私たちはゾロゾロと、一際広いトラックへと 移動させられた。一周120メートル。 計算したくもないけれど、これを6周も走るという。 園児の短い足には、 フルマラソン並みの距離に感じられた。 伊織先生「では、A・B・Cのグループに分かれて! まずはAグループ、整列!」 伊織先生の号令で、精鋭たちが前に出る。そこには当然のように、大雅くん、一香ちゃん、冬馬くんが並んでいた。彼らから放たれるガチ勢のオーラがまぶしい。 伊織先生「位置について――よーい……ドン!!」 ……速い。さっきの準備運動は何だったのかと思うほどのスピードだ。砂煙を巻き上げ、まるで風のようにトラックを駆け抜けていく。 伊織先生「はーい、ゴーーール! やっぱり一位は大雅くんでした!」 伊織先生の声が響く。案の定、大雅くんは涼しい顔でゴールテープを切っていた。バケモノかな? 伊織先生「次はBグループ、並んで!」 ついに私の番が来た。Bグループ……。正直、私はここにいるのが一番辛い。Bの中ではいつもドンケツ。それなら、Cグループで一位を無双していた方が、精神的にはずっと楽なのだ。でも、なぜか私はいつもこの中途半端に速いグループの最下位に放り込まれる。 伊織先生「位置について! よーい……」 私はギュッと拳を握りしめ、前傾姿勢をとる。 私の作戦はいつも一つ。最初から全力ダッシュだ。 後のことなんて考えない。 伊織先生「ドン!!」 地を蹴って飛び出す。一瞬だけ、みんなの横に並ぶ。 私(いける! 今日こそはいける気がする……!) ……なんて思ったのは、最初の半周だけだった。 案の定、みるみるうちに体力が底をつき、 足が鉛のように重くなる。後ろから一人、 また一人と抜かされていく背中を見送る時の、 あの切なさといったら……。 ようやくゴールに辿り着いた時には、魂が口から抜けかけていた。 伊織先生「はい、全員よく頑張りました。それじゃあ、教室に戻りましょう!」 その言葉が、今日一番の救いに聞こえた。 [教室] 私「はぁぁ……疲れたぁ……。もう一歩も動けないよ……」 教室に戻るなり、私は机に突っ伏した。 遥「だよねぇぇぇ……。足がガクガクするよぉ……」 隣ではるちゃんも、魂が抜けたような顔で頷いている。 ようやく訪れた、待ちに待った休み時間。 教室では、折り紙を折る子や、難しいなぞなぞ本に頭を悩ませる子たちが、思い思いの時間を過ごしている。 遥「あ! 芽衣先生だ!!」 遥ちゃんがパッと顔を輝かせて声を上げた。視線の先には、ふわっとした空気を纏った芽衣先生の姿があった。 芽衣先生は、あの伊織先生とは正反対。 いつもニコニコしていて、お淑やかで、 声も鈴を転がしたように優しい。 まさに理想の先生だ。 私「芽衣先生! こっち来て! いっしょに遊ぼ!!」 私は疲れも忘れて、芽衣先生に駆け寄った。 芽衣先生「あら、二人とも。 ふふ、いいわよ。何をして遊びましょうか?」 私たちはレゴブロックの箱を広げ、 芽衣先生を囲んで座った。 カラフルなブロックをカチカチと組み立てる音と、芽衣先生の優しい笑い声。 さっきまでの地獄のトラック走が嘘みたいに、穏やかで幸せな時間が流れていった。
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