を探さないとな」 順也は、里の奥にある立派な門構えの屋敷を見上げました。そこには、幻想郷のすべての歴史を記し続ける「稗田家」の家紋が刻まれていました。 PC-98のハードディスクが、新しい知識を欲して静かに回転を上げます。 紅魔館の「幻想」を記述し終えた順也の次なる目的は、この世界の「理(ことわり)」そのものを、256色のドットとFM音源の旋律に変換することでした。